二十七話 後編
事の顛末を横で見ていたドワーフの村長エレロは、
「どうでもいいが、早く報酬の酒をくれんか?」
と腕組みをして不満げに口をへの字にした。彼が、わざわざ森の出口までシャイネンを送ってくれたのも、半分以上酒の為だ。リベルタが酒をたんまりと入れたマジックバックを持ったまま森の外へ飛ばされていなければ、今頃村で酒盛りをしていただろう。
シャイネンに抱きしめられていたリベルタは小さく舌打ちをし、そのリベルタに抱きしめられていたクオーレは、ホッと安堵の溜息をついた。
渋々シャイネンから離れたリベルタは不満げな顔をしつつ、
「エレロさん、本当に申し訳ありませんでした。これが、報酬のお酒です」
と、言葉だけは殊勝に謝りながらマジックバックから次々酒を取り出した。
ワイン、ウオッカ、ジンにウィスキーと多種多様な酒が出てくるのを見て、エレロの方は興奮気味だ。もう締まりのない顔で瓶を抱え込むと、
「いっしっし。これで、暫く楽しめる」
と、舌なめずりをした。どこからどう見ても威厳のある村長ではない。下手をしたら酒を独り占めする策でも練っていそうな顔だ。
ただ、魔王の結界を強化するという目的を達したリベルタには、そんなことどうでもいい。そして、その気持ちは、全員同じだ。
トワレは、森の入り口付近に停めてあった自身の馬車をクルーガーと二人で移動させてきた。盗賊などに狙われないようクルーガーが認識阻害を掛けておいた為、馬車も馬も全くの無傷。二人は既に御者台に座り、今すぐにでも出発できる状態だ。そこにクオーレも乗り込んだことで、残っているのはリベルタとシャイネンだけになった。
トワレがリベルタをチラリと見た後、スッと馬車に視線を移す。早く乗れと言いたいのだろう。
「では、エレロさん、私達は、これで失礼しますね」
貴族らしい微笑みを浮かべたリベルタは、シャイネンにエスコートされて優雅に馬車に乗った。これまでのイメージと違う品の良さに、エレロはポカンと口を開けて見上げることしかできない。
そして、パタンとドアが閉まると、待っていましたとばかりに馬車が急発進した。
「うおっ!」
驚きで思わずのけ反ってしまったエレロは、そのまま地面に尻もちをつく。あっという間に遠ざかっていく黒い馬車は、豆粒のように見えた。
「なんだなんだ、そんなに急がなくても良いだろ」
今晩も行われるであろう酒盛りに、シャイネンを引きずり込もうと画策していたエレロは、ガックリと肩を落とした。滅多に来訪者のない村では、まぁまぁ酒に強い新参者は貴重なのだ。皆で次々に酒を注いでやり、前後不覚になるまで酔わせるのが習わしなのだが、あのシャイネンと言う青年は最後まで意識を保った。今度こそはと息巻いていたのだが、逃げられてしまったのでは仕方ない。
「さぁて……これをどうやって一人で村まで持って帰るのかが問題だな」
両腕でも抱えきれない酒瓶を前に、エレロは大きな溜息をついた。仲間を呼びに村に戻ることも考えたが、そうなると全ての酒を共有しなくてはいけない。
「まぁ……少しは、隠しておいてもいいだろう」
エレロは、草むらに入ると地面を掘り始めた。どうやら、そこに何本かの酒を埋めるつもりらしい。どこまでも、姑息な男である。
そんな彼のことなど一瞬で忘れ去ったリベルタは、やっと心のつかえが取れたことに涙が出そうになっていた。
「良かったですね、リベルタさん」
「はい。全ては、シャイネン先生のお陰です」
良い感じに一件落着感を出すリベルタとシャイネンだが、ここまで尽力したトワレが聞いたらガチ切れしそうな物言いだ。
だが、幸い彼女は御者台で馬を操っている。確実に告げ口するであろうクルーガーもトワレの傍にいるのだから、クオーレが黙っていれば知られることもないだろう。




