67
ミナミが手招きに誘われて階段を登った先は、まるで秘密基地だった。2階というよりは屋根裏部屋で、三角形の天井に焦げ茶色の梁が何本も水平に連なっている。
綺麗に掃除された床にはカーペットが敷かれ、寒さに備えて電気ストーブが置かれていた。十字に格子のかけられた窓の前には小さな机があり、ミナミが直接カーペットの上に座っている。
「おじゃまします」
僕は小さく声を出して、ミナミの秘密基地へ入った。僕の中ではまだ、好奇心と気まずさが両立して存在していた。
「うん」
ミナミは聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう返答した。机のうえには最新型のノートパソコンとスマホがケーブルに繋がれている。埃がかからないように布で覆われた本棚が秘密基地の両側の壁に鎮座していた。
「すごい。これって全部鯨川さんの?」
僕はその蔵書の数に驚いた。どこかの作家先生の書斎かと言わんばかりに、難しそうな本が並んでいる。小説だけではなく、哲学や物理学についての本もあった。
「うん、そう」
天文関係や医療関係の本もまとめられている。小柄なこの部屋の住人は机の前に「ぺたん」と座ったまま、さらに近くに来るように手招きした。
ミナミが座る窓の近くには天体望遠鏡があった。月や星を観測するために白い筒が空に向かって傾いている。
ミナミに呼ばれてカーペットの上へ座ると、下から登ってくるコーヒーの匂いがした。
「天文学とか好きなの?」
「うん。前は興味なかったけど、いろいろあったから」
「超新星爆発とか?」
「それもあるけど、コハクちゃんの冬眠病とか」
「そっか。なるほど」
僕はさっきミナミの本棚に天文学と医療関係の本がまとめられていたのを思い出した。ミナミもコハクのために動いてくれていたのだ。
「将来はお医者さんになりたいから。冬眠病専門の」
ミナミは少し照れくさい感じでそう言った。僕は驚いた。
「なれるよ。鯨川さんなら」
「でも小説家にもなりたいと思ってる」
「あはは、どっちもなれそうだね」
僕は笑いながら、部屋の隅に大量のノートがまとめられて置かれているのを見つけた。成績一位をキープするためにミナミも必死になって勉強していたのだ。
いや、もしかしたら勉強量は多くてもそれほど辛くないのかもしれない。前にミナミは「勉強が好き」だとも言っていたからだ。
「ここには誰かほかに来たことがあるの?」
「コハクちゃんが来たことはある。だから平川くんで二人目」
「そうなんだ。なんか光栄だね」
「うん。今度は、その、邑朋くんを呼びたい」
はじめてミナミの口からレイの名前を聞いた。恥ずかしそうなその響き。僕はミナミのレイへの想いに気づいた。
「じゃあさ。今度4人で天体観測しようよ。ここだったら星もよく見えるし、暖かいから」
「うん。いいと思う」
思い付きで提案してしまったが、天体観測会をするということは夜遅くまで一緒にいることなると今頃になって僕は気づいた。ミナミの家で実質「お泊り会」をするようなものじゃないか。
僕はその事実に、心臓がドクンと脈打つのを感じた。




