第二十四話 後編
道無き道をスイスイ進んでいくエレロは、時々後ろからついてくる人間の事を忘れてしまう。
だが、静かに大樹を目指している為大声を出して呼び止められない。
そんな時は、どうするべきなのか?
こうするのである。
グイッ
「おっと……」
腰に縛り付けられた紐を引っ張られたエレロは、慌てて立ち止まった。後ろを振り返ると鬼のような形相のリベルタが口パクで、
「お酒没収」
と言っている。
――それだけは、勘弁してくれ。あんな美味い酒、産まれて初めて飲んだんだぞ。
声に出せない思いを表すように、エレロは両手をこすり合わせて謝った。村長なのに大樹への案内を買って出たのも、特別な酒を追加報酬として貰えると聞いたからだ。ドワーフの長とも思えない意地汚さである。
ただ、彼の肩を持つならば、父親秘蔵の酒でドワーフ達を虜にしたリベルタにも問題がある。酒は飲めば消えてしまう。飲み切ってしまったドワーフ達は、今後、あの味を思い出しては切ない思いをすることになるだろう。
「リベルタさん、大樹まで、あとどれくらいですか?」
シャイネンに問われ、リベルタは首を横に振った。何処までも続く草むらを歩いている為、リベルタも全行程のどの辺りまで来たのか良く分からないのだ。だからこそ、今は、エレロを信じて付いていくしかない。
隊列は、真っすぐ一列にエレロ、リベルタ、シャイネン、トワレ、クルーガー、クオーレと並んでいた。クオーレが一番後ろなのは、腕力勝負になった時に魔法特化型のクルーガーより身体強化で剣を振り回す自分の方が強いとクオーレが力説したからだ。
正直反論できないクルーガーは、小柄な少女に背中を守られるという微妙な立ち位置に追い込まれている。妻にも呆れた視線を向けられ、現在地面だけ見て歩いている。
草むらの中をガサゴソと移動していくリベルタ達は、クオーレに贈られたヘンテコ衣装に今物凄く感謝していた。完全に自然に同化した彼女達は、自分達でも良く周りに馴染んでいると感じているくらいだった。
そのまま順調に進み続けると、突然視界が開け目の前に雲すら突き抜ける大きな木が見えた。
しかし、残念ながら距離はまだまだ遠い。逆を言えば、身の丈以上の雑草に身を隠せていた時の方が安全だったと言える。大木までの距離は数キロあるが、そこまでは芝生のような草しか生えていない。
前が立ち止まったことで先に進めなくなったクルーガーが、
「どうかしたのか?」
と、前に居るリベルタに質問した。その声は、決して大きなものではなかった。
しかし、その瞬間、クルーガーが消えた。
「クルーガー!」
思わず消えた夫の名を呼んでしまったトワレまでもが目の前で消えてしまったことで、最後尾のクオーレは悲鳴を上げそうになった。それでも必死に口を押えて声を出すまいとする少女の目は、涙でいっぱいだ。
どうやら、二人は目の前にいる大樹に異物と判断され森の外へ放り出されたようだ。これは想定内の事で、命が取られる心配はないとリベルタが最初に伝えている。大樹は森の守り神のような存在であり、決して他者を進んで傷つける行動は取らない。
ただ、ここに残されてしまったのは、リベルタと涙目の戦闘少女と二日酔いの結界師。そして、酒好きの案内人だけだった。声を出せば森の外へ転移させられる状態では、意思の疎通も難しい。
ただ、乙女ゲーム周回廃ゲーマーだった喪女の記憶を持つ爆乳美少女は、こんなことは既に織り込み済みだ。
出発前に決めていたハンドサインで、全員に地面に寝そべるよう指示を出す。腹ばいになって見上げる大樹は、益々大きく見えた。神々しさに、畏怖の念がこみ上げる。
ただ、リベルタ達の目的地は、大樹ではない。魔王が封印された祠まで、もう目と鼻の先だった。




