13話 面倒くさくてヤバいヤツ
封印から出てきたヤツは、すごく面倒くさいヤツだった。
……いやホント。マジで…。
『あのなー。人の幹に蹴り入れるヤツいるか? そこのコブ、一応古傷なんだぞ』
『返事しないアナタが悪い。私を無視するからよ』
そう言ってそっぽを向く少女。……いや、ここ俺の上だからどっちに顔を背けても無駄だぞ。
それに別に痛くないからいいけど、人の幹に蹴り入れることのほうが悪いだろ。
『それにしてもこのコブは古傷だったのね? 座るのに丁度良かったわよ?』
『いや、古傷の上に座るなよ。瘡蓋の上に座っているようなもんだぞ』
『……そう言われると気持ち悪いわね』
そう言って、コブから離れる少女。
いや、俺もそこまでリアクションされると地味にショックなのだが…、
『てか、座ったことあるのかよ。いつ座ったんだよ?』
『そりゃあ、アナタ……、』
何か言いかけた少女は、そこで思い出したかのように再び俺に食って掛かってきた。
『そうよ! アナタ起きるの遅すぎなのよ! いったい私が何日待ったとおもってるの!?』
『お、おい。落ち着けよ』
『呼んでも呼んでも起きないし! このまま起きないと思ったんだから!』
突然のことに動揺する俺だが、少女の目には涙を浮かべていた。
そういった反応されるとこちらとしても非常に申し訳ない気持ちになる。
『わ、悪かったよ。でもそんなこと言われたって眠かったものは仕方ないだろ?』
『三十日よ、三十日! どんだけ寝れば気が済むのよ!』
まるで溜まっていた鬱憤を晴らすようにコブに蹴りを入れる少女。……だから人の古傷に蹴りを入れるのは止めなさいって。
というか、三十日も待っていてくれたのか。それは申し訳ないことをした。
『ちなみにその三十日間は何してたんだ?』
『……ずっとあなたの上にいたのよ。それこそ、コブの上に座って』
……それは、本当に申し訳ない。
『毎日呼び掛けたのよ? でも全然起きるの気配がしないから…』
じゃあ、俺が起きたときに呼び掛けていたのはコイツだったのか。毎日呼び掛けるなんて律儀なヤツだが…、まあ悪い気はしない。
『それは本当に悪かったよ。ところでお前はどうやって俺の幹の上まで来たんだ? 登ったのか?』
『? あなたが上げてくれたんじゃないの? 気付いたらここにいたけど…』
言われてみればそんな記憶もあるような、ないよな…。
確か途中で一回起きたときだったか? 寝ぼけててうまく覚えてない…。
『他に、俺が寝ている間に何かなかったか?』
『え? ……そうね。私も最初の方は寝ていることも多かったから曖昧なのだけど、三日間ぐらい雨が降ってきたことぐらいかしら? あとは特に何もないつまらない毎日だったわ』
『そうか……。ありがとう』
『? どういたしまして?』
これで俺が寝ていた間のことが大体わかったな。
三十日間も寝ていたことには驚きだったが、それ以外は特に変化もなし。封印を破壊したからなにかこの地に悪影響があるかと思ってたけど杞憂だったらしい。
むしろ、地上にエネルギーが溢れ始めていい傾向なのでは?
『ところで今更だが、お前はなんなんだ? なんで封印されてたんだ?』
大体状況を理解してきた俺は、ここで一番気になっていたことを少女に聞いた。
すると、彼女は急に顔色を悪くした。
『あ、え? わ、私は……』
そう言って口ごもる少女。……なるほど、この話題は彼女にとってタブーなのか。
なら聞いてしまって悪かったかな?
『すまん、答えにくいことだったみたいだな。今の質問は忘れてくれ』
『!? ……いいの?』
『話したくないんだろ? なら無理には聞かないさ』
『……ありがとう』
小さい声で感謝を口にする少女。その姿は普通の少女にしか見えない。
服装は黒のワンピースで身長は百六十センチぐらい。普通に美人な感じでかわいいところもある。それに深い青?紫? 黒っぽいような艶やかな長い髪がすごく綺麗だ。
……性格は残念だけど。
本当になんで封印されてたんだ? ……逆に気になるな。もしかして、本当にヤバいヤツなのか?
とりあえず、話題を変えるか。
『で、お前はなんて名前なんだ? 流石にこのままお前呼びもまずいだろうし教えてくれよ?』
『え?』
今度は、びっくりしたような。とぼけているような顔をする少女。だが、次第に申し訳なさそうな顔をする。
な、なんだよ。せっかく話題変えたのになんでそんな顔するんだよ?
『……ごめんなさい。私、名前がないの…』
……これもタブーだったか…。
てか、名前ないってなんなんだよ。ますますどんな存在か気になるじゃないかよ。
少女も俺が気を遣って話題を変えてくれたのにそれに答えられなかったことをすごく申し訳けなく思っているようだ。必死にどうにかいい話題がないか考えてる。
『あ、そうだ! 名前! あなたの名前はなんていうの?』
『へ? 俺も名前ないけど?』
『……え?』
すまん、俺もないんだ。そろそろ考えようかなとは思ってたんだけど考えるのが面倒で…。
『そ、そうなんだー。ごめんね? 変なこと聞いちゃって?』
『いやいや、俺の方こそ名無しですまん』
『あははは……、』
『あははは……、』
『『………はぁ、』』
まずい、さらに気まずい感じになってしまった!
ここはさらに話題を変えないと……。
『あー! 俺が木だってことビックリしたんじゃない?』
『え? ええ、そうね! 変なヤツとは思ってたけどまさか木だなんて思っても見なかったわ』
『だよなー! 封印越しだと互いの姿わからないし不便だったよなー!』
『ええ! 会話もできなくて意志疎通が大変だったわね!!』
『マジそれな!』
『ええ! そうね!』
『『あはははは!!』』
………………、
…………。
……なんだろう。この気まずい会話は?
彼女も俺が話題を反らそうとしていることに気付いてるからノッてくれるが、なんか互いに気を遣って気まずい会話になってる。
でも他に話すことなんてあるか? 俺のこと話すか? でも俺も自分のことよく知ってる訳じゃないし……、
『………ねえ?』
『……っと、どうした?』
と、再び会話が止まってしまったタイミングで彼女が俺に話しかけてきた。
その表情はどこか真剣そうでこちらも真剣になってしまいそうだ。
『……やっぱり、自分のことを話さないのはあなたに失礼だと思うの』
『い、いや。無理して話さなくても…、』
『いいえ、聞いて欲しいの!』
そう言う彼女だが、その表情はとても不安そうだった。
『……でも、この話を聞いたらあなたは私を拒絶してしまうかもしれない。それが少しだけ……怖いの』
え? やっぱりそういう話なの?
確かにそれは怖いだろうけど、俺は話を聞く前からすでに怖いよ。
『だから、これだけはお願いして欲しいの。……どうか私の話を最後まで聞いて欲しいのと……。それと……よかったらあなたの話も聞きたいの』
『俺の話?』
『そう。私だけ話すのもなんか恥ずかしいし……。あなたの話を聞きながらならなんとか話せると思うの!』
マジかよ? それはさっき話すことないって結論付けたことだぞ?
『だめ……かな?』
すごく申し訳なさそうに、しかも彼女は目に涙を浮かべてすがるように聞いてくるが、すでに俺は逃げたい気持ちで一杯だ。
なんだよ。なに聞かされるんだよ?
でも、この雰囲気で嫌ですなんて言えないじゃん!
『……分かった。そうだな、互いを知るのは大事だからな』
『っ! ありがとう!』
そして俺は承諾した。……してしまった。
止めろ。そんな目で俺を見るな。俺は聞きたくないし話すことも何もないんだぞ! 良心が削れる。
『じゃあ、私から話すね?』
そう言う彼女は、何故かもじもじしていた。
なんだよその反応。話すのが怖いんじゃなかったのかよ? 情緒不安定なのかな?
退路が一切ない俺に、次に彼女が放った言葉がトドメを差しにきた。
『実は私…、簡単に言うと邪神みたいなものなの。ちょっと昔に世界を滅ぼしそうになってそれで封印されたの』
その一言で俺は悟った。
………ああ、なんだ。単純にヤバいヤツじゃん。




