7.家庭裁判所への道
さてさて、またもや、あの過度に不幸な結婚生活の再現ドラマは、ご勘弁ください、と思っているうちに、日は過ぎて行き、資料を集めて、銀行に二度目のご相談に行った。
言われた通りに苦労して手続きをしたら、アッと言う間に、郵便局からキャッシュカードが届けられ、嬉しいような(それは嬉しい)、悲しいような(こんな簡単なことだったのか……)複雑な気分であった。
一度目はあれほど熱心だった同じピンク系制服の女性、どこかで熱が冷めたものか、そこそこに相手しようという気配が濃厚に伝わってきた。
一つには、この私に、50年も守って来た「牧野えり」名義の通帳を名義変更する意思が無いとわかったからであろう。
私の望みは、「牧野えり」は、襷原絵理(仮称、結婚時の名前)と同一人物である、と銀行にだけわかるように、メモをつけて欲しいということだった。
同一人物である証拠は散々に見せているのであるから、ささやかな希望だと思うのだが……
「銀行にできることは、戸籍名への名義変更だけです。キャッシュカードは、お客様が勝手に取り寄せられたもので、当行とは関係が無いことですし。当行は、何の犯罪にも加担していない」
おいおい、突然何を言い出す。
50年にも渡り、お得意様であり続け、何の瑕疵もない私なのに。
50年前に口座を開く時にも、きちんと身分証明をした上で、「屋号」として、「牧野えり」口座を開いたものである。
その記録をきちんと残していないのは、銀行の方の落ち度ではないか。
と思ったけれど、性格温厚にして、心穏やかな私は、相手の非を責めない。
「区役所か市役所に行って、ここにお持ちくださった資料を見せて、「牧野えり」様と「襷原絵理」様が、同一人物だという証明を求められてはいかがですか」
なるほど、そうきたか。
「その証明を持って、当行に来られれば、当行も同様な証明をいたします」
「わかりました」と私は言った。
「ちょうど、書類一式もお持ちなのですから、この帰りにでも、役所に寄られて、手続きなさってはいかがでしょうか」
「それは、いい考えかもしれません」
口ではそう答えたが、全然いい考えだとは思っていなかった。
んなこと、できる訳がないやろう。
人様が大勢いる役所の真ん中で、「実は、この名前は、私が結婚していた時のもので、こっちの名前は、私が自分で作ったもので……」なんて、やれるわけは無かろう。
知っている人だっているかもしれないのに。
突然、頭が変になった人だと思われてしまうのが、オチ。
または、えええええ!!
そんな、「牧野えり」さんじゃなかったの?
どういうこと??
と一挙に不振の目で見られてしまう。
私にできる道は、ただ一つだけ。
この道は~、いつか来た道~
を再び通るしかないということだった……




