幕間 過去の私
ーー私は、私自身がどうやって生まれたのかを知らない。
焼け焦げた大地。酷い臭い。……そして、多くの人や人ならざる者達の残骸。
私が最初に目覚めたのは、戦場の跡地だった。
気付いた時にはそこにいて、私はそこで何があったのかは知らない。
……知らないが。私が最初に抱いた感情は、憎悪だった。
憎かった。この世の全てが憎かった。
目に写る全てを破壊したい。邪魔する全てを滅ぼしたい。
憎くて憎くて憎くて憎くて………、
そこでようやく、私はどうして生まれたのかを悟った。
これは復讐だ。
この世界に……、こんな世界に対しての復讐だ!
戦わなければならないなら、壊さなくてはならないなら。
殺し合わなければならないなら。いっそこんな世界なんて滅んでしまえ………と。
私は託されたのだ。私は望まれたのだ。
なら、私がすることは決まっている。
近くに、人の集団がいた。
ーー私はそれを破壊した。
近くに異形の集団がいた。
ーー私はそれも破壊した。
今度は別の集団がやって来た。
ーー私は全てを破壊した。
壊して壊して壊して壊して。
気付いた時には、周りになにも残っていなかった。
でも、まだ足りない。私はまだ壊し足りない!
もっとだ! もっともっともっともっと!! この世の全てを壊してやる!
……だが、私がそれを成し得ることはなかった。
私と同じような存在が複数体。よってたかって私を攻撃した。
奴らの力は個々で言えば私よりも劣っていた。
だが、総力では私は敵わず、消耗したところを私は封印された。
殺されなかった。……いや、殺せなかったのだろう。
あの場で殺されても、私はすぐに復活することが出来た。私を本当の意味で殺すなら、完全に消滅させるしかない。……だからこその封印。
私の力ではこの封印を解くことは出来ない。私はここから出られない……。
何故だ! 何故私の邪魔をする!
私は託されたのだ! 私は望まれたのだ!
なのに、何故私はこんなところに閉じ込められなければならない!
私はそこで、更なる復讐を誓った。
いつかここから出た時、私を閉じ込めた奴らを滅ぼすと。そう誓った。
……それまでは、力を蓄えよう。
ーー封印されてしばらく経つと、私は少し冷静になることが出来た。
今まで復讐や、破壊のことしか考えられなかったのが、それが少しだけそれ以外のことも考えられるようになったのだ。
ーーその時、私は私の中にある知識を知ることになった。
その知識は全てを知ることが出来た。
まず、私は神であること。この知識は、世界から神に与えられる知識みたいだ。
そして、私を封印した奴らも神だった。私よりも前に生まれて、それぞれが争っていると。
何故争うのかというと、それは自分が他の神達より優れていると証明するため。
そのために、自分たちが生み出した眷属同士で。時には神自らが出て、争いを続けていると。
馬鹿馬鹿しい。……本当に馬鹿馬鹿しい理由だった。
そして私は初めて、私がその戦いで生まれた副産物というのを知った。
戦いで死んでいった者達の負の感情で生まれた化け物。それが私。
化け物、とあるように、本来の私はとても醜い姿になる筈だった。
だが、そうはならずに、私は人の姿で存在している。
それには明確な理由があった。
この世界には魔素というものが存在し、それがこの世界を動かす力であり、原点。全ては魔素から生まれ、魔素へと還ると言われているそうだ。
そして、魔素から生まれるもの。……神が創造したものでもなく、交配によって生まれたてものでもない。ゼロから魔素で構成されたものは、主に三種類存在する。
ーー善いものと悪いもの。そして、そのどちらでもないものだ。
魔素は全てのものになり得る可能性があると同時に、全てに影響されやすくもある。
魔素からなにかが生まれる条件として、魔素が多く、密度が高い場所というのがあるのだが、その場所。環境によって生まれてくるものは違うということだ。
清いもの、聖なるものが沢山ある場所では、善いものが。不純なもの、負の感情などが沢山ある場所では悪いものが。
もちろん、姿もそれに応じて変わってくるので、負の感情から生まれた私は醜い姿になる筈だった。
しかし、実際にそうはならなかったのは私の生まれた場所の特殊性にあった。
戦場という負の感情が集まりやすい場所。死体が魔素へと還り、大量の魔素があったという条件下。
それだけでなく、神さえも戦いに介入したことによって、私は化け物としてではなく神として誕生したのだ。
神もまた、元は魔素から生まれた存在。
他のと違いは、内に秘めている魔素量が尋常じゃないのと、その身に宿す神性の有無だ。
私は偶然にもその条件を満たしてしまったのである。
だが、そうして生まれたて私は他の神達にとっては想定外の存在だったのだろう。
自分たちが戦った結果、新たな神が生まれ、おまけに負の感情から生まれたから敵味方関係なく破壊して回っている。互いに利益など全くない。
だから協力して封印した。
それが私が知識から考察して至った結論だった。
……ふざけている!
自分たちが招いた結果なのに、自分たちに不利なものだからと封印した。
その行動には、神達の傲慢さが感じられた。
許さない。絶対に許さない!
再び、憎しみの感情が溢れ出して、私の思考を埋め尽くす。
……だが、封印されている私はなにもすることが出来ないない。
それが更に感情を増幅させて、私は憎悪しか感じられなくなってしまった。
ーー私は、ただただ憎悪し、呪うことしか出来なかったのだった。




