第三十一話 後編
フリーデン王国への帰路、肝っ玉母さん確定の妊婦とキャンセル界隈女王が途切れることのない会話を続けていた。
「ねぇ、トワレ。先ずは、私達の赤ちゃんの為に、赤ちゃん用品を作る必要があると思うの」
鼻息の荒いリベルタの頭の中には、前世縁のなかったベビー用品専門店のCMソングがグルグルと回っている。ベビーベッドにベビーカー、着脱しやすいベビー服。その創作意欲は尽きることがない。フンスフンスと鼻息の荒い親友を前に、妊婦であるトワレの方が落ち着いている。
「私達のって、一応、パパはクルーガーだから」
笑いながら訂正するトワレにリベルタは、
「一応ね、一応」
と相槌を打った。
しかし、彼女の猪突猛進さは、多少の事では止まらない。
先ずは、手短にあった紙にスラスラとアイディアを描きなぐり、あーでもない、こーでもないと改良を加えていく。これは、下手をしたら育児にクルーガーを参加させない勢いだ。
リベルタが最初に構想を練ったのは、ベビーベッドだった。上下に開閉できる枠や、移動を可能にするキャスターは、この世界にはまだ存在していない。しかも、ベッドの下を使いやすい収納スペースにするべく引き出しを付けて、簡易の収納庫のような状態にまでしてあった。
しかし、まだ産まれていない赤子の為に、そこまで先走る必要があるのか?
呆れ返った表情のトワレは、大きくため息をついた後に親友を諫めることにする。
「リベルタ、ベビーベッドは、まだ使わないわ?それよりも先に、揺り籠ではなくて?」
こちらの世界は、日本と違って添い寝の習慣はない。故にベビーベッドは必要不可欠ではあるが、寝返りさえうてない新生児には少々早すぎる。それよりも、心地よい眠りに誘う為の揺り籠の方が先決と言えよう。
しかし、リベルタは首を横に振って頑として受け入れない。
「揺り籠は、赤ちゃんが動き回る様になったら直ぐ使えなくなるわ。それよりも、ベイビーちゃんがある程度自由に動き回れるようになっても安全に眠れて、しかも、親も使い勝手が良いベビーベッドが大事よ」
確かに一理ある言い分に、トワレは少し驚いた。まさか、リベルタが、そこまで考えてくれているとは思っていなかったのだ。
「リベルタ。貴女、前世で子供を産んだ経験でもあるの?」
「馬鹿にしないで!産むどころか、そういった経験もないわよ!」
思わずトワレの質問に大声で反論してしまったリベルタだが、言ってる意味を自分で考えた後、気まずさでシャイネンに背を向けた。前世喪女だったとしても、一応花も恥じらう美少女なのだ。
それまで女子二人の会話を祖父のように優しい眼差しで見守っていたシャイネンも、目を丸くして顔を赤らめている。正直、前世の経験値までは気にしていなかったが、正真正銘の生娘だったとは思いもよらなかったのだろう。
婚約者にまでなったのに未だに初々しいリベルタとシャイネンに、トワレは、自分のお腹を摩りながらほほ笑んだ。
「本当にお姉ちゃん達は、じれったいわねぇ~。おチビちゃんも、そう思うでしょ?」
我が子に賛同を求めるトワレの顔は、既に母親だった。一足先に妻になり母になる親友が、リベルタには眩しく見えた。
「ねぇ、トワレ。私も触っていい?」
「まだ、動いたりしないわよ?」
「分かってるわよ。でも、ほら、私の可愛い姪っ子のようなものだから、ご挨拶しないとね」
「ふふふ、まだ、女の子って決まったわけでもないのに」
そう言いながら、トワレはリベルタの手を取って自分のお腹の上にのせてやった。どうやら赤子はクルーガーの資質を強く受け継いでいるらしく、既に魔力を発している。掌から伝わってくる気配に、リベルタは、小さな生命の息吹を感じた。
「へへへ、凄い、生きてる!トワレ、赤ちゃん生きてるよ!」
「当たり前でしょ!変なこと言わないで」
「ごめん、ごめん。でも………」
何か思う事があるのか、リベルタが沈黙してしまう。更に、難しそうに眉間に皴が寄ってしまった事で、トワレは急に不安にかられた。
「ちょっとリベルタ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
「うん、そうだよね。不確かでも、言っておいた方が良いよね」
リベルタの微妙な言い方に、トワレはゴクリと唾を飲んだ。何があっても受け入れる覚悟も出来ていた。
「この子………ううん、この子達、双子」
「えぇ~~~~~!双子!」
冷静さを保てると自負していたはずのトワレは、思わず大声で叫んだ。
その声を聞きつけたクルーガーが、馬車を急停車させる。そのせいで体を大きく揺さぶられてしまったトワレを、リベルタが抱きしめ、そして、そのリベルタをシャイネンが抱きとめた。大事に至らなくて良かったが、これは、クルーガーを叱る必要がある。
御者台と馬車の通路を使って飛び込んできたクルーガーに、リベルタは自分の靴を片方脱いで思い切り投げつけた。それは見事に顔面にヒットして、クルーガーをふらつかせる。
いつもなら、しゃがみ込んで頭を抱えるところなのだろうが、父となった男は強かった。グッと踏みとどまると、カッと目を見開いて叫んだ。
「リベルタ!お前、さっき双子だって言ったよな!」
その剣幕に驚いたリベルタは、急に勢いを失くしてシャイネンの後ろに隠れた。間違っていた時の事を考えると、急に怖くなったのだ。
そこで逃げ道を作るべくニヘラと笑いながら、
「予定は未定よ」
とだけ言い訳をした。
ただ、この予言が別の意味で裏切られることになるとは、この時誰も気づいていなかった。
ここまでで、第四部は終了です。
次は、第五部リベルタ結婚準備&トワレ出産編です。
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そして、昨日、一本短編のお話を投稿しております。
リベルタとはまた違うおかしな女の子のお話です。
読んでいただけたら嬉しいです!!




