表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第四部開始】当て馬令嬢リベルタ〜転生喪女はゴーインニマイウェー〜  作者: ジュレヌク
【第三部 リベルタ十六歳 プロポーズ編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/57

十九話 君しかいない

『お茶会に参加する代わりに、何でも願いを一つだけ叶えてもらえる』


 そんな権利にリベルタが選んだのは、ベリッシモ伯爵領へシャイネンをご招待することだった。


 しかも何故かシャイネンだけが馬上にいて、下からリベルタが目を潤ませて見上げている。



「あぁ、素敵」



 神様に祈るように両手を前で組むと、リベルタのメロンカップが寄せて上げられ更にボリュームが増す。


 それを凝視する馬の鼻息とシャイネンを凝視するリベルタの鼻息のどちらが荒いのかは甲乙つけがたい。



 フンスフンス



 うるさいったらありゃしない。


 しかし、いつも沈着冷静なシャイネンは、



「リベルタさん、そろそろお昼にしませんか?」



と彼女の胃袋に訴えかける。


 かれこれ、この状態が2時間続いているのだ。


 流石にシャイネンも姿勢を保つのに疲れてきた。



「シャイネン先生も律儀だわ」



 遠くに敷物を広げて寛いでいるトワレは、既に馬に乗ってひとっ走りしてきた後だ。


 クルーガーは、彼女のスピードに付いていくのに疲れ果ててゴロンと横になって眠っている。


 やっとのことで馬から降りることが出来たシャイネンが、リベルタを伴ってやって来た。


 

「シャイネン先生、待ちくたびれました。さぁ、リベルタも手伝って」



 ベリッシモ伯爵家の料理人が腕によりをかけて作ってくれた料理がバスケットの中に沢山入れられている。


 それを用意されたテーブルに広げようとしたクオーレを、



「すまないけれども、あと数分待ってくれますか?」



とシャイネンが止めた。



「先ずは、皆さん座ってください」



 何事かとリベルタ、トワレ、クルーガーが席に着くと、シャイネンがテーブルの上に何か置いた。


 箱を開けると、緑と赤のリングが2個ずつ入っている。


 リベルタには、この指輪が細い糸で繋がっているように見えた。



「同じ色の指輪をはめた人間の位置が分かる魔道具です」


「こんなものが世の中にあるんですね」



 まじまじと見つめるリベルタの横で、トワレとクルーガーの顔が引きつっている。


 二人は、最近それを見たばかりだった。


 そして、あまりの高額に手が出なかった代物でもある。



「それって婚約指輪ですよね?」



 クルーガーの質問に、



「まぁ、そうとも呼ぶね」



とシャイネンは優しく微笑む。


 実はこれは『絆』と呼ばれる特殊な魔道具で、確かにシャイネンが言ったような効果が期待される品物でもあるが、難点が一つある。


 それは、一度指にはめるとほぼ取れないということだ。


「『ほぼ』ってどういう意味ですか?」


 リベルタが好奇心で聞くとシャイネンが、


「どうしても取りたい場合は、指輪の部分だけ切って治癒魔法で指を繋げるんです」


と問題しかない対処法を教えてくれた。



『いや、それ駄目でしょ!』



と思っても口にする空気ではない。


 皆がジッと指輪を見ていたが、シャイネンは緑色の指輪を二つ手に取るとクルーガーとトワレに、


「婚約おめでとう。私からのプレゼントですよ」



と言って手渡した。



「これ、一つで家一軒買える値段ですよ。受け取れません」



 固辞しようとするクルーガーに、



「大切な人を守れなかったときに、同じように今の言葉を言えますか?」


とシャイネンは聞いた。


 それは、先日の事件を指しているのだろう。


 今回はたまたまトワレとクルーガーが同室だったが、当初襲われた部屋にいるのはリベルタとトワレだったはずだ。


 そして賊が侵入していたらと想像すると、クルーガーは思わずシャイネンから指輪を受け取ってしまっていた。



「クルーガー、ダメよ、返せないわ」



 指にはめたら外れない指輪など、返却を要請されても現金で対価を支払うしかない。


 家ニ軒分にあたる金を直ぐに用意できるのは貴族でも数パーセントいるかどうかだ。


 慌てるトワレの気持ちも分かるが、彼女を失うことを考えれば安いものだとクルーガーは考える。


 そして、後押しするように、


「これは私からの謝罪の品だと思って下さい」



とシャイネンが言った。


 もしライトが強硬にススロット侯爵家へ行くことを願わなければ、マジックバック研究会の面々は最初から要請を断っていたはずだ。


 そしてライトをシャイネンが抑えられていれば、皆を危険な目に遭わせずに済んだ。



「シャイネン先生、後で返せとか言わないでくださいよ」



 もしそうなっても身を粉にして働けば、返せない金額ではない。


 心を決めたクルーガーは、トワレの右の薬指に緑の指輪をはめた。


 そこは、婚約者に贈るシルバーの指輪が既に輝いていた。


 





「では、もう少しだけ待っていて下さい。私は私で頑張らねばならない事がありますから」



 赤の指輪を二つ取ると、シャイネンはグッと握り込んだ。



「というわけで、リベルタさん少し私に時間を貰えるだろうか」



 自分だけをなぜ呼ぶのか?などといった無粋なことは聞かない。


 空気を読めないリベルタでも、読まなければならない瞬間は頑張って読もうと努力するのだ。


 間髪入れずに頷くと、ガタゴトと音がするのではないかと思われるほどぎこちない歩き方でシャイネンの後を付いていく。


 向かった先は、厩舎近くにある大木の下だった。


 そこには簡素なベンチが働く者達の休息用に置かれている。


 ロマンチックかと言われれば、違うと言うしかない。


 微かに漂う馬糞の香りは、いかんともしがたいのだ。


 しかし、今のリベルタにはそんなことどうでもいい。



「先ずは、座ろうか」


「は、はい」


 ベンチに並んで腰掛けると、二人の間には人が二人座れるのではないかと思われるほどの間が空いていた。



「流石に話をするのには遠いかもしれないね」



 スッとシャイネンが体を横にスライドすると、グッとリベルタに近づく。


 彼の体温まで感じられる距離感に、既にリベルタの脳みそは沸騰しそうだ。



「今回の事件、君が危険な状況になることも想像できたのに、一人にしてしまって申し訳なかった」


「いえ、一人ではなかったので」


「君のことだから、自分が犠牲になってでもクオーレさんを助けようと思ったんじゃないのかい?」



 そう聞かれて、リベルタは答えに困った。


 はいと言えば嘘のような気がするし、いいえと言うと冷たい人の様に思われそうで怖い。



「実は……、私……、一人なら簡単に逃げられるのにって気持ちがどこかにあった気がするんです。それが、すごく嫌で。自分は強いし負けないって思ってたけど、大勢で攻めてこられたら誰も守れない。怖くて、辛くて、涙が出ました」



 どれだけ才能豊かで様々な魔法が使えたとしても、大人の男性に攻め込まれれば腕力でどうにかされてしまうこともある。


 以前に幼馴染のフレルトが家に忍び込んだ時には、その場に居なかったことで難を逃れた。


 今回はシャイネン達の結界があると慢心していたら、窓を壊され侵入を許してしまった。


 もっと頑張って、もっと強くなって、誰からも仲間を守れる人になりたい。


 悔しさに唇を噛むリベルタを、シャイネンはそっと抱きしめた。



「自分を責めてはいけない。人は、必ずしも一人では生きられない。頼るべきところは頼り、助けられるところは助ける。どうしようもない時には、叫べばいい。誰か、助けてと」



 自分の不甲斐なさを嘆くのは、何もリベルタだけではない。


 シャイネンすら、この指輪を取り寄せるくらいには今回の事件を危険視しているのだ。


 もう二度と同じ過ちを繰り返さない為に、やれることは全てやりつくさなければならない。


 シャイネンはリベルタを抱きしめていた腕を緩めると、指輪を彼女の前に捧げる。


 赤い色のそれは、シャイネンの髪の色の様に色鮮やかだった。


 メラメラと燃えるのは、恋心か?独占欲か?


 そのどちらかもしれないが、彼はリベルタを失っていたかもしれないと思うだけで気が狂いそうだった。


 シャイネンは、座るリベルタの前に跪いて彼女を見上げる。


 そして、



「君しかいない、どうか結婚させてくれ」



と訴えた。


 それは、以前裁判所で『白い審判』を受けると言い出したリベルタを守る為に、婚約を申し出たシャイネンに言った言葉。


 身も心も欲しいから、同情や哀れみは嫌だとリベルタは言ったのだ。


 ならば、身も心も捧げるから、結婚してほしいと希う男の思いは受け取ってもらわねばならない。



「君には私を惚れさせた罪がある。それなら、責任を取ってもらわないと」


「嫌になっても指を切って指輪を外させたりしませんからね」



 そう答えるリベルタの目からは、ポロポロと美しい涙がこぼれていた。


 そして崩れ落ちるように目の前のシャイネンに体を預けると、気が済むまで泣いた。


 喜びと、安堵と、これから共に歩む人を得た実感が胸の中に広がっていく。


 こうして、リベルタの右手薬指に、燃えるような赤い指輪が輝くようになった。


あと一話で三部完結です。

第四部はリベルタとシャイネンが、婚約前にナーハフォルガー公爵家の面々に会いに行く楽しいお話になると思います。

読みたいよと思われる方は、ブックマークやお☆様、リアクションマーク等で教えて頂けると嬉しいです。

また、コミカライズ、書籍化の詳細等も活動報告にてお知らせしていきます。

私自身をお気に入り登録していただくと更新情報なども分かるようですので、良かったらポチッとしてみてください。

皆様の応援でここまで来れました。

本当に、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
えっ……元々ハマっている指輪の上から、一度はめたら取れない指輪をはめたの!? 本来なら外せるはずの指輪すら、外れなくさせるって……え、クルーガーはわざとやっているの? 怖いんだが?:(´◦ω◦`):ガ…
おお。やっと!やっとですね!今回の一件で危機を覚えての指輪。金額たけぇー!と思いつつも、それで最愛の安全が買えるなら安いものですよ。トワレ達は指輪をはめたものの、後から指輪の金額を想像してじっと見つめ…
(*TㅿT)良かった~涙出ちゃった… コメント欄での皆さんの様子に更にほっこり(*´ω`*) 作者様、素敵なお話をありがとうございます!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ