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星が煌めくよく晴れた夜、僕は泊まる準備をして『喫茶 まどろみ』へ向かった。刺すように冷たい風が、マフラーに弾かれて頬にあたる。
『まどろみ』の前の小さな通りは僕以外に誰も歩いていなかった。月や星と街の光が、アスファルトに僕の影を映し出す。ちっぽけなそれは、様々な角度から照らされてぼやけていた。
僕はかつてこの道を『雨に唄えば』のジーン・ケリーのように楽しそうに歩いていった斑鳩先生のことを思い出した。あのときはじめて、僕は先生と出会った。
超新星はなくなり、先生もいなくなった。そう思うと暗くなった夜道は寂しい。
すると後ろから、僕を呼ぶ聞きなれた声がした。
「ヒカリくん!」
コハクだ。白い格子柄のリュックを背負って、僕のもとへ走ってくる。
「捕まえた!」
別に鬼ごっこなんてしていないのに、コハクは相変わらず楽しそうだ。
「さっきそこの交差点でヒカリくんを見つけてね、追いかけてきちゃった」
「そうなんだ。ごめん、気づかなくて」
「ううん、いいの。だって見つからないようにわざと隠れてたから」
「なんだよ、それ」
「だってヒカリくんって時々立ち止まるんだもん。何しているのかなーって思って、調査してしまいました」
確かに僕は『喫茶 まどろみ』に向かいながら時々足を止めていた。それは街のあちこちに、夜がなかった頃や斑鳩先生を思い出すものがあったためだ。あの非日常な日々のなかで、僕は何度もここを往復していた。
「それで僕のことは何かわかった?」
「全然、分からなかった! だから何をしていたか、訊いてもいい?」
「今日はよく星が見えるなーって、空を眺めてた」
「それだけ?」
「うん」
「なーんだ」
僕は立ち止まって、ある星座の端っこを指さした。明るい星たちが瞬くなかで、その一帯だけ黒くぽかんと穴が開いている。
「あそこが超新星爆発があった星だよ。信じられないくらい明るく輝いたあとで、死んでしまったんだ」
「そうなんだ。何だか、寂しいね」
「うん。星座の形も変わってしまったし」
僕は頭のなかでその星座をなぞってみた。しかし死んだ星があるせいで、形にならない。もともと目立つ星だったために、その星を失った星座はもはや星座ではなくなっていた。
「あんなにも輝いていたのに簡単に消えてしまうんだ」
僕は寂し気にそう付け加えた。するとコハクが、
「消えてしまったのは寂しいけれど、まあよかったんじゃない?」
と言った。
「最期にあれだけ輝いていたのだから、きっと宇宙中で忘れられないくらいの印象を残したと思うよ」
「あはは、たしかに。そうだね」
僕はコハクの話のスケールの大きさに笑ってしまった。しかし実際にこれはスケールの大きな話だった。人間だとか、世界だとか、地球だとか、そんなものはすべてちっぽけなものでしかない。
「それに私のことも、救ってくれた」
続けてコハクは小さくそう呟くと、
「さあ、行こ! レイくんとミナミちゃんが待っているよ」
と僕の手を掴んで歩き出した。




