第一話 その件、私に任せていただけるかしら?
リベルタの毎日は、幸せに満ちていた。
何故なら、結婚後クルーガーと二人暮らしをしていたトワレが、妊娠を機にベリッシモ伯爵家で生活するようになったからだ。
母を早くに亡くしたトワレは、実家に帰っても仕事に明け暮れる父親しかいない。
親戚の女性に手伝ってもらおうかと話も出ていたが、そこで手を挙げたのがリベルタの母フローラだった。
「その件、私に任せていただけるかしら?」
娘同様トワレの事が大好きなフローラは、他の者にトワレと赤子の世話を譲るつもりはないらしく、あっという間に客室を妊婦用の部屋へ変えてしまった。
「このようなご迷惑をおかけするわけには……」
必死に断るトワレを黙らせたのは、フローラの一言だった。
「貴女は、私にとっては娘同然。こんな時ぐらい、甘えなさい」
胎児が双子だと分かって以来、より強い不安を感じていたトワレは、ポロポロと涙を流してフローラに抱きついた。
「ありがとうございます。ベリッシモ伯爵夫人」
「あら、フローラ母さんと呼んでくれても良いのよ?」
悪戯っ子のように笑うフローラに、
「流石にそれは。では、フローラ様と呼ばせていただきます」
とトワレ特有の律義さを見せた。
確かに、トワレにとって母親は、生母只一人。いくら大好きなフローラでも、母とは呼べなかったのだろう。
それを分かっているからこそ、フローラは、
「あら、残念。では、フローラ様でよろしくね」
と微笑んだ。
そして、トワレがここに住むという事は、クルーガーも引っ越してくるという事。赤子と父親を離すことなど出来ないからだ。
しかし、彼の緊張は止まることを知らない。なにせ、ベリッシモ伯爵家の研究室へ来るのと、同じ屋敷で寝食を共にするのは訳が違う。
「俺、胃に穴が開かないかな……」
しかし、彼の心配は、現実のものとはならなかった。
何故なら、トワレの代わりをクルーガーが担う事になり、普段の倍働かねばならなくなったからだ。
国外への出張も多く、帰って来ても倒れるようにベッドへ寝ころび鼾をかく。
父となる男は、それでも妻と子供の為に全力で頑張っていた。
そして、全ての仕事から解き放たれてしまったトワレは、暇になってしまった。
身の回りの世話は、伯爵家の侍女達が競うように行ってくれる。
一度など、頼むから食事くらい自分で食べさせてくれと訴えたほどだ。
母となる身で、あーんと口を開けさせられるのは、何よりも恥ずかしかった。
「別に、そんなに気を使わなくても、やって貰えばいいのに」
キャンセル界隈女王リベルタは、餌を与えられる雛鳥のような行動に特に疑問を持っていないようだ。
「私なら、素直にあ~んて口を開けるわ!」
「なら、私の代わりに食べさせてもらいなさいよ」
「だって、皆、私には、やってくれないんだもの」
話し合っても平行線どころか、ドンドン離れて行ってしまうリベルタとトワレの価値観。
もう人間と思ってはいけないのかもしれない。
ただ、一つの事において二人の意見は、全くの同じようだった。
「トワレも時間があり余っているようだし、一緒に、ベイビーの為の便利道具を考えるのはどうかしら?」
「私も、それを言おうと思っていたところよ」
なにせ、ベリッシモ伯爵家には、何処に出しても恥ずかしくない自前の研究所がある。
施設は国立研究所にも劣らない上に、歩いても散歩圏内。
マジックバッグも化粧品も、まだまだ改良したりない二人が、じっとしているはずないのだ。
しかし、ワクワクが止まらない二人の横で、赤ちゃん用の服を毛糸で編んでいたフローラが、編み棒を置いてパンパンと手を叩いた。
「貴女達、一番大事なのは赤ちゃんよ。一生懸命になり過ぎて、もしもの事があったらどうするの?」
確かに一理ある意見だが、既にリベルタの頭の中には、赤ちゃん用グッズのアイディアが溢れてしまっている。
「お母様、それでは、デザインをこの部屋でするのはどうでしょう?お母様の意見も聞きたいわ!」
リベルタは、前世の研究室で学んでいた。何かを成し遂げるには、上司を巻き込むのが一番だという事を。
「え?私の意見?」
「えぇ。だって、本当に子育てをしたことがあるのは、お母様だけですもの。ね?いいでしょ?お母様」
リベルタがポヨンポヨンの胸元で両手を組んで可愛くおねだりすると、さっきまで怖い顔だったフローラの目尻が下がった。
「そういうことなら、仕方ないわね」
娘の掌でコロコロされるのも悪くない。そう思ったフローラは、笑いながらリベルタの意見に従う事にした。
なんと、第五部開始を前に、総ptが70000超えました!
全ては、読んでくださった皆様のお陰です。
今回は、楽しく明るくマタニティーとウェディング準備のお話を書けたらと思っています。
本の出版に関しては、来年になると思います。
それまで、コツコツ更新を頑張りますので、応援していただけると嬉しいです。




