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夜が更けた大学病院の研究室は冷たい心地がした。白い無機質なブラインドの外は暗く静まり返り、この部屋だけが世界に取り残されてしまったかのようだ。さっきまで夜空を白く染めていた超新星はもういない。
斑鳩先生は僕の頭や腕に電極らしきものを取り付けると、研究室の真ん中にあるベッドへ横になるように言った。ベッドの脇の机には白い小包ほどの装置が置かれ、いくつかの画面にグラフや数字が映し出されている。
「君が最後にコハクさんへエネルギーを送ったのはいつでしょうか?」
「今日の夕方です」
「なるほど……」
斑鳩先生はそれ以外何も言わず、画面を見ながら装置の周りをぐるぐると二、三回歩いた。レイは腕を組みながら、心配そうに僕らを見つめている。
「結論から申しますと、残念ながら平川くんの治癒能力は完全に失われてしまったと考えるのが自然です。先日まで身体のあちこちで起こっていた常識では考えられない細胞の動き、いわば宇宙エネルギーの働きが、今では全く観測できません。これは平川くんだけではなく、世界中の超能力者たちにもみられ、彼らも同じように能力を失ったと研究者仲間たちから報告が相次いでいます。
これらのことから、やはり君たちは超新星の光によって、備わっていた何らかの能力を一時的に覚醒させられたと考えられます」
僕は天井を眺めながら、先生の話に耳を傾けていた。コハクを救った僕の能力は、ただの宇宙からの借り物だったのだ。
「じゃあ僕はもう、治癒能力を使えないんですね?」
「ええ、おそらく」
レイが短く息を吐いて、腕を組んだまま目を落とした。その感じはまるで僕を軽蔑しているかのようだ。こんな期間限定の能力に目覚めたくらいで、彼に対して優越感に浸っていた自分が恥ずかしい。
「コハクを目覚めさせる術は、他にないのでしょうか?」
僕の言葉に先生はしばらく黙り込んだ。なかなか口を開かないので、僕とレイは不本意ながら目を合わせる。
「コハクさんの眠りに関して、一つ分かったことがあります。ショックを受けるかもしれませんが、落ち着いて聞いてください」
予想外の先生の言葉に僕とレイは身構えた。さっき廊下で聞いた「命の危機」という単語が頭をよぎる。
「私は今まで宇宙からの未知のエネルギーが、コハクさんを眠らせていると考えてきました。彼女が患っている、いわゆる冬眠病の眠りを観測すると平川くんたちと似た細胞の反応が確認できます。
しかしなぜ同じ超新星のエネルギーが、平川くんたちには超能力を発現させ、コハクさんだけには永遠の眠りという試練を与えるのか、ずっと疑問に思っていました。同じエネルギーのはずなのに、一方では人間の能力を覚醒させ、一方では深い眠りについているかのように鎮静化させる。これは科学の常識ではあり得ないことです」
先生は悩んでいるように眉間にしわを寄せ、僕が寝ているベッドの横の椅子に腰かけた。
「私は途方に暮れました。やはり宇宙の神秘は科学では解決できないのか、と。そうして頭を悩ませていたときでした。『喫茶まどろみ』のコーヒーが私にヒントをもたらしたのです」
「まどろみのコーヒーがですか?」
宇宙と全く関係ない単語が出て、僕は驚く。
「ええ。私はいつもあそこでジャワコーヒーを頼むのですが、その日だけは売り切れていたのです。それでミソラさんにコナコーヒーをお願いしました。確かにジャワのように酸味も強いですが、甘みもある。
私はミソラさんに、淹れ方は同じなのに豆が違うだけでこんなにも変わるのですね、と言いました。ミソラさんは私の言葉に、コーヒーは奥が深いんですと答えました」
この話が超新星や冬眠病と一体どう関係するのだろうか。するとせっかちなレイが僕の疑問を代弁してくれた。
「つまりどういうことですか?」
「コーヒーの例えを使うなら、豆を平川くんとコハクさん、淹れ方を超新星のエネルギーだと思ってください。
私はどちらの豆も同じものだと考えているので、同じ淹れ方をして味が大きく変わるのは不思議だと感じました。しかしながら、豆が同じものだという前提を覆せば、同じ淹れ方をして味が変わっても何の不思議もありません。
つまり私は平川くんとコハクさんの身体が全く同じ状態で超新星からのエネルギーを受け取っていると考えていました。この前提が間違っていたのです」
先生はパソコンを操作すると、画面上にコハクのカルテを出した。僕がさっき検査したときと同じようなグラフや数字が複雑に並んでいる。しかしその数値は僕のものとは明らかに異なっていた。
「コハクさんは超新星のエネルギーによって眠らされていたのではありません。超新星のエネルギーによってかろうじて生かされていたのです」




