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 どこからともなく湧いてくる焦燥が、僕を早足で歩かせていた。

 コハクのマンションに着き、インターホンを押す。すぐにコハクのお母さんが出た。


「あら、いらっしゃい」

「すみません急にお邪魔してしまって。あの、コハクは?」

「あの子なら部屋にいるわよ」


 コハクのお母さんは笑顔でそう言った。特に慌てた様子もない。僕はさっきまでの焦りが杞憂に終わったのだと胸を撫でおろした。


「コハク? 入るよ」


 ノックをして、ドアを開ける。しかし返事がない。


「コハク?」


 僕がそう言ってコハクの部屋に入ると、彼女はベッドの前で倒れこんでいた。


「コハク!」


 近くへ寄って抱き寄せたが、返答がない。息はしているので、眠っているようだ。


「コハク! どうしたんだ!」


 僕は両手で彼女の肩を揺すった。しかし目を覚ます気配はない。リビングにいるコハクのお母さんの様子から察するに、眠ったのはつい先ほどなのだろう。

 杞憂に終わったと思っていた嫌な予感は、やはり現実のものになってしまった。今度の眠りは以前よりも深い。

 僕は必死の思いでコハクの手を握り、手先に意識を集中させて彼女の体に命を吹き込む。何とかしてコハクを目覚めさせなくては。その思いが実ったのか、コハクはゆっくりと目を開く。


「……ヒカリくん?」

「コハク!」


 突然の出来事に戸惑いながら、コハク周りを見回して状況を整理した。


「私、また眠り続けていたの?」

「ううん。ほんの少しの間だけ眠っていただけ」

「どれくらい?」

「2、3分くらいかな。きっと久しぶりに学校で勉強したから、疲れたんだよ」

「なーんだ。よかった」


 コハクはほっとしたように息を吐くと、僕の手を握って起き上がり、ベッドに座った。


「自分では1ミリも疲れたなんて思っていないんだけどな」

「でも病み上がりなんだから、無理をしちゃだめだ」

「分かってる。しっかり休んで明日に備えなくちゃね」


 コハクは僕の説明通り、さっきの眠りが疲れからきたもので、自力で目覚めたのだと思っているらしかった。しかしあの眠り方はどう考えても普通の眠り方ではない。

 冬眠病の発作が再び起こり、僕の治癒能力によって目を覚ました。そう考える方が自然だろう。


「うん。僕がいるから、安心してゆっくり休みなよ」

「ありがとう。夕方になっても暗くならないなんて、やっぱり不思議だね」


 コハクが窓の外を見つめて言った。彼女はまだ、夜が怖いのだろうか。


「邑朋くんは睡眠の質が下がるって、文句を言っていたけど」

「あははっ、レイくんらしいね。私は逆に明るいほうがよく眠れるかな。光に照らされていると、世界から見捨てられていないんだなって安心するの」

「夜が戻ってきて、世界がコハクを見捨てても、僕が見捨てるもんか。僕がコハクの光になる」


 真顔で僕がそう言うと、コハクは吹き出して笑った。


「ヒカリくんだけに、光になってくれるんだ!」

「いや、そんなつもりじゃ」


 図らずもダジャレみたいになってしまい、僕は顔が熱くなる。


「からかってごめんね。ありがとう、嬉しいよ」


 白く透き通った瞳を縮ませて、コハクは可愛らしく微笑む。

 そんな好きな人との幸せな時間のなかで、僕はある不安を胸に抱いていた。斑鳩先生が言っていた「能力には24時間の充電が必要」という言葉。ちょうど目覚めてから24時間が過ぎたところで、コハクは再び眠りについた。能力の発動だけでなく、効力にも時間制限があるのだとしたら。

 僕は斑鳩先生に会うべく、コハクの家を後にすると『喫茶 まどろみ』へ向かった。


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