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 赤や黄色に染められた街路樹が、灰色の街を鮮やかに染めていた。少し早足で進む僕らの足元には、色とりどりの落ち葉が降り積もる。

 学校を出てから、コハクはまだ一言も話していない。頭では納得したとしても、すべてを受け入れるには時間がかかるのだから当たり前だ。

浮かない顔をして歩くコハクに、僕は足を止めて言った。


「ちょっと寄り道してもいいかな?」

「あ、うん。いいよ。でもヒカリくんからお誘いだなんて、珍しいね」

「僕もコハクの真似をして、秋っぽいことをしてみたくなったんだ」

「秋っぽいことかあ。例えば何だろう……」

「紅葉とか、ね」


 僕は色づく木々たちに目線を送ると、コハクを連れて猪島公園へ向かった。夜のない世界の紅葉は、きっと神秘的で美しいはずだ。


「しばらく来られなかったけど、葉っぱの色がこんなに変わっている!」


 猪島公園の入り口から望む並木道を見て、コハクが嬉しそうにそう言った。

 冷たいイメージの白い空と暖色のコントラストは、枝先や地面に落ちた葉をよりいっそう際立出せる。まるで紅葉の海に浸かっているような感覚だった。


「綺麗……」


 その美しさに飲まれたコハクは、少しだけレイのことを忘れたようだ。


「噴水のむこうまで行ってみない?」

「うん、行こ行こ!」


 僕らは秋を味わうように、ゆっくりと並木道を進んだ。冷たい風がさらさらと、砂の上に載った落ち葉を巻き上げる。

 ちょっとずつ笑顔を取り戻していくコハクを見て、僕も嬉しくなった。

 夏休みの前、コハクはよく「夏っぽい」ことをしたいと言っていた。はじめは想像もできなかったが、「夏っぽい夏」に付き合わされたおかげで、浴衣を着たり、花火大会に行くことができた。

 コハクがいなければ、僕はそんな夏の味を知ることはなかっただろう。

 だから今度は僕が、コハクに「秋っぽい秋」を味合わせてやろうと決めた。

 ここ何日は「秋真っ盛り」だというのに、文化祭が忙しくてそれを楽しむ時間もなかった。レイのことを忘れるくらい楽しい思いをさせてやる。

 レイよりも僕の方が、コハクを幸せにできるんだ。


「見て、ヒカリくん!」


 コハクはベンチの上に落ちていたイチョウの葉を掴むと、かんざしのようにして耳のうえに載せた。黒いセーラー服姿のコハクには、黄色いイチョウが差し色になってよく映える。


「どう? 似合うかな?」

「うん。すごく似合っている」

「やった! じゃあ写真撮って!」


 コハクはそう言ってスマホを取り出すと、僕に渡して得意気にポーズをとった。

 大人ぶる少女。その言葉が今のコハクにはピッタリだ。


「上手く撮れた?」


 僕らはベンチに座ると、二人でスマホのなかの写真を確認した。コハクが身を寄せて、画面をのぞき込む。


「なかなか、いい感じだと思うよ」

「うん、いい感じ! ありがとう、ヒカリくん」

「どういたしまして」


 僕は名刺を差し出すように、コハクにスマホを返した。それでも僕らは身を寄せ合ったままだ。


「このありがとうはね、写真を撮ってくれたことだけじゃないんだよ。ヒカリくんのおかげで、今日がすっごく楽しくなった。どんなときでも、私のそばにいてくれてありがとう」

「大げさだなあ、コハクは」


 口ではそう言いながらも、僕の胸にはじんわりと暖かい思いが広がっていった。

 今のコハクのセリフは、花火大会の夜に言われた言葉に似ている。あのとき言いかけた返事を、僕はここで返すべきだと思った。

 彼女に想いを伝えるのは、今しかない。


「大げさじゃないよ。ほんとのことだもん」

「分かっているよ、ありがとう。あのさ、コハク。僕もずっと言いたかったことがあるんだ……」



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