第一話 必殺オウム返し
第三部開始します。
投稿時間がまちまちになりそうなので、ブックマークしていただけると読み逃しがないと思います。
なるべく第三部の最終話まで毎日投稿できるよう頑張りますので、応援いただけると嬉しいです。
「息子のことを、お願いしますね」
これは、王太后ルーチェが『白の審判』を見届けた後、帰り際にリベルタの耳元へ囁いた言葉だ。
最初リベルタは何のことか咄嗟に分からず呆然としたが、徐々に意味を理解し頬が緩んだ。
確かにルーチェは『息子』という二文字を使い、母性の滲む笑みを浮かべていた。
リベルタは、飛び上がりたいくらい嬉しい気持ちになった。
シャイネンが、ちゃんと実母と親子をしていることが分かったからだ。
あまりにも高貴な人に対して軽々しく話しかけることはできないが、リベルタは精一杯の笑顔で頭を下げた。
その日以来リベルタは、時々あの時の夢を見る。
そして、とても幸せな気持ちになるのだ。
久しぶりにあの夢を見た今朝も、
『もう少し見ていたかったな……』
温かな気持ちが胸の奥から湧いてくるのを感じながら、目が覚めた。
「あら、リベルタ、まだ準備できてないの?」
既に着替えてテキパキと動くトワレが、ベッドの傍まで来てリベルタに声をかけた。
そして、寝ぼけ眼の同居人が一気に目が覚める言葉をかける。
「今日は、シャイネン先生と学園に論文提出に行くんじゃないの?」
「あ!そうだった!」
今日は、一人で学園に論文提出をしにいかなければならないリベルタを、出勤途中のシャイネンが拾って乗せていってくれるのだ。
慌てて飛び起きたリベルタは、歯磨きも、髪のセットも、朝シャンもやる時間がないことに絶望する。
「えーい、仕方ない!」
リベルタは、一年生の頃キャンセル界隈女子だった特技を生かし、サッと自分に浄化魔法を掛けた。
すると、クシャクシャの髪は美しいストレートに、目やにの付いていた顔はスッキリと、歯も磨きたてのようにキラリと光る。
「いつ見ても便利ね」
呆れたように言いながら、トワレは戸棚にある本を自分の分とリベルタの分とに分け始めた。
その様子を見たリベルタは、不貞腐れたように口を尖らせる。
後数ヶ月したらトワレとクルーガーは結婚して、ここに住むのだ。
と言うことは、リベルタは伯爵家に戻らざるを得なくなる。
雨が降ったら地面が濡れるくらい当たり前のことなのだが、さみしくて仕方なかった。
冗談で、
「うちの娘になる?」
と言ったトワレの言葉にコクコク頷くくらい彼女と離れたくない。
だから、こうしてお別れの時間をちょっとでも遅らせようと居座っているのだが、無情にも荷物整理は着々と進んでいた。
「ほら、ボーッとしてたら、先生来るわよ」
色々考え過ぎて動きが止まっていたリベルタの前で、トワレはパンパンと手を叩いた。
その音に弾かれるように、リベルタはパッと目を大きく開く。
「そうだった!」
ベッドから飛び降りると、久しぶりに制服に着替える。
スカートは問題なく着れるが、シャツのボタンがなかなか止まらない。
「また、大きくなった?」
「羨ましい話ね」
形の良いメロンカップ爆乳は、その美しさをそのままに成長を続けている。
トワレは、成長を拒否している自分の胸をチラリと見て、ため息をついた。
「トワレ、助けて」
「はいはい」
なんとかボタンを止めてもらうと、用意してくれていた朝食を食べ、準備してくれていた論文の入ったマジックバッグを持ち、階段を駆け下りていく。
トワレがいなくなると、人間としての生活が送れるのか不安になるレベルの依存状態だ。
リベルタが一階の店舗の扉を開けると、
「やぁ、リベルタさん、おはようございます」
既にシャイネンが馬車から降りて待っていた。
朝日に照らされて燃えるような赤髪が、キラキラと輝いている。
普段と違う服装も、リベルタの好みど真ん中を打ち抜いていた。
濃紺の三つ揃いスーツに薄い水色のシャツ。
ネクタイは、ストライプの入った鮮やかすぎないオレンジで靴やベルトはブラウンでまとめている。
そしてなによりも、柔らかな布地はシャイネンの逞しい体を優しく包み込み、表に現れるフォルムは色気に溢れていた。
「シャイネン先生、今日も素敵です。目が潰れそうです」
思わず漏れたリベルタの言葉を聞いて、
「リベルタさんも素敵ですよ。私も、目が開けていられないくらいです」
とシャイネンが言葉を返す。
これは、クルーガーが伝授した、『必殺オウム返し』だ。
真面目な男性ほど、女性が望む褒め言葉のボキャブラリーが少ない。
咄嗟に出てこないなら、相手の言葉を繰り返せばよいのだ。
これは、延々とシャイネンを褒めるリベルタ相手には有効な手段だった。
褒められ慣れていないリベルタも、毎回自分が褒めるたびにシャイネンが褒めるものだから、徐々に素直に言葉を受け取れるようになってきている。
こうして、なんとか朝の挨拶を無難に終えた二人だが、正直お互いの顔をちゃんと見られていない。
シャイネンは制服姿のリベルタがあまりにも可愛くて直視できず、リベルタはスーツ姿のシャイネンにときめきが止まらない。
ただ、この様子をクルーガーが見たら、
「え?先生、その格好、参観日にでも行くんですか?」
と突っ込まれたことだろう。
普段はラフなシャツにパンツという出で立ちのシャイネンだが、フルオーダーメイドの三つ揃いのスーツも似合う。
ただ、リベルタの横に立つと匂い立つ色気と男らしさが際立ち、残念ながら保護者にしか見えないのだ。
前世賢者の腹黒男は、さっさと二人がくっつけば自分もトワレを独占できるとあって、彼女に隠れて積極的にシャイネンを後押ししている。
今日も、結婚式場の下見とウェディングドレスの打ち合わせをわざわざ論文提出の日にバッティングさせ、リベルタだけで持って行くよう仕向けている。
彼は更に、
「お昼には終わるんですから、ランチくらい誘ってください。くれぐれも、服装は張り切り過ぎないでくださいね」
と指示を出していた。
しかし、残念ながらシャイネンとクルーガーの『張り切らない』の尺度は相当な乖離があったようだ。
「リベルタさん、忘れ物はありませんか?」
「はい。この中に私の持ち物は全部入っていますし、論文は、昨日トワレが入れてくれました」
自慢げにリベルタがシャイネンに見せたのは、『自分だけ』の特注マジックバッグだ。
通常の市販品には、LTKと刻印の入った金色の美しいプレートが上品に添えられている。
その由来は、勿論、製作者達の名前の頭文字。
シャイネンに関しては、本人が、
「これは、君たちの作品だからね。私は只の担当教員だよ」
と、固辞した為四文字目にSが入ることはなかった。
ただ、今リベルタの持つマジックバッグにのみLTKSが入れられている。
何故なら、
「ヤダヤダ、入れたい、入れたい、S入れたいの!」
と、前世喪女の爆乳美少女が『泣きながら床を転げ回る』という稚拙な抗議を行ったからだ。
その結果、最終的にシャイネンの方が音を上げた。
「君の分だけですよ」
ある意味、殺し文句である。
「はい!私の分だけでいいです!」
興奮で垂れた鼻血で胸元を赤く染めながら敬礼するリベルタの、なんと残念なことか。
このやり取りを見ていたトワレとクルーガーが、
「いっそのこと、LとSだけで良いのでは?」
「俺たちも、TとKだけで作るか?」
と、別の意味で盛り上がっていたのは気にしないでいい話だ。
ダメ元で、『囲われサブリナは今日も幸せ』シリーズを集英社小説大賞7に応募してみました。
良かったら、読んでみてください。




