21話 絶望と始まり
ーー魔法。
それは、使えないものが一度は憧れる不思議な力。
この世界には魔素がある。彼女曰く、魔素を使えば魔法が使えると。
俺はそれを知り、歓喜した。……俺も魔法が使えると!
『それが、どうしてこうなったんだ……』
ーー現在。俺は現実に打ちひしがれていた。
そこにはかつての夢も、希望も、どこにも存在していなかった。
そんな俺を見るのは、やはりどこか呆れた様子の彼女。
『まさか属性魔法の適正がほぼゼロとはねぇ』
こう言う彼女は、見本はもういらないとばかりに空中に浮かべていた火や水を消した。
彼女が言うには、魔法が使えるかどうかは素質が全てだそうだ。
まず、魔素があるか。これはほぼ全ての生き物に魔素があるわけだが、ごく稀に魔素が全くない者もいるらしい。
当然、魔法も使えない。だが、俺には魔素があるのでこれは関係なかった。
次に、適正。
魔素があっても適正がなければ魔法は使えない。
それは、努力とかでどうにかなるものではなく、生まれつきの相性などで決まるそうだ。
例を挙げるとすれば、水中でいきる生物や、草木なのどの植物系は火の属性の魔法が使えないことが多いらしい。水中は当然だし、植物は自分が燃えるからだな。
ただ、やはり例外というのは必ずあるらしく、絶対ではないと言っていた。
……特に、異常種などはその傾向が強いらしい。
それを聞いた俺は当然、使えると思ってましたよ。彼女だって出来るんじゃない?的な空気出してたし。
……でも、結果は適正なし。
この結果はもう否定できない。なんせ、十日間もやったんだから。
この結果には、流石の彼女も驚いていた。
『魔素保有量だけなら確実にいけるのに。やっぱり木だからかしら?』
『だからって適正ゼロはないだろ……、』
『ゼロじゃないでしょ。一つだけ適正あったじゃない』
そう言った彼女が、俺に見せてきたのはスカイブルーの……、空色の梨のような形の果実。
そう。ゼロではなかったのだ。
唯一、一般的には光属性に入るらしい回復魔法というのは使えたのだ。……果実を実らせるという方法で……。
『でも、木の実を生やすだけじゃん! そんなの普通の木でも出来るぞ!』
『あなたは木でしょ。まあ、私もまさか回復魔法で木の実が出るとは思わなかったけど』
そう言って、その空色の実を齧る彼女。
齧った断面は外側よりも多少深い青色なので、パッと見、なんかヤバい果実に見える。
『いつ見ても、ヤバイ色した実だよな。本当にそれで回復するのかよ』
『効果は確かよ。それもかなりの効き目ね。下手すれば欠損部位も直せるんじゃないかしら』
そう言って再びその実を齧った。
『それにすごく美味しいわよ?』
『当たり前だ。その実を作るのかなり苦労するんだからな』
じつは、見た目とは裏腹に、欠損部位も直せてさらに美味しいその実を作るには、かなりの魔素量が必要だった。
それなりの魔素を使って生み出すのに、品質がくそな訳がない。でなければ最悪だ。
『しかし、他の適正がゼロとは……。少しくらいあってもいいだろ』
『草木を生やせて、自身の枝葉や根っこを自在に操れるでしょ? 植物系ならそれで十分よ』
確かにそうだが……。でも、やっぱり魔法使いたいじゃん! 火の玉とか飛ばしたいじゃん!
『それに、あっても使うことないでしょ? 水や風はともかく、火はどうするのよ。燃えるわよ?』
『俺はそんな簡単に燃えるほど柔じゃない! ……だが、確かにそうだな』
使ってどうするのか? ここには魔法なんて使う対象はいない。
基本的に彼女と俺だけだし、他も小さな虫や爬虫類ぐらいしかいない。使うとしたらちょっとした遊びぐらいか?
……そう考えると、確かに使う対象がいないな。
探しに行こうにも俺動けないし。なら、なくても別にいいのでは?
『……いや、雰囲気が大事なんだ! 使えるっていう雰囲気が!』
『いや、あなた…。雰囲気って……、』
つい本音が漏れてしまった。そしてそれを聞いた彼女には呆れられてしまう。
そんな露骨な反応しなくても……。
『…………今使える物で我慢するか』
『? なんかよく分からないけど、そうしなさい』
結局、俺は曖昧に話を終わらせて次のことを考えることにしたのだった……。
『……なあ。お前の敵が来るまですごく暇じゃないか?』
唐突に。まるで今思い出したかのように、俺は彼女に聞いた。
すると、彼女はなんでもないかのように、こう言った。
『暇ね』
……分かりきっていた答えではあったが、願わくばなにかもう少しマシな答えを期待していたんだが。
『じゃあどうするよ?』
『どうするって……、なにもしないわよ。下手に動くとめんどくさそうだし』
かつては世界を滅ぼそうとした邪神。自分の立場はしっかりと理解しているようだ。
俺が彼女に感心していると、今度は彼女が聞いていた。
『あなたは、何かしたいことはないの?』
『あるぞ。まず、この世界のことを知りたいな。あと、魔法のこととかもっと聞きたいし……。あ、あともう少し、ここの生き物増やしたいな。今のままでもいいが、もう少し賑やかなほうが楽しいだろ』
『……以外にやりたいことたくさんあるのね』
『当たり前だ。それに、一番大事なこともある』
『一番大事なこと?』
首をかしげる彼女に俺は言った。
『お前のことだよ。これから一緒にいるのに俺はお前のことを何も知らない。聞くのはまずいかなと遠慮してたが、これからのことを考えると知っておいた方がいいだろ?』
なんせ、最低でも後百年近く一緒にいることになるのだ。その間に何かあって彼女はここを離れるかもしれないが、それでもかなり時間がある。
なら互いを知るのは、当然、必要なことだろう。
そう思っていると、彼女の顔が赤くなっていることに気付く。……多分、また変な勘違いをしていると思うがあえて訂正したりしない。だって絶対めんどくさいことになりそうだもん。
すると、顔を赤くして少し俯いていた彼女は俺に言った。
『……そうよね。大事なことよね』
そう言う彼女だが、もじもじしながら少し躊躇っているような様子だった。
『でも、昔の私はこう……、少しおかしかったの。私としても恥ずかしいし、あなたも幻滅してしまうかもしれないけど、それでもいい?』
あー、確かに前にもそんなこと言ってたな。今更だよ、いまさら。お前が邪神の時点で今更すぎることだ。
当然、俺は気にしない。
『幻滅したりしないから、大丈夫だよ』
『……本当に?』
『ああ、約束しよう』
幻滅はしない。ドン引きはするかもしれないが……。
と、そこで俺はもう一つ大事なことに気付いた。
『そういえば、名前! 俺たちまだ名前なかったよな?』
『? ああ、そうだったわね。なくても何とかなってたから忘れてたわ』
あなたとかお前とかで、通じてたもんな。
でも、流石に名無しのままじゃダメだろ。
『じゃあ、お互いに考えるのはどうだ? お互いの印象みたいなもので決めるんだ』
我ながらいい案を思い付いた。自分で考えるとなんか変な名前にしそうだし。
そう思っていたのだが、彼女は違ったようだ。
『……あなたが私の名前考えるの?』
『なんだよ? 不満か?』
『……絶対に変な名前付けられそう』
さらっと失礼なことを言う彼女。
心外だな。俺はやるときはやる男だ。
むしろ、そう思われていたなら本当に変な名前付けてやろうかな? ……いや、やめよう。やっぱりとか言われそうだし。
『安心しろ。お前にピッタリの名前を考えてやる。だから俺の名前もしっかり考えてくれ』
『……本当に大丈夫でしょうね?』
疑いの視線を俺に向ける彼女。
その後も、ごねるような感じて嫌がったので俺は強引に推しきったのだった。
ーー三日後。
『そろそろ決まったか?』
『ええ、大丈夫よ。……あなたは?』
『大丈夫に決まってるだろ!』
俺の言葉に不安そうな表情の彼女。だからなんでだよ。
だが、自信はある。なにせ、三日間考えたのだ。
なにもすることがなく、時間だけが無駄にあるから、名前だけでもそれだけの時間考えられたのだ。
これほど、じっくり考えたので、俺には自信しかなかった。
『じゃあ、どっちから言うか?』
『………なら、私からで』
彼女がそう言うまで、一瞬の間があった。
多分、自分の名前を先に聞くのが不安だったんだろう。どんだけ心配してんだよ……。
『あなたの名前は黒いから《ネロ》よ』
『ネロ? 黒ならクロとかそういう名前だと思ったが……、』
『ネロはこの世界の言葉で黒という意味よ。……ああ、そういえば言ってなかったわね、念話は相手に分かる単語で伝わるけど、意識すればこの世界の言葉を伝えることが出来るの。私は《ネロ》と思っていたのはあなたには黒いと伝わってる筈よ』
なるほど、そういうことか。
確かに俺はこの世界の言語知らないからな。念話ってやっぱり便利だわー。
それにしてもネロか……、
『うん、いい名前だ。気に入ったよ』
『そう言って貰えると嬉しいわ』
俺が感謝を伝えると、彼女も微笑んだ。
うん、本当にいい名前を付けて貰った。
『で、次はお前の番だが……』
『っ!? ……いいわよ。覚悟は出来てるわ』
俺が彼女の名前を言おうとすると、何故か彼女は身構える。
なんだよ。まだ、俺のネーミングセンス疑ってるのかよ。いや、確かにあるか知らんけど、それでも名前くらい普通につけられるわ!
『お前の名前は《アゲハ》だ』
『…………、』
ん? 何故無反応? まさか向こうにはさっきの念話の話であったように別の言葉に聞こえてるのか?
『ど、とうした? ちゃんと伝わらなかったか?』
『っ! いいえ、ちゃんと伝わってるわよ。アゲハでしょ? なんなのそれ?』
無反応……、というより一瞬固まっていたような感じだった彼女がビクンッ!と反応する。
よかった。ちゃんと伝わっていたみたいだ。
『そうか。なんか反応なかったから伝わってないか、気に入らなかったかと思ったよ』
『そうじゃないわよ。……ちょっとビックリしただけ』
『ビックリ?』
『……なんでもないわ。気にしないで』
そう言って顔を背ける彼女。
ビックリ? なんで驚いたんだ?
『まあいいや。で、アゲハの意味だっけ? アゲハは俺が知っている蝶の名前なんだが……、』
『なに? 私そんな虫知らないんだけど? それにあなた私に虫の名前をつけたわけ?』
急に睨んでくる彼女。
なんでだよ。いや、確かに虫の名前だけどさ。
『落ち着けよ。……そのアゲハなんだけど、色々な種類があってさ。中にはお前みたいな綺麗な色した種類もあるんだよ』
『……っ! ……綺麗って………、』
『俺のイメージではアゲハは上品なイメージがあったからお前にピッタリだと思ったんだが……、駄目か?』
説明の途中で急に俯く彼女。……やっぱり、虫の名前は駄目だったか?
しばらくそうして何か呟いている様子の彼女に、俺は慌てて違う名前を考えようとした。
『い、いや、ごめん。やっぱり駄目だよな。今度は虫の名前じゃないやつに……』
『いい』
急いで弁解をする俺に、彼女は遮って言った。
『この名前で……、いい』
『……お、おう! よかったよ!』
いや、ホントに。
新しい名前を考えるのめんどくさかったし。彼女に不機嫌になられても困るし。
『じゃあ、お互いの名前も決まったことだし、これからもよろしくな。アゲハ』
改めて、俺は彼女の名前を呼ぶ。
自分でつけといて結構いい名前だと思っている。
彼女の様子から最初は嫌かと思ったけどそうじゃないみたいだし。
彼女………。いや、アゲハは俺に名前を言われた瞬間、俯いた状態からバッと顔を上げた。
どこか恥ずかしそうな彼女だったが、しばらくもじもじすると、不器用にニコッと笑ってこう言った。
『ええ。これからよろしく。……ネロ!』
不器用に見えたその笑みは、色々な感情が混ざっているように見えて……、
ーーだが、俺にはとても嬉しそうにも見えた。
取りあえず、話としてはここで一段落ですね。
次からは番外というか幕間の物語を挟むつもりです。
どうぞ、これからもよろしくお願いします!
あと、主人公成長日記は気が向いた時にとかに書くので毎回は書かないつもりです。
そこも、よろしくお願いします。




