6話
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元気になった双子は今日も禁書庫で古書漁りをしていた。
(ねえ、アル今日で通い始めて何日目かしら?)
山積みになった古書の影で、エマがページをめくる手を止めずに念話を飛ばす。
(ん〜?9日くらいじゃないかな?)
(そろそろ共有魔法使ってもいいんじゃないかしら?)
共有魔法。それは二人がこの九日間で編み出した、想像魔法の極致の一つ。
双子の間で、あらゆる情報、記憶、魔法陣、そして感覚までもを完全に同期させる禁忌の術式だ。
(そうだね。どこらへんまで読んだ?エマ?僕は全部だ。今はひましてたからその本の中から気になった本をピックアップして考察していたところさ。」)
アルは余裕そうに答え、最後に鼻で笑った。
一歳児の愛らしい顔に不敵な笑みが浮かぶ。
(あら、アルも?奇遇ね私もよ。)
念話の中で、二人の意識が不敵に重なり合う。
⦅共有魔法⦆
そう唱えた瞬間、禁書庫の空間が歪むほどの魔力が二人の間を駆け巡った。
膨大なデータが濁流となって脳内に押し寄せ、細胞の一つ一つに刻み込まれていく。
ステータスは計測不能な域まで急上昇し、取得スキルのリストは視界を埋め尽くして流れていく。
⦅うっ!やっぱりこれはすごい⦆
さすがは双子、息ぴったりだ。
この魔法弱点が一つだけ存在する。
情報量が多すぎると脳が焼かれるような頭痛に耐えなくてはいけないのだ。
「転送魔法!重複してるのほとんどないね。ありがとうエマ。」
「本当ね。こっちこそありがとう。アル」
九日間の読書量が、一瞬にして二倍の価値へと跳ね上がる。
二人はようやく顔を見合わせ、満足げに頷いた。
「ねぇアル」
「なあに?エマ」
「考えていることおんなじでしょ」
「多分そうだね」
得たばかりの力を試したい。
『転移魔法!』
座標を固定し、空間を切り裂く。
「う!重いエマ!僕の上に落ちないで!」
「え?わーーーーー!ごめんアル!」
「全くもう」
「着いたわね地下訓練施設に」
王城の端、地下深くに隠されたその施設。
冷たい石壁に囲まれた広大な空間は、全力の魔法を叩き込むには最高の舞台だった。
「エマ!アル!やっぱりここだった!」
聞き慣れた、けれど少し焦りを含んだ声。
「お兄様?どうしてここが?」
「君たちがいないと王宮の者たちが騒いでいてね。みんなに見つからないってことは禁書庫かここだろうなと思ってさ。だって君たちが誘拐なんて考えられないし。」
なんといつの間にか王宮内はちょっとした騒ぎになっていたらしい。
「まあ、念の為探索魔法を王宮敷地内全てにかけてみたらここだったってわけ。」
双子は目を見合わせた。
王宮はとても広いのにそれすべてに魔法をかけたというのか。
「みんなには僕とかくれんぼ中だから探さないで!って言ってあるから当分は捜索隊は出ないだろう。」
どうやらシリルがうまいように言ってくれているらしい。
「にしても本当に凄いねアル。エマ。魔力の質が瓜二つだよ。魔力だけでどっちがアルでどっちがエマ?って聞かれたら絶対にわからないよ。」
シリルが双子を見比べながら言った。
「そんなに似てるんだ。」
ぼそっとアルが呟いた。
共有魔法の影響か、二人の魔力特性はもはや一つの生命体のようになっている。
『お兄様!大好き!ありがとう!』
「うんうん。よしよし。」
そう言いながら双子の頭を撫でるシリルの手は温かかった。
けれど、その指先は微かに震えていた。
心配していたのだろう。
『転移魔法!』
瞬時に訓練場の中心へと移動する三人。
「お兄様もしものことがありますから防御魔法かけといてね!」
「そう言うと思ってもうかけてるよ。強度的には君たちの魔法がかすめるくらいなら問題ない。それに、まともに受けたらまずそうだったから魔力で強化してあるし。」
シリルは苦笑いしながら、自身の周囲に重層的な障壁を展開していた。
「さっすが!お兄様!」
エマはシリルの行動力の速さに驚いていた。
「ああ、そうそう。アル、エマ。」
シリルはいきなり何かを思い出したようだ。
『なあに?お兄様!』
双子が首を傾げた。
「君たち怪我したら僕のところにおいで。アレを使って直してあげるから。あと、君たちが危ないと思ったら防御魔法君たちにも展開するからね。」
双子は内心、冷や汗をかいた。
(アル、絶対に怪我しちゃダメよ。あのアレを使わせるわけにはいかないわ)
(わかってる。安全第一だ)
「わかったわ!」
元気よく返事をした直後、アルが前へ出た。
「ねぇエマ僕からしていい?」
「いいわよ。でも5回までね。この訓練場にかけた防御魔法が持たないから。」
「お兄様!エマ!防御魔法かけた?」
「ええ!」
「ああ!」
アルの瞳が、青白く発光した。
「『極地魔法・火弾』『極地魔法・水弾』『極地魔法・風弾』」
略式詠唱。
本来なら数分の儀式を要する最高位魔法が、一瞬で具現化する。
火弾は太陽の如き熱量を放ち、水弾は絶対零度の圧力で空気を凍らせ、風弾は空間を削り取る真空の刃となった。
ドォォォォォン!!!
訓練場全体が、巨大な鉄槌で叩かれたように激しく揺れた。
「アル!やめろ!」
シリルの叫び声が響いた。
その顔は蒼白で、額には大量の汗が流れている。
「お兄様どうしたんですか?」
アルは振り返ってシリルを見る。
その目には何が起こったのかよくわかっていないようだ。
「防御魔法のかけ直しだ!この訓練場全体に!!もう一発放ってみろ僕達は生き埋めになるぞ!僕が防御魔法を簡易的に展開しているから崩落していないんだ!」
アルは言葉を失った。
見れば、頑丈なはずの石壁には無数の亀裂が走り、天井からは砂塵が降り注いでいる。
シリルの足元は魔力の酷使でがたがたと震えていた。
「え?ん?⋯しまった!防御魔法!」
自分の放った力が、これほどまでに訓練場を壊そうとしていたのか。
全能感という名の麻薬に酔っていたアルは、ようやく現実に引き戻された。
「エマ!」
「おにいしゃま?」
エマの様子がおかしい。
彼女の魔力が暴走しかけているのだ
「わたち、怖かったの」
強大すぎる力、壊れていく訓練場。
その恐怖が、エマの精神を限界まで追い込み、魔力暴走を引き起こそうとしていた。
「ああそうだな⋯うんわかった!安眠魔法」
シリルは瞬時にエマを抱きかかえ、魔法をかけた。
エマの意識がふっと沈み、嵐のような魔力が静まっていく。
「さあ⋯⋯戻ろうか。でも転移魔法は使えないな。エマがこんな状態だとねぇ⋯ってアル?どうしたの?」
「ごめんなさい。僕周りのこと考えてなかった......」
アルはボロボロと涙をこぼした。
自分の慢心が、エマを怯えさせてしまい、大好きな兄を疲弊させた。
「そうだね⋯でもこのまま帰ると大騒ぎだ。まだ日が暮れるまでには時間があるね⋯どうしようか?」
「少しあるこうか?アル」
シリルは片手でおんぶしているエマを支え、もう片方の手でアルの小さな手を力強く握った。
木々の間を抜けると、そこには夕暮れ時の淡い光が差し込んでいた。
「お兄様、足、震えてる⋯⋯」
「ああ、これくらい平気だよ。」
シリルは優しく笑った。
「力はね、誰かを守るためにあるんだよ......アル今日、アルは自分の凄さを知ったでしょう?それは悪いことじゃないんだ!いいことなんだよ。でもねだからこそ次は、その『凄いところ』をどうやって『優しいとこを』に変えるか、一緒に考えよう?」
シリルの背中は、一歳児から見れば山のように大きく、そして頼もしかった。
「うん⋯⋯」
アルは小さくうなずいた。
「近くに綺麗な湖があるんだ。そこで少し落ち着いてから帰ろうか。エマも、そこで目が覚めたらきっ
と喜ぶよ。」
黄金色に染まる森の道を、三つの影がゆっくりと進んでいく。
「静かだけれど幸せな時間だね。あぁこんな時間が続けばいいのになぁ~」
シリルはつぶやいた。
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