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【第四部開始】当て馬令嬢リベルタ〜転生喪女はゴーインニマイウェー〜  作者: ジュレヌク
【第三部 リベルタ十六歳 プロポーズ編】

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第八話 やりたい放題の男


「皆さま、本当に申し訳ございません。この度はご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」



 深々と頭を下げているのは、子リスことクオーレ・ハート公爵令嬢だ。


 そして、その隣に当然という顔で立っているのが王太子であるライト。


 この日は、ススロット侯爵家へ出発する日だった。


 そこにライトがクオーレまで連れてきたことで、マジックバッグ研究会のメンバーは正直迷惑そうな顔をしていた。



「そんなに嫌な顔をしないでくれ。彼女には、それは可哀そうな事情があるんだ」



 ライトはクオーレを右腕で指し示しながら、舞台俳優のような大げさな語り口調で彼女の身の上を話しだした。


 その目は己の行いは間違っていないという自信に満ち溢れている。



「実は、クオーレ嬢は先妻の子供。現在後妻が屋敷を牛耳っているハート公爵家では肩身が狭い状態になっている。しかも半年しか年の違わない異母妹がいる。可哀そうだろ?可哀そうと思っていいんだぞ?」



 何目線なのかわからないが、こちらを煽ってくるライトにリベルタは思わず石を投げたくなった。


 しかし、ヤンデレと戦って勝てるとは思えずグッと我慢する。


 ライトが言うには、クオーレの父バッサと後妻はクオーレの母が存命中からの関係らしい。


 婿養子と言うことは、爵位に目が眩んで恋人がいるのに結婚してしまったパターンだ。


 バッサは後妻の子供ばかり可愛がり、クオーレは屋敷の中でも部屋から出るのを制限されている状態で、使用人たちも彼女を侮っていた。


 しかし、実際に王家から婚約者候補として名前が挙がったのは前妻の娘クオーレだった。


 母親の血筋には戦争で名を馳せた将軍や穀倉地帯を牛耳る侯爵家に嫁いだ伯母などがいる。


 遠方に住む彼らが幾度となくクオーレを養子に迎えたいと訴えたことからみても、母を亡くした姪っ子を大切に思っていることは間違いない。


 それを断ったのは、婿入はしたが養子縁組をされていないバッサだ。


 彼の危うさを先代公爵は気づいていたのかもしれない。


 バッサに許されているのは、クオーレが成人するまでの中継ぎ業務。


 王太子妃となった場合も、血筋を遡って養子を貰うこととなる。


 バッサとしては、クオーレを家で飼い殺しにして自分の息のかかった男を婿に迎えるのが一番利が多いのだ。


 そして、上昇志向の強い元子爵の後妻と何でも一番でないと気がすまない腹違いの妹も『王太子妃』という不可能な夢に食いついた。


 義母は、実の娘へ婚約者候補を交代させる手始めとして、礼儀作法の教師に性格が悪いと噂のメンティラ・ススロット侯爵夫人を雇った。


 まだ、クオーレが8歳の時だった。


 その日から、ふわふわとしたクセのある焦げ茶色の髪を薄汚いと罵られ、王妃様のような金髪でなければならないと重量のある縦髪ロールのカツラを被せられた。


 そんな事をしたからと言って王太子妃候補が異母妹に行くはずもないのに、思い至らぬ時点で頭の出来が知れる。



「あのクオーレ嬢のあり得ないファッションは、全て後妻からの指示だそうだ。抹殺してやりたいとは思わないか?」



 ライトの思考が一々危ない。


 下手に口を出せば、こちらに飛び火すると皆黙る。



「これをどうにかしようにも、何も証拠がないままでは動きようがないんだ。だから、マジックバッグ製作を頼まれた君達に付いていって、何か糸口を見つけたい。いいだろ?」


 家庭内のことに一々王族が口を出せば、貴族達の反感を買う。


 娘にどんな礼儀作法の教師を雇うかなど、最も私的なことなのだ。


 打開策を拒否されると微塵も思っていない傲慢なライトに、あのトワレまでがポキポキ指を鳴らしている。



「クオーレ嬢に関する事柄でなくてもいいんだ。まず、何かしら奴らの弱みを握って、ススロット侯爵夫人を強制退場させたい」



 歯に衣着せぬ物言いは清々しくもあるが、もう少しオブラートに包んで欲しかった。


 要は、マジックバッグの利益を横取りするために何か仕掛けてくるだろうススロット侯爵を、逆に捉えてつるし上げるということだ。


 兄と慕うシャイネンすらも咬ませ犬に使おうとする次期国王は、近頃可愛がっている子リスの為なら手段を択ばない男だった。


 しかも、今回ライトがクオーレをススロット侯爵領に連れて行く理由が、



「自分のいない所で虐められるのは許せない」



からだった。



『見ているところなら、良いのですか?』



と突っ込みそうになった自分をリベルタは必死に太ももを抓って諫めた。



「しかし、ハート公爵家でも、急に彼女が姿を消したら問題になるだろう」



 流石に大人として黙っていられなかったシャイネンが、皆が最も気になるところを指摘してくれた。



「そんなの、シャイネン兄上の名前を使ったに決まっているではないですか」



 まったく悪いとも思っていない口ぶりだ。



『シャイネン兄上が指導なさるマジックバッグ研究会の皆様と、共に勉強できる機会を得たのです。ぜひ、クオーレ嬢を伴って参加させて頂けないでしょうか?』



 殊勝な物言いだが、リベルタ達を顎で使う気満々だ。


 しかも、戸惑うクオーレを引き連れハート公爵家へ乗り込むと、



『婚約者候補を集めた選抜試験がある。このまま私と向かうから、心配せぬように』



とだけ言い残し、その足でベリッシモ伯爵家へとやってきた。


 口八丁手八丁、生まれながらに詐欺師のような男である。



「お前、やりたい放題だな」



 思わず砕けた口調でシャイネンが漏らした一言に、



「それほどでも」



 とライトは悪魔の笑いを浮かべていた。














 馬車で半日。


 王都からさほど遠くないススロット侯爵領は、領内に入った時点であまり感じが良くなかった。


 領民達は先導する王家の馬車に夢中で、時々リベルタ達の馬車の進路を塞ぐ。


 退くように御者が言うと、



「伯爵家のくせに」



とヒソヒソ陰口を叩いた。


 自領が侯爵であることから明らかに、伯爵家を見下している空気感が漂う。


 ここに居る全員が侯爵の身内というわけでもないだろうに、何目線で偉そうにしているのか不思議でたまらなかった。


 玄関先に出てきた夫妻は、結婚50周年というからには60歳オーバーのはず。


 しかし、妻メンティラは、多少落ち着いた服装は持っていなかったのかと聞きたくなるほど、品のない派手なドレスだった。


 この衣装に合わせたマジックバッグと言われれば、いっそ既製品を赤いペンキで塗ればいいとさえ思う。


 しかし、トワレに何度も釘を刺されているリベルタは、後方に隠れるように身を縮めていた。


 一番前に立つのは、王太子であるライトと結界師として名を馳せる公爵令息のシャイネン。


 身分的に間違いではないのだが、ここに来た趣旨から考えると本末転倒だ。


 本来ならば今後マジックバッグを扱う商会を率いるトワレとクルーガーが先頭に立って挨拶をすべき場面。


 しかし、トワレが一歩踏み出そうとした時に、



「貴女の挨拶は不要です」



とメンティラ・ススロット侯爵夫人に止められた。


 伯爵家ですら軽んじる領民の親玉は、男爵令嬢の顔など見たくもないらしい。


 呼びつけておいて自分達より地位の高い者だけに媚びへつらう嫌な女に、リベルタは見えないように中指を立てた。


 隣に立つトワレは、指をポキってる。


 リベルタの前にいるクルーガーからは、舌打ちが聞こえた。


 そんなことなど気づいてもいないだろうメンティラは、



「ようこそいらっしゃいました。王太子殿下、ナーハフォルガー公爵令息」



と鼻にかかる色気増々の声でこの国でも指折りの優良物件に挨拶をする。


 他にいる者は目に入っていないのか?


 それとも、わざと無視しているのか?


 後者であることは、間違いなさそうだ。



「殿下とナーハフォルガー公爵子息が御出ということでしたので、お部屋には、特に気を使いましてよ」



 両手を広げ、



『どうだ、凄いだろう!』



という雰囲気で口の端を上げているが、来客を迎えるなら当然のことだ。



 一々物欲しげに感謝の言葉を求めないで欲しい。



 ただ、ここで揉めても話が進まないため、



「それは、楽しみだ」



とライトは嘘くさい笑みを浮かべた。


 一見賑やかなやり取りが行われている中、唯一震えている子リスがいる。


 ライトから送られた認識阻害の指輪を付け『灰色の髪を持つ少年』に姿を変えているクオーレだ。


 側仕えの少年という名目で連れてきた『男の子』は、多分男性と同室にされるのだろう。


 その事に今更ながら気づいてしまい、追い詰められた子リスはプルプル震えるしかなかった。

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― 新着の感想 ―
リベルタちゃんとトワレちゃんも そしてクルーガー君もシャイネン先生も 全員でライト君を容赦なくぶっとばしていいっっ ヾ(`ヘ´)ノ゛次期王だからって何でも許されるわけないっ ライト君は謙虚さをしっかり…
ヤンデレ王太子は商会的に迷惑だけどぷるぷる子リスちゃんは助けてあげたいのでお願いいたすリベルタ姐さん
証拠もなにも、そもそも入り婿とその後妻と娘が公爵家の実権を握っている時点で、御家乗っ取り事案として王家が介入しても、貴族制度を採用している王政国家なら何の問題もないどころか当然の事なんだけどね、本来は…
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