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 3か月半ぶりに学校に来たコハクを、クラスメイトたちは歓迎することも爪弾きにすることもなかった。

「久しぶりー」「大丈夫?」と重みのない言葉を連発する女子たちを、コハクは「えへへ」「もう大丈夫―」と頭をかきながら、まるで一人ずつ処理をするかのように対応していった。

 そのなかにはコハクが休んでいたときに陰口をたたいていた連中もいる。心配していた「フリ」を続ける彼女らを、僕は呆れたような目で遠くから見つめていた。


 久々に「はみ出し席」へコハクが帰ってきた。コハクを挟んでレイがいる景色が、なんだか懐かしい。ホームルーム前に3人が揃うと、コハクは前を向いたまま、つぶやくように言った。


「不思議だよね。目が覚めたら夜が消えているんだもん。まだ夢の中にいるみたいだよ」

「そうだね。僕も最初は夢なんじゃないかって思った。でも夢じゃない」


 僕は頬をつねってみせた。するとコハクも僕の真似をして、頬をつねる。


「ほんとだ。夢じゃないね」

「宇宙にはまだまだ分からないことが多いんだって、つくづく実感させられたよ」


 窓の外は白く伸びた光が支配している。太陽と超新星が合わさった明かりだ。


「こんな非日常な光景が広がっているのに、レイくんは相変わらずなんだね」


 一時間目の予習を欠かさないレイをみて、コハクは笑った。


「ああ。空の色が変わっても、授業がなくなるわけじゃないからな」

「たしかに!」

「これ、数学と理科のノート。今までやった大事なところだけまとめておいたから」


 レイはそう言って二冊のノートをコハクに手渡した。


「えっ、ありがとう。すごく助かる」


 コハクは戸惑いながらも、嬉しそうにノートを受け取る。すると今度は僕が、同じようにコハクに二冊 のノートを差し出した。


「コハク。僕のは国語と社会、それから英語だ」

「ヒカリくんまで。ありがとう」


 コハクは5冊のノートを両腕で抱えて喜んだ。


「昨日、僕と邑朋くんで手分けしてまとめたんだ。手書きだから見づらいかもしれないけど……」


 ノートをペラペラとめくりながら、コハクは首を横にふる。


「ううん、全然そんなことない。本当にありがとう。大切にするね……」


 唇を噛んで嬉し涙をこらえるコハクをみて、僕とレイは目を見合わせた。コハクのために二人で協力してよかった。


☆☆☆


 コハクが無邪気な笑顔を見せるたびに、僕は複雑な気持ちになる。

 この笑顔を僕だけのものにしたい。しかし同時に、コハクからこの笑顔を奪いたくはない。

 コハクがいて、僕がいて、レイがいる。この微妙な3人の関係のおかげで、コハクが幸せでいられるのだとしたら、僕はこのまま想いを秘めておいたほうがいい。

 でもあの花火大会の夜は、僕に別の可能性を見せてくれた。コハクがレイに対しては友情で、僕に対しては特別な感情を抱いているのだとしたら。僕はコハクに想いを告げたほうが、彼女を幸せにできるかもしれない。

 何度も考えては、怖くなってやめた。せっかく治癒能力でコハクが目覚めたのに、僕はこれからどうすればいいんだろう。

 学校帰りに寄った猪島公園の森で、一匹のアオスジアゲハが死んでいた。水たまりの上で、美しい翅が浮いている。もう死んでいるので、能力を使っても助けることはできない。

 何となく嫌な予感がして、僕は急いで駅まで引き返した。目指す先は、コハクの家だ。

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