第三話 それじゃ、只のベッドじゃない!
ベッド一つとっても、リベルタとトワレの意見は全く違う。
何でも付け加えたいフル装備推進派の転生喪女と質実剛健をモットーとするミニマリストならぬドケチリスト。
相容れる部分は、何処にもない。
しかし、そこで力を発揮するのが、リベルタの母フローラだ。
「リベルタ、赤ちゃんを産むのも育てるのもトワレさんよ。彼女が本当に欲しい物だけを作るべきなの。そして、トワレさん、甘えられる時は、甘えるべきです。確かに貴女は手際がいいし、頭もいい。でも、赤ちゃんは、突然温かなお腹の中から外界へ出てくるの。少しでも心地よく過ごしやすい環境を作ってあげるのも親の役目と言うものよ」
人生の先輩であり、子育ての経験者であるフローラに言われれば、年若いリベルタ達など黙るしかない。
「分かったわ、お母様。それで、ベッドに乗ったまま走行できる車輪は付けていいかしら?」
「リベルタ、貴女、今の話聞いていたのかしら?」
返事だけは良いが、結局強引にマイウェイを貫こうとするリベルタに、フローラはため息をつく。
「ふぅ、全く誰に似たのかしら」
リベルタの両親は、いたって普通の人間だ。
確かに緑の手を持つフローラは、植物の品種改良に関しては、その名を知られる人物。
そして、夫のカバロは、干上がった大地すら潤してしまう水魔法の使い手だ。
二人がタッグを組めば、農作物で圧倒的優位を保つことが出来る。
ただ、二人の頭は特に優れているわけでもなく、コツコツと地味に地道に領地経営を頑張って来た努力の人だ。
馬の名産地として知られるのも、放牧に適した環境づくりを長年にわたって続けてきたからこそ。
決して魔法でチチンプイプイと一朝一夕で成し遂げたのではない。
だからこそ、不可能を可能にしてしまうリベルタの未知なる能力に、感動もするが危機感も感じる。
正直、騙されやすさなら天下一品の我が子を、どうやって守るべきなのか頭を悩ませていた。
しかし、今では手放しとは言えないが、しっかり者のトワレと信頼できる婚約者のシャイネンが両脇を固めて暴走しそうになるリベルタを止めてくれている。
――私一人では、荷が重すぎたわ。
ダメと言っても、リベルタは既にテーブルに置かれた紙にアイディアを描きなぐっている。それをトワレが、横に置かれた椅子に座って、色々とダメ出しをしてくれていた。
そして、暫くの間、リベルタは溢れんばかりのアイディアを出し続け、そのほとんどを却下されていた。
「お母様とトワレが許可を出した物しか作れないなんて、横暴だわ」
とうとう我慢の限界が来たリベルタは、床に膝をついて頭を掻きむしり、絶望を全身全霊で体現し始めた。
「リベルタ、何度も言うけど、貴女が作った便利道具は子供のヤル気を育てる前に摘んでしまうくらい至れり尽くせり過ぎるのよ」
お腹を摩りながらトワレは、我が子をキャンセル界隈女子の手から守ろうと必死だ。
何せ、リベルタには、風呂キャンから浄化魔法を覚えたという前科がある。
面倒なことを省くには、恐ろしい程の能力を遺憾なく発揮してしまうのだ。
生まれながらにリベルタの便利道具に囲まれて育ってしまえば、赤子はきっと、指一つ動かさなくなってしまうだろう。
とりあえず、リクライニングできるベッドに関してのみ、かなりの制限を設けられたうえで製造の許可が下りた。
一つ、柵でベッドの周りを全てを囲ってトワレを監禁しない事。
一つ、ベッドを自走させない事。
一つ、あくまでも補助であり、全てをベッドの上で完結させようとしない事。
まだま制約は沢山あるが、特に重視させられたのは、この三つだ。
「それじゃ、只のベッドじゃない!」
リベルタはかなり不服なようだが、トワレの、
「気持ちは嬉しいけど、それは、あなた自身の時にやって」
という至極当たり前な意見の前に撃沈した。
「分かったわよ。自分の時には、思い切りやるもん」
こうして、リベルタは、プリプリしながら材料集めに研究室へと一人去っていった。
残されたトワレとフローラは、特大の溜息をつく。
「トワレさん、本当にごめんなさいね」
「いえ、私の事を思ってだという事は、十分に分かっていますから」
リベルタに会うまでのトワレは、全て自分で出来ると思ってきた。
母の代理が務まるよう料理をし始めた時も、火傷しても手を切っても父には黙ってきた。
だから、頼られることはあっても、自分が人を頼ることは極端に苦手だった。
助けてと口にすることに慣れていないのだ。
しかし、リベルタは、トワレが助けてと言う前にズカズカと入り込んでくる。
そこに助けてやろうなどと言う上から目線はない。
ただ、赤ちゃんが生まれることが楽しみで仕方ないのだ。
「私は、リベルタだから素直にお願いできるんだと思います」
共に苦楽を共にしてきて長い時間を経た二人は、本当の家族のような存在になっていた。
幼妻、姫担モブ令嬢、共に完結となっております。
未読の方は、ご一読頂けると泣いて喜びます。




