第三十話 前編
「はぁ……、全くなんていう事なのかしら。クオーレさんが居なければ、大事になっていましたね。本当にありがとう」
ステラに感謝されたクオーレは、恥ずかしそうに笑った。なんと、彼女の機転で捕まえられた給仕の男は、敵国の間者だった。祝福ムード溢れるお茶会で、警備の目が緩んだ隙に国王夫妻の飲み物に毒を入れる予定だったという。
もし成功していれば、犯人として最初に疑われるのは普段居ないシャイネンやリベルタと言った他国の人間になる。両国間の友好にも亀裂を入れることが出来る一挙両得な作戦だったのだろう。
護衛達からも、クオーレの行動は賞賛の嵐だった。周りにいる子供達に危害が加えられないように、彼女は両手を広げて自分が盾となったからだ。
隣に座っていた末っ子王子など、命を救ってくれたクオーレと結婚するのだと泣いて駄々をこねているらしい。
「いえ、わたくしがしたことは、ただ、声を掛けただけの事。護衛の皆様が瞬時に動いてくださったからこそ、被害が出ずに済んだのだと思います」
確かに、あのまま犯人が暴れていれば何人かは怪我をしたかもしれない。最初に飛び掛かった護衛が敵の短剣を叩き落し、太い腕で首を絞めて意識を一瞬で刈り取ったことで事なきを得たのだ。
ただ、護衛の人間にすれば、ここまで危険な人物を保護対象の傍まで近づけてしまった事が最大の失態。クオーレに褒められるのは嬉しいが、正直自責の念の方が強いようだ。皆下を向いて、唇を噛んでいる。
今、クオーレがステラから感謝の言葉を送られているのは、夕食会場だった。流石にお茶会はあのまま続行することは難しかったため、場所も室内へと移動して仕切り直しとなったのだ。
「クオーレさん、貴女は見た目によらず、とても度胸のある方なのね」
小柄な少女の中に秘められた胆力に、ステラは自分と同じ資質を感じた。年頃が合う子供が居たら、本当に嫁にもらいたいとすら思うほどだ。
「今日は驚くことばかり起こりましたが、最後は楽しい晩餐でしめましょう。では、貴方」
ステラが声を掛けると、ジェンナイオ国王が乾杯の音頭を取った。未成年者たちには、ワインに似たぶどうジュースが振る舞われ、幼い子ほどテンションが上がっている。
その中でも一番興奮しているのがリベルタと言う所が流石と言うところだろうか。鼻の穴を広げて美味しそうにグビグビとジュースを飲み干している。
「プハッ、美味し!」
本来あってはならないことが起こった後だというのに、素直に晩餐を楽しんでくれるリベルタに、ステラは心の中で感謝する。そして、この天真爛漫さがシャイネンの長年固く閉ざしていた心を解きほぐしてくれたのだと納得した。
「リベルタさんが気に入ってくれたようで嬉しいわ」
ステラが声を掛けると、リベルタは鼻の下に紫の汁を付けたまま、
「はい、この味、大好きです」
と、興奮気味に感想を述べた。その伯爵令嬢とは思えない無邪気さに、シャイネンは笑いを堪えながらナプキンで彼女の口元を抑えてやる。
「え?シャイネン先生、私、何か付いていましたか?」
「気にしなくていいです。ほら、折角の料理が冷める前に頂きましょう」
運び込まれてきた料理は、どれも素材の味を大切にするシンプルな味付けだ。
ただ、野菜も肉も魚も、鮮度が抜群。隣りに座るクオーレも、思わず目を見開いてリベルタの方を見てくる。
「リベルタ……わたくし、こんなにおいしいマリネを食べたのは初めてです」
「私も。それに、このお肉、歯がなくても食べられそう」
手放しで料理を絶賛する美少女達に、コースメニューを説明する為に同席したシェフも誇らしげに胸を張る。国の規模は小さくても、食料資源が豊富な国の底力が垣間見えた一幕だった。
そこに、医局で長い時間拘束されていたトワレが、クルーガーに付き添われて帰って来た。その顔色が悪いことに気付いたリベルタは、思わず立ち上がってトワレの傍に駆け寄った。
「トワレ、どうかしたの?」
「えぇ……ちょっと、驚いてしまって」
「え?何か病気だったの?」
「それは……違うのだけど……」
口を濁すトワレは、不安げな視線をクルーガーに向けた。
「ん~、ここで言って良いのかどうかわからないが……」
他に聞こえないようクルーガーがリベルタの耳に囁いた。
「どうやら、トワレの腹の中に赤ちゃんがいるらしい」
「え~~~~~~、あかちゃん!!!」
折角小声で言ったのに、リベルタの驚きようで周りの人間も、その内容を察してしまう結果となってしまった。
今夜は、おめでたい話となりした。
そして、第四部も、あと少しとなっております。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
そして、今日の昼に投稿した、
完結ハナコ・カーネル(ⅭAR寝る)二十六歳の異世界車中旅ー~転移先はおばあちゃんの故郷でした~
が、日間コメディ完結部門で1位になりました。
読んてくださった皆様、本当にありがとうございました!!




