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「なるほど……」
斑鳩先生は僕の話を興味深そうに聞いていた。『喫茶 まどろみ』のいつもの席に座って、僕は能力を使ってコハクが目覚めたこと、そのコハクが24時間経過した先ほどにまた眠りについてしまったことを話した。
斑鳩先生はジャワコーヒーに口をつけたあと、手を顔の前で組んで言った。
「確かに君の言う通り、能力だけでなく効力にも24時間の制限がかけられている可能性は十分にあり得ますね。もともと太陽に対する地球の自転周期は24時間、正確には23時間56分と4.098903691秒で、それは超新星に対しても同じです。地球が1回転する周期を利用して超新星からエネルギーを受けとり、それをそのまま別の生き物の体に吹き込んでいるのだとしたら、効力も能力と同じく時間制限があると考えるのが自然でしょう」
僕が難しい顔をしていると、斑鳩先生は深くうなずいて続けた。
「つまり君の治癒能力は、超新星からの借り物だということです」
「借り物?」
「ええ。コハクさんを目覚めさせたエネルギーは、君自身のものではなく超新星ものだと思います。超新星のエネルギーは自転と同じ約24時間周期で、君やコハクさんの身体から抜けていってしまう。だから能力の発動のためには24時間の充電が必要で、効力も24時間しかないのでしょう」
先生の推測が正しいのだとすると、24時間ごとに僕がコハクに命を吹き込めば、彼女は普通に生きていけるということになる。しかし同時にある疑問が僕のなかに浮かんできた。
「僕の能力が超新星からの借り物だとすれば、超新星の光が消えたとき、僕やコハクはどうなるんですか?」
夜の消えた世界が永遠には続かないことを僕は知っていた。テレビで専門家が120日前後だと言っていたのを思い出す。
「光が消えてもエネルギーが残る可能性はあるので、今はなんとも言えませんね。私の仮説も、どこまで正しいかどうかなんて分かりませんから……」
斑鳩先生は髭を触りながらそう言ったあと、僕にこう提案した。
「よろしければ今度のコハクさんの診察ときに、君とコハクさんの身体を調べさせてもらっても良いですかな? 身体の物質の流れを調べれば、何か分かるかもしれません」
「もちろんです。コハクが良ければ、僕は喜んで協力します」
☆☆☆
次の日もコハクは夕方、といっても昼間のように明るい時間に、コハクは突然眠ってしまった。そして昨日のように僕が命を吹き込むと、彼女は何事もなく目を覚ました。
その翌日はコハクが眠る直前を見計らって、命を事前に吹き込んでみた。するとコハクは眠ることなく、元気に目を覚ましたままだ。二人きりになった部屋で、突然手を握って目を瞑った僕にコハクは驚いた顔をする。
「いきなりどうしたの?」
「ごめん。こうしてないとコハクがどこかへ行っちゃいそうで……」
「私はどこにもいかないよ」
コハクはそう言って、命を吹き込む僕の手を握り返した。
「そうだね。それは分かっているんだけど……」
僕はなんて答えていいか分からず、そのまま言葉を濁した。するとコハクが、僕の手を強く握ったまま続ける。
「どこにも行きたくなんかないよ。ずっとヒカリくんやレイくんの側にいたい」
「僕と。レイ……」
コハクのその言葉に、僕は繋いでいた手を解いてしまった。命の吹込みは終わっていたので、コハクは明日まで眠ることはないだろう。
熱い鍋にふれたように、咄嗟に手を解いた僕をコハクは心配そうに見つめていた。
「ヒカリくん?」
「ごめん、なんでもないんだ。本当に、なんでも……」
好きだからこそ、嫌いになってしまう。僕も矛盾した想いはコハクには伝わらなかった。そんな僕を、コハクは今まで見たこともないような不安げな顔で見つめていた。




