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ミナミの秘密基地に僕ら4人が揃ったのは、午後九時を過ぎたころだったと思う。一番遅れてきたレイはきつね色のダッフルコートを脱ぎながら、ミナミの部屋について一言、
「落ち着くな、ここ」
と言った。
「だね。本とコーヒーの混じったいい匂いがするし!」
コハクもレイの言葉に同意し、ミナミは照れくさそうにしている。
僕らは持ってきた荷物を部屋の隅にまとめると、三角窓の前のカーペットの上に置かれた天体望遠鏡の周りに集まった。
「覗いてみて」
とミナミが言ったので、僕らは順番に片目をつぶって筒の中を覗き込んだ。明るく光る星々の中に真っ暗な空間が広がっている。これが少しの間、夜を地球から奪った星の亡骸だった。
「何もない」
僕が言った。するとミナミが、
「見えないだけで、ないことはないと思う」
と答えた。
「見えないのと、存在しないのって途轍もなく大きな違いなのに、俺たちには見分けることもできないなんて、何か歯がゆいな」
レイは見えない星を見つめながら、誰かに言うでもなく呟いた。そんなレイの言葉に、僕も途端に歯がゆさを感じてしまった。
存在しているのに見えないもの。それはまだこの世界にたくさんある。例えばコハクを苦しめた冬眠病のメカニズム。それから僕やミナミが変換した自然のエネルギーの正体。そして僕がコハクに抱いている恋心のような気持ちも、存在しているのに見えないものだと思った。
「そうかなー?」
するとコハクがレイに反応して、こう続けた。
「全部見えないから、世界って面白いんじゃない? 何もかも分かっちゃったら、つまらないよ」
「解き明かす喜びが奪われてしまうってこと?」
レイがコハクに尋ねる。
「ううん、違う。分からないものは常になくちゃいけないと私は思う。私たちに解けるほど、簡単にこの世界は創られていないよ。私たち自身もそう。自分のことだって、中学生になったのによく分からないもん」
それからコハクは月明りに照られながら、ミナミの持ってきたアルバムのページをめくった。小さな文庫本くらいの厚みになったそのアルバムには「夜」が消えた世界の様子が何枚も収められていた。ミナミが一眼レフカメラで撮った写真を、わざわざ写真屋さんで現像して本にまとめたものだ。
「せっかくだから、データでも紙でも残しておきたくて」
ミナミがアルバムを僕らに見せたとき、彼女はこう言った。猪島公園の木々や駅前の交差点。昼間とは違う明るさをした空が、この街から「夜」を奪った瞬間を映していた。もう二度とこんな光景は見ることができないだろう。
僕はこの宇宙の奇跡が、僕ら4人を繋げてくれたのだと思った。そしてそこから一歩踏み出すのは、僕自身の勇気にかかっていた。




