1話①
1章開幕です!
あれから1年半が経過した。
この1年半いろいろ大変な出来事がたくさんあった。
二人は双子のせいか何もかもが同時。
魔力の暴走だって、熱を出すときだって⋯いつの間にか私達テーリア王家の中心は双子になっていた。
王城の一角にある私達の部屋は、常に緊張感に包まれていた。
一人が泣き出せば、もう一人も呼応するように泣き、一人の魔力が昂れば、共鳴したもう一人の魔力も暴走を始める。
夜中に突然、部屋中の家具が浮き上がり、侍女たちが悲鳴を上げる中、オフィーリアとヴァルドやヘレナが必死に双子の魔力を抑え込む。
そんな光景は日常茶飯事だった。
まだあまりにも双子幼いので5,ある程度大きい子供よりも制御が難しいのだ。
エマとアルは生まれたときからのことをすべて知っていた訳では無いが、その後の周囲の会話からすべてを理解しているように思える。
双子は知ったあの誕生の夜、静寂の中で交わされた両親の悲痛な決意も、鑑定師の驚愕の顔も、青いボードに並んだ異常なステータスも、すべて。
そして何よりも自分たちのことも。 長く生きられないかもしれないことも。
普通の人なら絶望するかもしれない。
けれど、双子は違った。
でも、周囲の人が言わないようにしていたし、溢れんばかりの愛情を注いでくれたからなにも気にならなかった。
オフィーリアは憔悴しながらも箝口令を敷き、双子を守ろうとしてくれた。
ヴァルドは涙を流しながら、私達の誕生を心から喜んでくれた。
双子からしたら家族からの深い愛情を感じていたから、予命宣告や双子に迫りくる死の影なんて、日々の幸福の前には些細なことのように思えたのだ。
魔力が高い子供は知力が優れているというが、まさしくそれがアルとエマなのだろう。
脳細胞の一つ一つが超高純度の魔力で活性化されているかのように、私達の学習速度や吸収速度は異常だった。
一度聞いた言葉、一度見た文字は決して忘れず、複雑な概念も瞬時に理解できた。
1歳頃にはちゃんとした言葉を文章で話すことができた。
それこそ下手したら兄であるシリルよりも流暢に話せるかもしれない。
四歳になる兄、シリルがたどたどしく、しかし懸命に学ぶ姿を横目に、私達はすでに王国の歴史書や魔法理論の基礎を読み解いていた。
その知能の高さは、周囲を驚愕させると同時に、その異常さゆえの恐怖を微かに抱かせるものでもあった。
「アル〜!待って!エマをおいていかないでえ〜!」
エマは王宮の庭園でアルに追いつこうと必死で追いかけていた。
「遅いよ。まだなの?エマ?」
アルは先で立ち止まって振り返りエマの方を見た。
とても1歳半とは思えないような話し方をする双子は今一緒に遊んでいるところ。
遊び、といっても、その速度は普通の1歳児の遊びではない。
ステータスに対してまだ肉体が追いついていないとはいえ、その才能や実力は通常の一般人の大人を凌駕する。
アルは風のように駆け抜け、エマはそれを必死に追いかける。
「ねぇ、アルここにきれいなレアグラのはながあるよ!」
「本当だ!」
実は二人にこれがレアグラであると教えたものは誰一人としていないのだ。
私達は、本で読んだ知識と、世界に満ちる魔力の波長から、万物の名を照らし合わせていたのだ。
しかし、はたからみると「なぜ知っているの?」となってしまう。
双子は植物の生命力が発する微かな魔力を感じ取り、それがどの種に属するかを直感的に理解できるのだ。
そんなこんなで楽しい散策が終わると、いきなり両親に呼び出された。
「私のかわいいアルちゃん、エマちゃん。いらっしゃい〜!私の執務室へようこそ!」
そう言って大歓迎してくれたのはオフィーリア。
オフィーリアの執務室は、テーリア王国の政務が執り行われる、本来なら厳格な場所なはずなのに双子が入った瞬間、そこはただの親馬鹿な母親の部屋へと変貌する。
オフィーリアは書類を放り出し、アルとエマを抱き上げようと手を広げた。
「大切な話があるの。あなた達に家庭教師をつけようと思って!」
この異常な知能を持て余さないよう、最高峰の教育をさせてみようという親心だったのだろうか。
だがその目論見は脆くも崩れ去ってしまう。
それから3日後に、オフィーリアやヴァルドが家庭教師用に雇った人たちはすべてがやめてしまった。
ヴァルドとオフィーリアは困り果てていた。
国中から集められた優秀な学者や魔術師たちは、最初は意気揚々と現れた。
しかし、わずか一時間後には、青ざめた顔でアルとエマの自室を飛び出していくのだ。
アルとエマが、彼らの数十年かけた研究成果を瞬時に理解し、さらに鋭い質問で彼らの知識の底を暴いてしまったからだった。
「あの2人は何をやらかしたら、みんなから『私にもう教えられることはありません。』って、全員に言わせられるのかしら?」
私にもう教えられることはありません
オフィーリアは自身の執務室の机に突っ伏していた。
「ん〜?なぜだろうなあ?」
ヴァルドは眼の前にあるソファに力なくもたれかかっていた。
オフィーリアとヴァルドは頭を抱えていた。
誇らしい反面、そのすごさが際立ってしまう。
2人悩んでいると、宰相であるロウェルが口を開いた。
「あの加護の多さやステータスの異常が関係しているとしか思えませんなあ⋯」
オフィーリアの背後で考えながら答えた。
『そうだ!!!』
二人の声が重なる。
ヴァルドとオフィーリアは、何かに気づいたように顔を見合わせた。
実はこの二人には何をやらせても、万能なのでなんでもできてしまうのだ。
勉強だけでなく、芸術、運動、そして魔法。
あらゆる分野において、双子は頂点へ至る道を最短距離で駆け抜けることができてしまう。
加護の力が、双子の全ての行動を最適化し、成功へと導いているかのようだった。
「なあ、ここまで万能すぎるのも面白い!ちょっと政治のことでも教えてみようか!ふたりとも王族なのだし!」
ヴァルドの発言に、執務室の空気が一瞬凍りついた。
「それは、やめたほうがいいと思うわ。シリルがまだしていないから、シリルではなくアルが次の王だと思われてしまうかも⋯」
オフィーリアのヴァルドへの指摘は、王国の安定に関わる重大な問題だった。
いくらシリルが優秀でも、双子のこの「異常さ」の前では霞んでしまう。
第一継承者である兄を差し置いて、弟妹である双子が政治に関われば、必ず派閥争いが起きてしまうであろう。
「それもそうか⋯」
ヴァルドを含め皆もっと困ってしまった。
知能は高いが、見た目や中身はまだ1歳児。
政治には関わらせられない。
かといって、普通の子供の遊びでは満足できない。
双子自身この有り余るエネルギーと知能をどう扱えばいいのか、分かっていなかった。
「一つご提案してもよろしいですか?」
ロウェルがゆっくり口を開く。
「なあに?言ってみてちょうだい。」
オフィーリアが、藁にもすがる思いで問いかける。
オフィーリアの期待をロウェルは裏切らなかった。
「今の両殿下に足りていないのは知識ではありません。経験です。医師ではない私が言うので信憑性はあまりありませんが、魔力を消費すれば、もっと長く生きられるかもしれません。」
長く生きられるロウェルの言葉に、オフィーリアとヴァルドの目の色が変わった。
「長く生きられるかもしれない。」ロウェルのこの一言こそが、彼らが最も求めていたものだったから。
魔力の暴走は、膨大な魔力が体内に留まり続けることで起きる。
ならば、それを計画的に、かつ効率的に消費させれば、肉体への負担は減り、延命に繋がるかもしれない。
「そうね!でも、まだ1歳半よ?スピードと体力はまだステータスの値に体が追いつけていないわ。そのへんはまだ普通の1歳児よ。」
オフィーリアの母らしいごもっともな意見だった。
いくら魔力が高くとも、骨格や筋肉はまだ未発達だ。無闇に身体を動かせば、魔力に肉体が耐えきれず、自壊してしまう恐れがある。
「だったらこういうのはどうだ?リカ。騎士団で剣の稽古をつけてもらうんだ。そうして頃合いを見計らって実践に出す。魔物討伐とかのな。」
ヴァルドがオフィーリアに問いかけた。
「それはとてもいい案だわ!でも、魔物討伐は行かせないわよ?」
オフィーリアはヴァルドの「剣の稽古」という意見には賛成らしいが、「魔物討伐に行く」という意見には反対のようだ。
「そうだな。魔物討伐はなしにして稽古だけならどうだ?」
ヴァルドはオフィーリアの意見に賛成だ。
「いいわよ!それでいきましょう!」
2人の意見はまとまった。
オフィーリアの横でロウェルも静かに頷いていた。
剣技であれば、魔力を身体強化に回しつつ、節度を持った消費ができる。
もしも実践に出れば、さらに効率的な魔力消費と、何より「経験」が得られる。
オフィーリアとヴァルドは、この案に未来への一筋の光を見出した。
それからしばらくして、騎士団長が報告に来た。
現騎士団長ガリウス・フォン・グランヴェール公爵は、王国の盾と称される武人だ。
彼が直々に指導を買って出たのである。
「両殿下は普通の近勝てた試がございません衛騎士団員には余裕で勝てます。が、しかし、私や副団長には勝てた試しがございません。」
との報告だった。
両親は喜んだ。
やっと二人が真剣にうち込めるものが見つかったのだと。
万能すぎて何をしても頂点が見えてしまう双子にとって、騎士団長という「超えるべき壁」が存在することは、初めての、そして最高の「娯楽」であり、「挑戦」だった。
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