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【第四部開始】当て馬令嬢リベルタ〜転生喪女はゴーインニマイウェー〜  作者: ジュレヌク
【第三部 リベルタ十六歳 プロポーズ編】

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第九話 逆転の部屋割り狂騒曲


 メンティラ・ススロット侯爵夫人は、



『人間としてどうなんだ? 』



と問い詰めたくなるほど嫌な人間らしい。


 用意された部屋は、日本風に言うなら、松竹梅。


 ただ、その差の付け方が凄まじく、正しく表現するなら『最上級、普通、カス』だった。


 まず『最上級』は、キングサイズか?と聞きたくなるほど大きなベッドが二つ運び込まれている豪華な装飾の施された貴賓室。


 王太子と公爵令息の二人部屋でなければ、新婚さんいらっしゃい!といった感じのラグジュアリーさだ。



「なぜ、シャイネン兄上と二人部屋なんだ!」



 ライトは『不服』を隠さぬ険しい顔で怒り狂っているが、ススロット侯爵家としてもふつうの部屋に王太后の甥であり王の従兄弟でもあるシャイネンを入れるわけにはいかない。


 なにせ普通部屋は、正しく普通。


 侯爵家三男のクルーガーと王太子付きの世話係、そして護衛達に相応しく、簡素ではあるが実用的で過不足のない感じに仕上がっている。


 身分を考慮に入れなかったとしても、国防を担う結界師に粗相があってはならず、普通扱いなど言語道断。


 この点においては、リベルタも珍しくススロット侯爵家と意見が合う。


 それよりも、『カス』の方が問題だ。


 前述の部屋が全て同じ四階にあったのに、リベルタとトワレの部屋は一階廊下の突き当り。


 男女を分けると言う表向きの理由はさておき、狭く暗く湿気が立ち込めた部屋は、普段は清掃道具などを入れる倉庫ではないかと推察された。


 申し訳程度の窓が一つ。


 壁にはタールの様な黒い粘着質なものがペタペタと付着し、そこに壊れかけのベッドが二つだけチョコンと置かれている。


 トイレもなければ、浴槽もない。


 これは、もう部屋とは呼べない。



「あからさま過ぎるだろ!」



 自分の婚約者への扱いが酷すぎることにクルーガーは激怒するが、トワレは、



「別に、珍しいことでもないけど」



と苦笑した。


 まだ、父親が男爵位を与えられていなかった頃は、もっと酷い部屋に泊まらされたこともあった。


 だから、我慢できないほどではない。


 この時、リベルタ以外は、汚部屋に気が行き過ぎて気づいていなかった。


 ヤンデレ王太子が、



『コイツ、殺す』



と言う確固たる意志を持った眼差しをクルーガーの後頭部に向けていることを。


 実は、ススロット侯爵側から提示された部屋割りでは、クルーガーがクオーレと同室になっていた。


 いくらトワレ一筋の元賢者が子リスに全く興味がないとしても、そんなことはライトには関係ない。


 可愛がっているクオーレが、一時と言えども男と同室など許されないのだ。



『ヤバい、 ヤバい、 ヤバい』



 親友の命の灯が、このままでは消されてしまうと思ったリベルタは勇気を出して手を挙げた。



「あの!流石に婚約もしていない男女を同じ部屋というのは、いけないと思います!」



 教室でも、こんなに張り切って発言したことはない。


 全員が注目する中で、リベルタは冷や汗を流しながら熱弁をふるう。


 寒暖差が酷くて、体に悪い。



「クルーガーとトワレなら、婚約中ですし後数ヶ月で結婚です。だから、クオーレ様は私の部屋に来たらいいと思います!」



 珍しく自分にとって最高な意見を述べてくれるリベルタに向かって、クルーガーは満面の笑みで親指を立てる。


 クオーレも明らかにホッとした顔をしていたが、そこに思わぬ人の待ったがかかる。



「しかし、女性をこの部屋にいれるのには抵抗がありますね……」



 大人紳士シャイネンだ。


 彼は引率者としても、入っただけで病気になりそうな汚部屋に生徒を入れることが許せないらしい。


 悩ましげな表情を浮かべるシャイネンに、



「部屋を交換したら良いのではないでしょうか?」



とトワレが至極まともな提案した。


 クオーレの付ける指輪のように二十四時間の変身は無理でも『魔法のデパート』とリベルタに渾名を付けられたクルーガーなら、数時間程度の認識阻害は可能だ。


 一時的に目眩ましをすれば、部屋を移動するくらいは訳ないだろう。


 しかし、



「認識阻害の魔法で見た目は変えられても、身長は誤魔化せませんからね」



と残念そうにシャイネンが答える。



 リベルタは想像してみた。


 身長百八十センチ超えのリベルタとトワレを。


 そして笑いが止まらなくなり、この案は不可能だということを皆に示した。



「確かに、それは不自然だね。しかし、クオーレ嬢をあそこに入れたくないな。王太子である私が交渉して一人部屋を二つ用意させよう」



 ライトは、他の人間のことは横に置いておいて、クオーレを宜しくない環境に置くことが許せないようだ。


 それなら、最初からクルーガーとクオーレを一人部屋にしてしまえば良いだけの話。


 王太子の頼みなら、メンティラも二つ返事で受け入れるだろう。


 リベルタも、それならそれで良いと思った。


 しかし、ある男だけが猛烈に反発する。



「この部屋が、綺麗になったらいいんですよね?おい、リベルタ、やるぞ!」



 クルーガーは、リベルタを呼び付けると、



「先ずは、浄化魔法を掛けてくれ!」



と指示を出した。



「えー、面倒臭いなぁ」


「どっちしろ、お前はこの部屋で寝るんだぞ。綺麗にしてやるから手伝え!」



 物凄い勢いでまくし立てられ、リベルタは、渋々部屋全体に、



「クリーン!」



と浄化魔法を掛けた。


 すると、先ほどまでどんよりとした雰囲気だった部屋に、花畑のような爽やかな香りが漂う。


 そして、ベタリと張り付いていた黒いタール状の物も消えていた。



「よし、後は任せろ!」



 本気を出した前世賢者は創造系魔術を使い、汚部屋を貴賓室にも負けないクオリティへと作り直した。


 等価交換が基本の魔法だけに、不足材料はリベルタのマジックバッグから出させる。


 古びたマットには高級な絹と針金を取り込み、肌触りの良いスプリングマットに。


 味気ない壁紙は、化粧品ブランド『リベトワ』で使われている包装紙の柄を転写。


 細部にわたり美しさと可愛らしさを追求した。


 ここでライトを納得させなければ、折角トワレと同室などと言う夢企画が消えてしまうのだ。



「へぇ、あんた、そんな特技もあったのね」



 リベルタが感心するほど綺麗に改築された部屋は、女子の好みを全て詰め込んだような仕様だった。



「これで、どうでしょう?」



 ゼイゼイと肩で息をしながら王太子の判断を待つクルーガーだが、



「水回りがないから却下」



と言われてバタンと床に倒れ込む。


 多分、魔力を使い果たしたのだと思われる。


 しかし、当のクオーレが目を輝かして部屋に入り、嬉しそうにベッドを撫でるものだから、流石のライトも困った顔をした。



「殿下、わたくし、この部屋が好きです」



 面と向かって『好き』などと言われたことのないライトは、珍しくだらけた顔をした。



『決して、お前を好きと言ったわけではないぞ』



と、当事者以外の全員が思った。



「しかし、風呂やトイレがないのは……」



 渋るライトに慌ててリベルタが、



「ワタシ トイレ フロ イラナイ マホウ ツカエル」



と必要最小限の言葉で『キャンセル界隈魔法』を説明した。



「あぁ、先ほどの浄化魔法か。しかし、トイレはどうにもならないだろ」



 どんなに美しく気品のある人間でも、トイレ事情は気になるようだ。


 この世界では、現代の日本並みに下水が整備され、なんと水洗トイレまである。


 それ故に清潔感の基準は高く、生半可なことではライトの求める水準を超えられないだろう。


 そこでリベルタは、『トイレに行かない魔法』なるものの存在を初めて明かすことにする。



「先ず、こうやって、お腹に手を当てて自分の家のトイレを想像するんです。そして、そこへ移動しろ~って唱えると移動します。あ、お水を流すイメージも忘れずに」



 リベルタの説明に、床に倒れていたはずのクルーガーが思わず、



「お前、それ、転移魔法じゃねーか!」



と突っ込んだ。



「え?転移魔法?」


「物体を思ったところへ移動させる魔法だ。聞いたことはあるが、本当にやれる人間にはあったことがない」



 前世を足せば百年以上生きた記憶のあるクルーガーでも見たことがないのだ。


 どれだけ珍しい魔法か、それだけでも分かる。



「しかも、遠距離にあるトイレに水ながすって、念動まで使えるのか?」


「ワタシ ムズカシイコト ワカラナイ」



 全てが我流の天才リベルタは、どうやって水が流せていたのか説明がつかない。


 しかし、昔寮でトワレと暮らしていた時に、共同トイレで水が流せていない生徒がいると騒ぎになったことがあった。


 それが、自分が『トイレに行かない魔法』を使った後ばかりだったことから反省し、水を流すイメージもプラスするようになっただけなのだ。



「君には、ここから帰ったら一度じっくり話を聞く必要がありそうだね?」



 ライトの獲物を見るような獰猛な視線に、リベルタはビクリと体を震わせて直立不動になる。


 有能な珍獣を見つけた狩人が、如何にソレを働かせるかを瞬時に考えていると気付いたからだ。



『監禁されて、死ぬまで働かされるのか?』



 恐怖でガチ震えし始めたリベルタの前に、シャイネンが立った。


 彼の背中が守ってくれているように見えて、リベルタはホッと息をく。


 ライトに普段では考えられないほどの鋭い視線を向けたシャイネンは、



「彼女に関しては、王太后様を通してもらおう」



と冷ややかな声音で言った。


 シャイネンの体の周りに見えないブリザードが吹き荒れているように感じられる。


 普段穏やかな人間ほど、怒らせたら怖いのは世の常らしい。


 しかも、『白の審判』にルーチェが立ち会ったことは有名な話で、リベルタの後見人的見解が世間ではなされるようになっていた。


 シャイネンに加えてルーチェまで敵に回せば、次の王になれたとしても敵が多すぎる。



「それは……しかたないですね。シャイネン兄上の顔も立てて、ここは諦めましょう」



 自分の手駒として側近に加えようと考えていたライトは、あっさりとリベルタの事から手を引くようだ。


 それほどルーチェの庇護は、偉大だということなのだろう。


 こうしてなんとか部屋割りが決まり、白銀の髪を持つ女顔の元賢者は、一人密かにガッツポーズを取っていた。


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― 新着の感想 ―
≫白銀の髪を持つ女顔の元賢者 そう言えば、イケメン攻略者だったんだよなぁ。 もうイオンモールで妻と子供の買い物に振り回されてベンチで疲労困憊してる父親にしか思えんのよな…
王太后様の覚えめでたくっていうか庇護下のリベルタにこの仕打ちって、侯爵夫人は貶爵されたいの……?
トイレキャンセル界隈、万歳!
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