第二十五話 後編
「はぁ……やってしまったわ」
大樹に異物認定されたリベルタが飛ばされたのは、森の外にある小さな村の入り口だった。前世で乙女ゲームをしていた際も、何度かここへ来た経験はあった。
だが、あまり良い記憶はない。ゲーム内で訪れた時の村は、既に魔王の残滓の影響で完全に荒廃していたからだ。手入れの行き届かなくなった家々は所々崩れ落ちており、人っ子一人いなかった。そんな所にわざわざ足を踏み入れたくもないリベルタは、直ぐに動く気にもなれず地面に座り込んだ。
しかし、そんな彼女のお腹が突然グゥ~ッと鳴った。
何故なら、とても良い香りが鼻を擽ったからだ。振り返ると、そこに居たのは手に串焼きを持ったトワレだった。
「あら、貴女まで飛ばされたの?ダメじゃない」
自分が先に消えたはずなのにダメ出ししてくる親友に、リベルタはムッとした。しかも、トワレが目の前でガブリと串に刺した肉に齧り付いたとあっては怒りさえ湧いてくる。
「ダメじゃないもん。ちゃんと成功させてから来たんだもん」
「可愛く言ってもダメよ。シャイネン先生にエレロさんとクオーレを丸投げしてきたのも同然なんだから」
痛い所を突かれたリベルタは、話をかえようとトワレに手を伸ばした。
「美味しそうな匂いね。トワレ、それを私にくれてもいいのよ」
「これは、私の。村の中に行ってみなさい。クルーガーが屋台の前に居るはずだから」
「なによ、二人だけで楽しんで!私、頑張ったんだからね!」
プ~ッと頬を膨らませたリベルタは、勝手知ったる道を歩いて村の中へと入っていく。
しかし、一歩村に足を踏み入れた瞬間、呆然とした顔をして立ち止まった。
そこは、彼女の記憶にある村とは全く違うものだった。沢山の人々が行き交い、物売りの掛け声も聞こえてくる。その活気ある風景は、この村の本来の姿なのだろう。
実は、大樹の森に一番近い場所にある為、森を迂回して通る村人や商人達の中継地となっている。宿屋や飲食店、食料を売る商店などが所狭しと店を並べており、商人ギルドや冒険者ギルドも常駐していた。
シナリオ通りの運命を歩まなかった。ただそれだけのことなのだが、生まれ変わったような村にリベルタは感動してしまった。
「うわっ……なんか、泣いちゃう」
十二歳の時に入学式で前世を思い出したことが起点となって、本来起こるはずだった乙女ゲーム内のイベントを自分が悉く潰している自覚はあった。当て馬令嬢だった自分は死なず、ネロがばら撒くはずだった疫病も流行っていない。
ただ、こうして目の前で滅びたはずの村が賑わっている状況を目の当たりにすると、自分の行動が間違っていなかったと褒められているような気持になるのだ。
よく頑張った。
そう言って頭を撫でられているような感覚は、彼女の涙腺を緩くさせるのに十分な効果があった様だ。ボロボロと突然涙を流し出したリベルタに、彼女を追ってきたトワレがギョッとする。
「ちょっと、往来で泣きださないでくれる?」
「トワレ、私、頑張ったのよ!見て、この村を!」
「何の話か良く分からないけど、先ずはクルーガーの所へ行くわよ!」
「もっと褒めてくれてもいいでしょ!」
「はいはい、よく頑張りました」
トワレはリベルタの手を引っ張り、人ごみの中をかき分けていく。そして、グズグズと泣く親友の為に夫に向かって大声で指示を出した。
「クルーガー、リベルタも来たから串焼き一本注文して」
「はぁ?主役が早々に戦線離脱してどうすんだよ。まぁ、いい。食ってから考えるか」
リベルタの扱いに慣れたクルーガーは、店主に肉多め垂れ多めでと伝えた。




