第二十六話 前編
「ズルいです!」
串焼きを頬張るリベルタに向かって叫んだのは、なんとクオーレだった。人ごみをかき分けズンズンと進んでくる姿に怒りを感じる。
「え?なんで、クオーレがここに?」
「なんでって言われても、私も声を出したんです!我ながら、良いアイディアでした」
両手を腰に当てて自慢げにふんぞり返りクオーレに、リベルタは死んだ魚のような目を向ける。彼女のテンションが常に高すぎて、ちょっと疲れてきたのだ。
クオーレが言うように、魔王封印と言う目的を達成したならば、再び来た道を戻るよりも大樹に異物扱いされた方が断然早く森の外に出られる。だが、シャイネンが居ないということは、彼はまだエレロと行動を共にしているということだ。
エレロは自分の村に戻らざるを得ないのだから、致し方のない。
しかし、シャイネンは二日酔い。フラフラの体に鞭を打ってでも声を上げないのは訳がある。
――私が成功報酬を渡す前に消えてしまったから、自分まで消えたら不誠実だと思ったのね。先生、す・て・き。
リベルタは、正直あれだけ酒を飲ませてやったのだから、村長がタダ働きになっても文句はないだろうと勝手に結論付けていた。
しかし、それは礼儀を欠くことになり、約束を違えたことに間違いはない。
更に、今後ドワーフ国では、こう言われるはずだ。
「人間には気を付けろ。あいつらは嘘つきだ」
どうせ森の中から出てくることもない種族だと侮るなかれ。食べ物の恨みは根深く、今後ドワーフは細胞レベルで人間を嫌うことになってしまうだろう。
不可抗力とはいえ現場を離れてしまった事に後悔するリベルタは、ポクポクと自分の頭を何度か叩いた。そして、大きく息を吐いた後、空を見上げた。
――シャイネン先生ごめんなさい。そして、誠実な貴方が益々好きになりました。
目の前にいるクオーレそっちのけで盛り上がるリベルタだが、グイグイと服を引っ張られたら意識をクオーレに向けざるを得ない。
「リボン取れちゃうから、そんなに強く引っ張らないで」
「だって、リベルタ……が全然こっちを見てくれないから」
心ここにあらずということが流石にクオーレにも伝わったのだろう。圧強めで迫られれば、体の疲れがドッと感じられた。
だが、この状況、いつもなら自分がトワレにしていることと然程変わりがない。
――もしかしてトワレも、私に疲れていたのかしら?
心配になって横に立っていたトワレに視線を向ければ、自分と同じような目をしていた。出会った当初のリベルタは、今のクオーレよりも多くの場面でトワレを振り回してしまった。自分を振り返り親友に掛けた迷惑が尋常な数ではなかったことを思い出し、流石に強引にまいうぇいな転生喪女も申し訳なくなってきた。
「ごめんなさい、トワレ」
「何に対しての謝罪?」
「私、ずっとあんな感じだったんだね」
クオーレに視線を向けたリベルタの意図を的確に感じ取ったトワレは、
「あぁ……それは、ちょっと違うかしら」
と、意外な返事をした。
「トワレ、それ、どういう意味?」
「クオーレは、確かにテンションが高い戦闘狂だけど、元王太子妃候補だっただけあって常識が通用するところがあるわ」
「ん?それで?」
「貴女は非常識の塊だもの。比較するのは、クオーレに失礼よ」
「……あぁ、そっち」
ションボリと落ち込んだリベルタは、串に刺さった最後の肉に齧り付いた。すると、たっぷりかかったタレが、べちゃりと頬の横に付いた。
「もぉ、本当に伯爵令嬢とは思えない姿ね。でもね、だから私は貴女と親友になれたと思うのよ」
身分差を力技で壊してしまったリベルタが居たからこそ、真面目一辺倒だったトワレが変われたのだ。トワレはニコリと笑うとハンカチでリベルタの頬に付いたタレを拭い取った。




