第二話 何もかも全自動でやろうとしないで
「先ずは、生まれて直ぐに使う物から考えないと。トワレ、貴女、何か欲しい物はない?」
リベルタに聞かれても、トワレの今までの人生に、赤子が周りに存在したことがない。
もし彼女に妹や弟がいれば、リベルタを頼る前に全てを揃えていたことだろう。
「欲しいものと言われても……」
困った顔で首を傾げるトワレの横で、二人を見守っていたフローラが手を挙げた。
「リベルタ、赤ちゃんが生まれる前に、まず、妊婦さんを楽にしてあげることを考えたらどうかしら?」
フローラは立ち上がると、トワレの傍へ行き、まだ目立たないお腹を見つめながらほほ笑んだ。
「このお腹、徐々に大きくなるのよ」
「お母様、それぐらい、私知っているわ」
「じゃあ、リベルタ、生まれた赤ちゃんの平均体重が三キロ前後という事は知っているかしら?」
フローラの質問に、リベルタは赤ん坊を抱くようなしぐさを見せて上下に腕を動かした。
どうやら、持った時の重さを想像しているらしい。
「ん~、分からないけど、猫一匹くらいの重さかな」
「そうね。あながち間違いじゃないけれど、それが二人分。しかも、それ以外もろもろ含めて、母親の体重は十キロから十五キロくらいは増えるのよ」
「そんなに!」
リベルタは、自分のお腹を見た。
ただ、胸が大きすぎて見えなかった。
もし、自分のお腹に胸以外に十五キロも重さが増えたら、立ち上がれるかすら分からない。
それくらい、胸が重いのだ。
「お母様、どうしよう。私、赤ちゃん産めないかも」
「今は、貴女の心配をしている場合じゃないの。トワレさんの体を、少しでも楽な状態になるようにしてあげないと」
「そ、そうよね。そうなると……」
リベルタは、胸と腹に押しつぶされそうになっている自分を想像した。
そんな状態で、ベッドから体を起こすことは出来るだろうか?
「分かったわ、お母様。今、トワレに必要なのは、動くベッドね」
リベルタの頭の中に浮かんだのは、介護ベッド。
それなら、背中部分を下から押し上げることで、上体を起こすことが出来るはず。
しかし、基本の形を知らないフローラは、娘のアイディアの全体像を想像することすら出来ない。
「貴女の発想に付いていけないお母様が悪いとは思うのだけど、一度説明して貰えるかしら?」
一人立ち上がり材料集めに部屋を飛び出そうとしていたリベルタは、口を尖らせて振り返った。
「後でもいい?」
「だめよ。私達も協力して、本当に必要なものを作らないと」
「ん~~~、分かった」
渋々引き返してきたリベルタは、テーブルの上にあった本を丁度真ん中から開いて、
「コレが、普通のベッドの状態。それで、頭と背中の乗った部分をこうして下から持ち上げると」
リクライニングする状態を本の半分を持ち上げることで表現してみたのだが、どうもフローラとトワレの反応が良くない。
「え?どこか、変?」
「いえ、変ではないのだけれど、ただ持ち上がるだけじゃ、その坂になった部分からずり落ちるのではなくて?」
フローラの意見に、リベルタは、
「あぁ、周りに柵を付けて、それを持てばいいわ」
と、当たり前のように答えた。
それを聞いて、今度はトワレが手を上げる。
「私、ずっと檻の中に入れられるってこと?」
確かに、四方を柵で囲まれたベッドの中に寝かされて、外に出してもらえなければ、それはもう、監禁と言って良い。
ここまでベリッシモ伯爵家で過剰なお世話を受けてきたトワレは、顔を引きつらせている。
「全部囲わなくても体を支える部分だけ持ち手を付ければいいし、柵も取り外しできるようにすれば良いんじゃないかな」
リベルタは、白い紙とペンをゴソゴソとマジックバッグから取り出し、図面を描き始める。
それをフローラとトワレも横で確認しながら、色々と注文を付けていった。
その時トワレがリベルタに口酸っぱく言ったのは、
「私、少し補助をしてもらえるだけでいいの。何もかも全自動でやろうとしないで」
という事だった。
なにせ、キャンセル界隈女子のリベルタに任せると、洗面から歯磨きまで寝たままでされそうな勢いなのだ。
「え~、楽なのに~」
自分の理想ベッドを作ろうとするリベルタに、母フローラが育て方を間違ったと反省するのも致し方ない事で合った。




