6.略奪結婚
毎晩仕事が終わると、つまり社員通用口を出ると、目の前に相手の男が待っている……
それも、待っていてやったという態度である。私がお願いして待っていてもらったようではないか……
それまでにも、奇妙な話は耳に入っていた。珍しい苗字であるから、仮に襷原ということにしよう。
「襷原が、婚約指輪を買ったらしい」という噂が聞こえてくる。
それがどうした。
「襷原は、いいやつやで」と話しかけてくる他の売り場の男性あり。
何が言いたい?
「これ、襷原さんから」と宝飾品売り場の女性がメモ用紙を持ってくる。
一体、何?
「僕は毎日君を思っている。君も?」と汚い字で書かれている……
ンゲー、何よ、これは?!
気持ち悪~~。
確かに、ハンサムと言えなくもない男性で、品行方正な感じもしないでもないけど、どこか気持ちが悪い……
相手に恥をかかさぬように、一緒に飲みに行ったりもしたが、毎晩待っていられるのは、居心地が悪いというよりも、気持ちが悪い。
食堂で一緒になるおばさん達に、「毎日待ってられるのは、気持ちが悪い」としきりに訴えたが、「ええやないの、女は好かれて何ぼなのよ。あんまりのろけんといて」とまともに取り合ってもらえなかった。
思えば、ストーカーなどという概念の無い時代だったのだ。
忘れもしない新入社員歓迎会。
飲み過ぎた私を「僕が送って行きます」と当然のように申し出た襷原氏。
私も送り届けてもらえるものと安心していた。
まさか、縛られた上にレイプされるなんて、思っても見なかった。
その上、写真を撮られて、脅迫されるなんて。
物凄く正直に言えば、ロマンチックに求愛でもされたら、応えてもいいかな、ぐらいには思っていた。
付き合ってあげても、よろしくてよ、ぐらいには思っていた。
驚天動地。
どうしていいのかわかりません。
あまりにも事態が把握できる範囲を超えたので、まず、誰にも知られたくない。
時効だと思うので書いているけど、今でも恥だと思っている。
責められて当然の相手を責めずに、予測できなかった自分を責める。
辱めを受けた自分を責める。
こんな目に遇ったなんて、誰にも知られたくない。
「俺にはやくざの知り合いもおるから、俺と付き合わんかったら、この写真を親兄弟親戚や職場にばらまく」と脅された。
君のことが好きやから、つい襲ってしもた、ごめんね。
せめて、そういう相手だと思いたかった。
現実は、厳しい。
そこから、襷原が、うちのあの母に挨拶に訪れ、あの母に大いに気に入られ、「娘さんをください」「はい、あげましょう」という話ができあがった模様。
ある晴れた日の朝、襷原とあの母がせっせと荷物をまとめて引っ越しトラックに運び込み、ついでのように「結婚したくない」と言っていた私も運び込まれてしまった。
元の姓に戻る暇もなく、六ヶ月は入籍に抵抗したが、ストーカーはDVでもあって、「結婚せんから腹が立つのや」と言われ、精も根も尽きて、入籍した。
そこから、「子供がおらんから腹が立つのや」までは近い道のりだった。




