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【第四部開始】当て馬令嬢リベルタ〜転生喪女はゴーインニマイウェー〜  作者: ジュレヌク
【第三部 リベルタ十六歳 プロポーズ編】

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十三話 襲撃と反撃

 リベルタが魔王の残滓を踏み潰し、クオーレがお茶会でほほ笑むことが出来るようになった日の夜、事件が起きた。


 最初に異変を感じたのはリベルタとクオーレが、お風呂の代わりに浄化魔法を使っていた時だ。


 クオーレのフワフワな髪の毛を、いつもの様に風を送って右に左にとそよがせていたリベルタの耳が、


 ガタン


大きな物音を捉えた。


 それは窓ガラスを鈍器が叩く音らしく、グワングワンと部屋の空気も揺れている。


 リベルタは、慌ててクオーレを抱きしめるとドアの前に立った。

 

 一瞬廊下に飛び出し皆の居る四階まで駆け上がろうかとも思った。


 しかし、この部屋は、シャイネンとライトが二人がかりで恐ろしいほど強固な結界を敷いている。


 攻撃力の乏しいリベルタ達なら、ここに籠城して皆の助けを持つ方が安全だ。



「でも……一体誰なの?」



 多分、ススロット侯爵家の者ではない。


 自分の屋敷で騒ぎを起こせば、その責めを負うのはススロット侯爵家になる。


 どうしてもマジックバッグの秘密を手に入れたい他の貴族が先走ってしまったようだ。


 開発者の女性二人を拉致すれば、全てが自分の物になると思っているのか?


 馬鹿過ぎて、ツッコミもし難い。


 うまく逃げおおせれば、利益は独り占めだが、仲間を捨てる行為はいつか自分の首を絞めるはずだ。


 いや、己の欲望を満たすために集まった面々は、元からそんなものなのかもしれない。


 ただ、そんな考えを持った者が一人でなかったことで、敵側も混乱をきたしているようだ。


 何人もの人間が、窓の外でいがみ合う声を上げながら侵入を試みようとしている。



「クオーレさん、大丈夫。直ぐに皆が来てくれるから」


「はい」



 シャイネン達が来れば、何十人いようが一捻りだろう。


 時間が経つ程こちらが有利になるのは、目に見えている。


 今は我慢の時だと覚悟を決めて、リベルタはマジックバッグから武器になりそうな物を漁る。



 扇。


 ロリポップキャンディ。


 縦笛。



 正直、全く役に立たない。


 せめてリベルタがトワレの様に料理が趣味なら、出刃包丁くらい出てきただろうに。


 リベルタだけでなく、クオーレからも、



『それじゃ、戦えません』



という空気感が漂う。


 益々不安が増してしまった二人は、恐る恐る音のする窓を見た。


 すると、少しだけ開いていたカーテンの隙間から、トーテンポールのように縦に五つ並んだ顔が、ギョロギョロと目を動かして中を窺っているのが見えた。


 人なのに、人ではないように見えるのは、瞬きすらしない血走った目のせいか?


 


「「ひいっっっっ」」



 箱入り娘のクオーレだけではなく、前世二十九歳喪女ですら悲鳴を上げた。


 こういう時は、年齢は関係ない。


 怯える二人を見て、男達がニタリと笑ったように見えた。


 その後、窓ガラスに、



ビタビタビタビタ



黒い液体が飛んできて付着した。


 その範囲は徐々に広がり、男達の顔も見えなくなっていく。


 リベルタ達の目には、ただ暗闇が戻ったようにしか見えなかったが、ひっそりと魔王の残滓が参戦を決めたようだ。



ミシミシミシミシ



 窓ガラスが軋む音が響く。


 黒い奴らがガラスを蝕み、ジワリジワリと結界の効果を無力化していた。


 それに加え、



 ドーン


 ドーン


 ドーン



敵が腕力ではどうにもならないと気付いたらしく、矢継ぎ早に魔法も使って窓を攻撃してきた。


 部屋の中の空気がビリビリと震え、その攻撃力の高さを物語っている。


 怯えるクオーレが背中にしがみつき身動きが取れなくなったリベルタは、もし犯人が中に入ってきたらと思うと生きた心地がしなくなった。



『なぜ、誰も来てくれないの?』



 四階に音が届いていないのか?


 何か別のことで足止めを食らっているのか?


 絶望で気が遠くなりそうになった瞬間、



パリーン



窓ガラスが割れた。


 そして外にいた男達が中に入ろうと足を窓枠に掛けた。


 リベルタは、クオーレを守ろうと両手を広げて立ちはだかる。


 しかし、彼女に戦う術はない。


 火魔法は、パンを炙るくらいにしか使ったことがなく、風魔法は髪を乾かす時だけ。


 浄化は出来ても攻撃は出来ない典型的な平和ボケ人間。


 武道の一つでも学んでおけば良かったと後悔しても遅い。

 

 それでも前世二十九歳の喪女は、十五歳の少女を守る為に立ち上がるのだ。  


 

「えい!」



 手に持ったロリポップを投げたら、運よく一人の男の目に当たった。


 しかし、それだけだ。


 複数人いる敵は、次々に部屋に入ってこようとしている。



『もう、駄目なの?』



 リベルタが諦めかけた時、彼女のすぐ横を、



ドドドドドドドドドドドド



 小さな火の玉が機関銃の弾丸のように窓に向かって一直線に飛んでいった。


 

「いやーーーーーーー!」



 叫びながら火魔法をぶっ放しているのは、クオーレだ。


 前も見ずに目を閉じたまま闇雲に打つ攻撃魔法は、その手数の多さで相手を圧倒していく。


 どうやら恐怖でリミッターが解除され、魔力暴走のような状態に陥っているようだ。


 リベルタは、自分に当たらなくて良かったと心底ホッとした。


 そして、クオーレが圧倒的火力を放ったお陰で敵を外まで押し返した。


 しかし残念ながら魔力を使い果たしたクオーレは床に倒れ、外の敵は、まだ殲滅しきれていない。


 リベルタは、近くに倒れている敵が持っていた剣を奪った。


 こうなったら、一人でも多く道連れにしてやると息巻く。



「来いや!叩き切ったる!」



 剣など一度も握ったことのない癖に啖呵だけは一丁前のリベルタに『どこの任侠映画だ!』と突っ込める人間は、ここには居ない。


 しかし、貴族令嬢らしからぬ叫びに敵が一瞬動きを止めた。


 理解不能なことが起きると固まってしまうのは人間の習性のようだ。


 アホ面で瞬きを繰り返していると、



 ヒューーーン


 ヒューーーン


 ヒューーーン



暗闇を照らす銀色の無数の光の矢が一斉に飛んで来た。


 そして窓際にいた犯人達の数人が、一度に倒れる。


 その後、



「リベルタ!」



遠くからシャイネンの声が聞こえた。


 え?いきなり呼び捨て?などと喜んでいる暇はない。



「シャイネン先生助けて!」



 リベルタは、ありったけの大声で叫んだ。


 その声が届いたのかは分からない。


 しかし、



 ドドドッドドドッドドドッ



と駆ける馬の足音がどんどんと近づいてきた。


 その間も、シャイネンが放っていると思われる光の矢が次々と敵を射抜いていく。


 それに恐れをなした男達は、逆にリベルタ達の部屋に逃げ込んでしまった。


 一対三。


 勿論、三は敵だ。


 リベルタは、こんな時忍者マンガのように分身の術でも使えたら良かったのにと歯噛みした。


 しかも、男達の動きはどうもおかしく、肩や足に矢を受けているにも関わらず、カタカタとマリオネットのようにこちらに向かって歩いてくる。


 その姿に、リベルタは見覚えがあった。


 乙女ゲームの中で、魔王を守る兵隊として使い捨てにされた『魔王の残滓』を飲み込んだ人間だ。


 気絶した人間の口から入り込み、マリオネットのように操り始めたようだ。



「なんで……」



 シナリオからは、もう解き放たれたと思っていた。


 しかし、強制力と言う呪縛が目の前に迫ってきている。


 リベルタの頭の中にを、シャイネン、トワレ、クルーガー、そして背後で倒れるクオーレとの楽しい時間が次々と浮かんでくる。



「ダメ……絶対にダメよ……私から大事な人を奪わせたりしない」



 リベルタは、前を向いた。


 魔王との戦い方は知っている。


 両手を広げ、最大限質量を上げた浄化魔法を放つのだ。



「クリーン!」



 聖女の神聖魔法には劣るが、弱小な魔王の欠片くらいならこの魔法で弱体化できるかもしれない。


 全ての力を注ぎ、リベルタは敵に目が開けていられない程の光をぶつけた。



 シュン



 熱く焼いた石に水滴が落ちた時のように、何かが瞬時に蒸発する音がした。


 そして、男達が次々と倒れ込む。


 煩悩に囚われた者達に寄生しようとしていた残滓は、呆気なく消し飛ばされていた。


 部屋の陰に隠れていた欠片も、全て綺麗さっぱり消滅している。



「終わったの?」



 その質問に答えてくれる人間は居ないが、



「リベルタさん!」



馬に乗って現れたシャイネンが、窓枠を飛び越えてリベルタの元へと駆け寄った。

 


 生まれたての子羊のような頼りない足取りで自らも彼に歩み寄ったリベルタは、気付けばシャイネンの逞しい腕の中にいた。



「良かった」



 泣きそうな声で彼が安堵の溜息をつくと、リベルタの瞳からは涙がこぼれた。



「遅いです、シャイネン先生」


「すまない。説明は後でするから、今は抱きしめさせて欲しい」



 やっと安堵できたリベルタは、ポロポロと涙を流す。


 その目が、今更ながら四階から飛び降りてきたライトを捉える。


 彼の手は何故か血塗れで、その顔には絶望が貼り付いていた。


 視線の先には、床に倒れたままのクオーレ。



「クオーレ!」



 窓枠を越えて部屋に入ってきたライトに、いつものような傲慢さはない。


 足が震えているのか、床を這うようにしてクオーレの元へ行く。


 彼女は魔力切れを起こしているだけなのだが、ライトには死んだように見えているのだろう。



「クオーレ、目を開けてくれ。クオーレ、クオーレ、クオーレ、私を許してくれ」



 何に対しての謝罪かは分からない。


 ただ、ライトがクオーレとマジックバッグ研究会の人間を巻き込み、ここまで連れてきたことは間違いない。


 何故、出遅れたのか?


 何故、今頃現れたのか?


 ぶつけたい怒りは沢山あるが、クオーレを抱きしめて泣く彼の背中は余りにも小さかった。

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― 新着の感想 ―
ライト君には問答無用で絶望をプレゼントしたい クオーレちゃんからは永遠に拒絶されて欲しい クオーレちゃんにはスパダリで彼女だけを大切にする もっと心優しい愛が溢れるナイト&ヒーローがいい クオーレち…
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