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43. 他人の特殊な趣味なんて見たくはない

※タイトルが少し怪しいですが、R的な描写は特にないのでご安心ください

「さて、俺が防御壁と加速の補助魔法をかけるからリナはただ走れ」

「え、防御壁くらい自分で……」

「お前のは消耗が早く、効率が悪い。はっきり言って俺より下手だ。辿り着く前に魔力が尽きても知らんぞ」


そんなに言わなくてもいいじゃん………。

ちょっとどころでなく落ち込む里菜。これでも、誰よりも強い魔力を好き放題使って、遊びまくっていたから魔力操作には自信があると思っていた。

だが、生まれたときから魔法を使っていた皇帝に、たかが数ヶ月魔法を勉強した里菜は、やはり敵わないのだ。


「お前は、やることがあるだろう」


「いえ、でも………」


ぶっちゃけ、皇帝に借りなんか作りたくない。

里菜が逡巡していると、皇帝が痺れを切らして声をかけてきた。


「帰還魔法を教える件はなしでいいか?」


「いえ、今すぐ行かせていただきます!!」


里菜は本気で走った。


「おい、俺を置いていくな!死ぬぞ?」


そんなこんなで里菜は魔力の渦に向かって駆け出した。





「………で、ここからどうやって近付きます?」


目の前にはカオスとしか表現できない光景が広がっていた。

魔力を帯びているため、渦に吸い込まれる動植物たち。それが幾度となく防御壁にぶつかって大きな音を立てる。


そんな中、里菜と皇帝は何とか魔力の渦の中心近くまで辿り着いていた。

だが、ここで問題が発生した。

――――――――これ以上、近づけない。


魔力を吸い込む力が、強すぎるのだ。

このまま近づけば皇帝の防御壁は崩壊し、身一つで放り出されることになる。

今は皇帝の必死の抵抗と、防御壁の効果で二人は無事であるのだが。


………さてさて、どうしましょう?


ここで防御壁を解いたら、間違いなく体ごと吸い込まれる。そうすれば目的地はすぐそこだ。

だが、様々な物質たちが舞い踊っている状況で、無事に何事もなく吸い込まれるかといえば、否だ。大木やら熊やらが里菜にぶつからないとは限らない。いや、絶対ぶつかるだろう。


「かといってここで立ち止まっていれば魔力が吸われて、衰弱したまま身一つでここに放り出されることになるぞ」


「もう、魔力が切れる前に飛び込んじゃった方が早いのでは?」


「無傷でそれができれば苦労はないだろう。確実に渦の向こうに行く策でもあるのか?」


「そんなこと考えてる間に飛び込んでみません?」


時間がないというのに分析を始める皇帝と、やけくそ気味に答える里菜。


不毛な会話を繰り広げていると――――――――。


『ミツケタ』


「おい、リナ!!」


不思議な声がしたかと思うと、体が魔力の渦に引っ張られていた。

とっさに里菜の腕を掴む皇帝。


二人は、そのまま謎の力によって渦の中に吸い込まれてしまった。


吸い込まれる途中に、色んな物が体にばしばしと当たっていた気がするが、「もっと優しく運べないのか声の主!」と心の中で叫ぶ里菜であった。


「で、神様はどこかなー?」


里菜が目を向けた先には、薄暗い空間の中に、一つの影。


そこには――――――鎖で縛り付けられた少年の姿があった。鎖から抜けようとしたのか、長年擦れた痕なのかはわからないが、鎖が触れている箇所には切り傷があり、痛々しい。


「いや…………神様が鎖で縛り付けられたりなんかしないか。この人は違うな」


「ああ、さすがにこれは………我々の探す神様とは違うのではないか?」


「ですよねー、さすがに何のSMプレイか聞きたくなりますから」


うんうん、とお互いに頷き合っていると、暗闇から恐ろしい声が―――――――。



「――――――――君たち。黙っていれば好き勝手言うね」


ヤバい。

まさか起きていたなんて。


里菜とてここにいるのは神だとほぼ分かっていた。この世界の神が鎖で縛り付けられているという現実から目を背けたかっただけだ。

寝てると思った(もしくは意識がないと思った)から皇帝と現実逃避していただけだ。


「とりあえずこれ、外してくれない?」


神様が弱々しくだが、鎖を持ち上げる。

その表情は、明らかに怒っている。笑顔だけど怒っている。


「いやー、きっと、無理だと思いますけども」


外したくないなー、という思いを抱きながら答える里菜。

今外したら神の逆鱗に触れるのは確かである。

いや、既に逆鱗に触れているのだが、爆発するほど力がないだけなのだ。これから怒りが爆発するはず。


「そんなはずはない。僕は、これを外せる人をきちんと召喚したはずだから」


「気のせいですよ、はは」


「これは強固だな…確かに、里菜の力でも外すのは難しいかもしれない」


鎖を持ち上げ、壊せるかどうか確認していた皇帝は、そう答えた。


「そう、今の君なら魔力が足りない。でも、君はいざというときの魔力の不足に備えて、対策をしていたはず」


「あは、バレちゃった?」


そう言って里菜が鎖を握った瞬間、かしゃん、と音を立てて鎖があっけなく砕け散った。


「………なっ」


「ほらね」


里菜は、いつかの日のために魔力の器を拡張し、余剰分を貯めていた。

最初、救済者としての役割は渦を消すことだと聞いていた。だから、渦を消すときのリスクを下げるために魔力をためていたのだ。

ちなみに、これは巫女が受ける修行の一貫で、巫女が練習しているのを見て覚えた、力の訓練法。巫女だけに扱えると言われたものだが、やってみたら魔力にも応用できた。



「さて、全てを話させてもらうね」


神様によると、ここには昔、神様一人しかいなかった。だが、それを寂しく思った神は、自らの身を二つに分け、2体一対の神としてこの世界を見守り続けた。


「だけどね、僕たちはまだとても不安定な存在だったから、すぐに理性を失うことが多々あって」


てへ、という感じの表情をしているが、その時地上に何がもたらされたかは想像するのも恐ろしい。


この世界では、大規模な災害を「神の怒り」と呼んだものだが、それはあながち間違いではない。神が怒ってわざと災害を起こした、ということはないが、精神的に不安定だったりすると、災害が起こることはある。


「地上で言う、300年くらい前かな、僕と女神が喧嘩しちゃったのは」


女神は怒り狂い、神を騙して時空の歪みの中に封印した。

それにより、この世界のバランスは、崩れ始める。


「一体を半分に分けたって言ったでしょ。つまり、司るものはそれぞれ違うから、この世界のバランスを保つにはどちらかが欠けていてはできないし、神としての自分を保つことも難しい」


だから、神は女神の封印に精一杯抗った。

女神がこの世界に誤った選択を行う前に、止めようと。


その結果、世界に「歪み」と呼ばれる現象が生まれ始める。神の力そのものが地上に出現してしまうことは珍しい。

女神には「地上に直接力を振るい干渉できない」という制約があるため、神の力をどうにかすることも難しかった。


「だから、女神は自分の力を与えた巫女を地上に遣わした。その歪みを抑えるための、巫女を。………だけど、それは神としては間違った行いだった」


「ちょっと待て、世界に歪みをもたらした神の方が問題だろう。それを解決しようとた女神は、間違っていたと?」


「だって、僕を解放すれば全部解決したんだよ?」


それはそうだが、何か違う気がするのは気のせいか。

皇帝と里菜は心の中でそう呟きながらも、神の話に耳を傾ける。


「そこで僕は助けを求めた。女神の召喚に干渉し、ある魂の持ち主を呼び出した――――――――――そう、夏川里菜さん、あなたのことだよ。………いや、初代の巫女の魂の持ち主と呼んだ方がいいのかな?」


里菜が呼ばれた理由は、ただ一つだと思っていた。

魔力が高いから。神の力に対抗できるだけの力があったから。

でも、そうではなかったようだ。


「夏川里菜さん、あなたなら、巫女の苦しみを理解し、動いてくれると思ったんだ。予想通り、貴女は巫女を助けようとした。いや、助けたね」


里菜の前世は、最初に呼び出された巫女だった。

召喚された最初は理不尽な召喚に怒り、嘆き、それを周囲にぶつけた。


そして、すべてを受け入れられないまま世界を救えなかった里菜は、女神によって世界から存在を消された。


「私も、苦しかったから。辛かったから。巫女の能力が低くても、国民が求める理想の巫女を演じられなくても、それは巫女のせいじゃないって、言ってくれる人が欲しかったから」


だから、麗華を責めなかった。

彼女が女神に消されることを願った。そうなるのを止めなかった。


「君は、この世界から弾かれた巫女の結末を知っているね?だから、歪みの封印を、巫女としての役目を失敗させた」


里菜は無言で頷いた。


「この世界から弾かれたら、自動的に地球に戻る。女神に強制的に呼ばれた魂は、在るべき場所へと引き寄せられるから」


そう、巫女は地球に帰っていた。

それを里菜は知っていて、女神にそうさせた。


「君なら、巫女を救って、なおかつ僕のことも助けてくれるのではないかと思っていたよ。――――――――もう二度と、召喚による犠牲者が出ないようにね」


里菜は神に抗っているつもりでありながらも、神の手のひらの上で踊らされていたようだ。


「これで解決だな」


皇帝と、うんうんと頷き合っていると、神が突然険しい顔をした。


「――――――――――そうも、いかないみたいだね」


神が視線を向ける先にいたのは、女神だった。


「彼を…………殺してくれたのではなかったの?」


女神は、その美しい顔を恐ろしいほどに歪ませ、怒りに満ちた表情をしていた。



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