第四話 えぇ、もう、世界一大好きです
トワレのベビーベッドならぬマタニティーベッドを作る為、リベルタは最上級の布を買いに問屋に来ていた。
いつもマジックバッグ用に大量購入をしていることもあり、店員とは顔見知り。
今日も一人、ベテランの女性が付いてくれている。
本当はシャイネンとデートの日であったが、トワレの為に布を見たいと言えば、快くついてきてくれた。
「シャイネン先生、これなんかどうでしょう?」
手触りの良いシルクをリベルタが手に取った。光沢もあり、一目で最高級品と分かる。
しかし、シャイネンは首を傾げた。
「リベルタさん、今日は、ベッドのマットレス部分の素材を探しに来たのですよね?」
「はい」
「シルクは、シーツなどには良いでしょうが、耐久性の面で弱いのではないでしょうか?」
この世界には、既にスプリングが内蔵されたマットレスが存在している。
その上に羽毛布団などを重ねて使用する為、寝心地はかなり良い。
しかし、金属のバネを使用している為、あまり柔らかい布で包むと破れる恐れがある。
シャイネンが言うように、既存の構造なら、シルクは適した布地ではないだろう。
「そうなんですけど、ゴワゴワしているのも、嫌だなって思って」
現在リベルタが考えているのは、自身が前世で愛用していた高反発マットレスに近いものだ。
体が沈み込んだ分、同じ圧で押し返してくれることで、腰などへの負担が軽減される。
妊婦の体を優しく支えてくれる最高の相棒になるだろう。
また、スプリングと違いクッション性の高い素材を中に入れる為、布が破れる可能性は少ない。
シャイネンとリベルタの話を横で聞いていた女性店員は、
「田舎だと、マットの代わりに布に藁を仕込んだものを使ったりしますが、それでも綿素材が多いですね。安いですし」
とアドバイスをくれた。
「あと、暑い夏などは、リネンもいいですよ。さらっとした肌触りで、通気性が抜群です。それに、同じ糸でも織り方によって手触りや丈夫さも変わってきます」
店員は、糸の素材になっている植物や動物の毛の実物なども取り出して丁寧に説明をしてくれた。
ただ、あまりに種類が多すぎて、今日だけで判断を下すのは無理そうだ。
一生懸命覚えた内容をメモするリベルタに感心して、シャイネンは愛し気に目を細める。
「リベルタさんは、本当にトワレさんが大好きなんですね」
現在、リベルタの研究内容は、親友の為にマタニティー一色になっている。
学校に提出した論文の内容も、妊婦と赤ちゃんに対する事ばかり。
学園長からは、早くマジックバッグの更なる改良を進めるようにとお叱りを受けているほどだ。
しかし、リベルタは、本当は声を大にして言いたい。
――一番大好きなのは、先生です。
流石に他人が横に居る時には言えなく、この数年で、リベルタも大人になったという事だろう。
ほのぼのとした婚約者達のやり取りを見ていた店員は、ふと、思い出したように、
「先ほどの絹は、ウェディングドレスには最適ですよ」
とリベルタに言った。
その言葉に対して、リベルタは、
「あ……」
と一言口にしたまま動かなくなった。どうやら何かを思い出したらしく、必死に思考を巡らしているらしい。
その様子に、思い当たる節があるシャイネンは、
「リベルタさん、まさか、忘れていたわけではないですよね?もしそうなら、かなりショックなのですが」
と、わざとらしくいじけて見せた。
図星を突かれた前世喪女は、目をウロウロとさせて微妙な笑いを浮かべる。
「えへっえへっえへっ」
頬を引きつらせながら変な笑い声を上げるリベルタは、一生懸命言い訳を考えているようだ。
普通なら百年の恋も冷めそうなぐらい挙動不審な姿だが、彼女の全てを丸っと受け入れているシャイネンは、そんな姿すら可愛いなと思っていた。
ただ、既に結婚式まで一年を切っている。流石に、トワレ一色では、シャイネンも困るのだ。
「ふぅ……、あと一年。卒業と同時に結婚し、伯爵家の跡継ぎとしてお披露目もする予定だったはず。トワレさんの事で夢中になり過ぎて、私を忘れては悲しいです」
「忘れるなんてあり得ません!毎日絵姿を拝んでから、眠りについているほど毎日先生を崇め奉っています。えぇ、もう、世界一大好きです」
結局大声で愛を叫んだリベルタは、店に居た全員の視線まで集めてしまう。
その事に気付いたリベルタは、
「あ……すみません。うるさくしてしまって」
と、真っ赤な顔で頭を抱えてしまった。
リベルタを見ていた周りの人々は、その後、シャイネンを見て変に納得したように頷き始めた。
コレだけの男前なら仕方ない。そんな空気が店内に流れ始め、シャイネンの方がいたたまれない気持ちになっていた。
新連載「悪役令嬢に祝福のキスを」を始めました。登校時間は午前7時です。今度は、目の前で幼馴染を殺された少年が、時を遡り彼女を守るお話です。




