45
そんな感じで、何となく上の空になっているコハクの注意を引こうとしていたら、いつの間にか文化祭が終わっていた。前日までの準備期間も文化祭当日も、僕はほとんど覚えていない。
当然ながら、学級委員であるコハクは、僕と違って忙しそうにしていた。それでも雪景色のような瞳の奥に靄がかかり、目の前の文化祭に集中できていないことが僕には分かっていた。
レイは隣にいるようで、もうここにはいない。
授業中も休み時間も放課後も、レイはコハクに素っ気ない態度をとり続けた。きっとコハクのことを一番に考えた結果、レイは彼女から手を引くことを選んだのだと僕は思った。
「あれ? レイくんは?」
放課後、気づかないうちに帰ってしまったレイを探して、コハクが僕に尋ねた。
「レイなら先に帰ったよ」
「えっ、そうなんだ……」
「なんだか最近、すごく忙しそうにしているよね。さて、僕らも帰ろうか」
曇り顔のコハクをよそに、僕はリュックに荷物を詰めて立ち上がる。しかしコハクは思いつめた表情のまま、椅子から腰を上げない。
「コハク?」
「私、なにかレイくんに嫌われるようなことしたかな」
「え? どうしてそう思うの?」
「だって最近、一緒に帰ってくれないし、交換ノートだって文化祭期間中に辞めちゃったから。なんとなく距離を置かれているように思えて」
「コハクが文化祭で忙しかったから、遠慮したんじゃないかな」
「でも文化祭が終わってからも、こんな調子だよ。ねえ、ヒカリくんには何か言ってなかった?」
「いいや、なにも。そもそも僕には、レイがコハクに対して距離を置いているようには見えないな。レイって昔からあんな感じじゃない?」
僕の言葉にコハクは寂しそうに納得しかけた。
レイの上手いところは、文化祭期間を利用してゆっくりとコハクから離れていったこと。そして彼がもともと社交的ではないために、その変化がコハクにも微かにしか感じられなかったことだった。
巧みな恋敵のおかげで、僕はコハクと二人きりでいられる。
「そう……、だね。そうだよね、ごめん。急に変なこと言って」
コハクは自分自身を説得するように頷いて、やっと椅子から重い腰を上げた。




