第二十四話 前編
「さぁ、出発じゃ!」
朝から元気一杯なのは、村長のエレロ。昨日の大宴会でへべれけになっていたはずなのに、頭に鉢巻をしてやる気満々だ。その横には、何故か戦う気満々のクオーレが魔法の杖を握りしめて立っている。
「エレロさん、クオーレ、気合が入っている所申し訳ないんだけど、兎に角音を立てずに静かに行動して」
珍しく冷静な指示を出すリベルタだが、それには理由がある。残滓の影響で狂暴化した獣達は、音を立てる者を無差別に襲ってくる。それ故に、無駄に大声を出すと標的になってしまうのだ。
「先ずは、戦わない事。騒ぎが大きくなるほど、敵が増えると思って」
リベルタが声を潜めて説明すると、クオーレもエレロも神妙な面持ちで頷いた。身長もさほど変わらない二人は、まるでシンクロしているように見える。
――なんだか、首を振る置物みたいね。
前世の記憶にあるユラユラ頭の動く赤い牛の土産物を思い出しながら、リベルタは苦笑した。
「リベルタさん、他に注意点はありませんか?」
彼女の横に立っていたシャイネンは、二日酔いの頭に水で濡らしたタオルを当てながら質問してきた。出来ることならば置いて行ってあげたいところだが、彼の結界がなければ無謀な作戦。申し訳ないが、付いてきてもらうほかない。
「シャイネン先生、まずは、コレを」
「トマトジュースとバナナかい?」
「はい、トマトジュースはクエン酸やリコピンの抗酸化作用で肝臓の負担を減らします。バナナに豊富なカリウムは、水分バランスを整えるのに役立ちます」
「君の知識には、驚かされることばかりだ」
感じ入ってくれるのは嬉しいが、リベルタの知識は前世をカンニングしたようなものだ。褒められるほどに恥じ入る爆乳喪女は、大きく育ちすぎた胸に顔をうずめるように下を向いた。
それを反対側から覗いていたトワレは、ポンポンとリベルタの肩を叩いてドンマイと慰めてやる。気を取り直して前を向いたリベルタは、作戦を簡単に説明することにした。
「先ずは、エレロさんが先頭に立って道案内をしていただきます」
森の中は、獣道以外道らしきものがない。いくら乙女ゲームを周回していたリベルタでも、全て緑で埋め尽くされた森林を記憶だけを頼りに歩くなど不可能だ。
「道中は、シャイネン先生の結界が守って下さるとは思いますが、ここは大樹が守る聖域。獣達の襲撃は防げても、大樹に敵と認識されれば森の外に追い出されてしまいます」
エレロを連れていく理由は道案内だけでなく、大樹に味方と認められている彼が居れば、危険分子として排除される可能性が低くなるからだ。
「特に、クオーレ、火気厳禁よ」
「リベルタ……、風魔法は良いのでしょうか?」
「それも、極力控えて。枝葉を切られたら木々も痛いの。母なる大樹にすれば、我が子を痛めつけられて許せるわけがないでしょ?」
「それは、そうですわね」
出番がなさそうだと肩を落としたクオーレだが、腰に付けたマジックバッグに魔法の杖をしまい、今度は剣を出してきた。それが、意外と長くて太い。小柄なクオーレが使うには、少々無理があるように見え、リベルタは驚きにポカンと口を開けた。
「クオーレ、まさか、それを使うつもり?」
「一応、訓練は受けてきましたから」
「テリブル侯爵家は、なにやらせてんのよ」
「でも、わたくし、結構褒められているんです。エイ」
実演とばかりにクオーレが剣を振ると、辺りに風が舞った。どうやら身体強化の魔法を使っているらしく、まるで扇を振るような軽やかさで剣が舞う。
「分かったから!不用意に振らない!」
乱れた髪を整えながら、リベルタは救いを求めるようにトワレを見た。
しかし、頼りになるはずの親友は、疲れた顔で溜息をついた。
「リベルタ、いつも私が貴女に抱いている気持ちが分かったかしら?」
「……ごめんなさい」
「初めて、心のこもったごめんなさいを聞けた気分だわ」
子育てをしないと親の気持ちは分からないと先人が言ったとか言わないとか。
しかし、リベルタはこの時、産まれて初めて反省と言う感情を覚えた。




