第1話 眠りの終わり
意識が浮上するにつれて、レイヴン・アークライトが最初に感じ取ったのは、奇妙なほど深い静寂だった。
普段なら窓の外から聞こえてくるはずの鳥のさえずりも、庭園を行き交う者たちの声も、今は聞こえない。かすかに風の音だけが届く室内は、誰もいない屋敷に迷い込んだかのように静まり返っており、その不自然なほどの静けさが、レイの意識をゆっくりと覚醒させていった。
瞼を持ち上げると、見慣れた天井が視界に入った。
白い石材を基調とした天井には、繊細な植物の装飾が施されている。柔らかな色合いの壁と、丁寧に磨かれた木製の家具。大きな窓には薄いカーテンが掛けられ、朝の陽光を受けて淡く輝いていた。寝台の傍らには読みかけの本が置かれ、その上に挟んだ栞も、最後に見たときと変わらない位置にある。
「……ん、起きたか、俺」
レイは小さく呟き、ゆっくりと身体を起こした。
首を左右に傾け、肩を回し、両手を開閉してみる。長い眠りから目覚めたばかりだというのに、身体に目立った重さはなく、寝台から降りて数歩歩いてみても、関節の動きや平衡感覚に問題はなかった。少なくとも、日常生活を送るうえで支障が出るような異常はなさそうだった。
窓際へ歩み寄り、カーテンを少しだけ開く。
そこには、見慣れた中央庭園の一角が広がっていた。手入れの行き届いた花壇には色とりどりの花が咲き、白い石畳の向こうでは、大きな樹木が風に枝を揺らしている。建物にも庭園にも目立った損傷はなく、少なくともこの場所に限っては、眠りにつく前と大きく変わっていないように見えた。
ただ、どれほどの時間が過ぎたのかは分からない。
眠りへ移行する前の出来事は、今も鮮明に覚えている。最後に何を見て、何を考え、どのような判断を下したのか。その記憶が失われたわけではないが、眠っている間に外の世界で何が起きたのかまでは知りようがなかった。
レイは窓から離れると、意識を自身に帰属する独立異空間へ向けた。
次の瞬間、何もなかった空中に青白い光が走った。
幾本もの細い直線が規則正しく交差し、複雑な幾何学模様を描きながら、やがて半透明の制御画面を形成する。そこには膨大な項目が並び、各設備の稼働状況や接続状態を示す情報が次々に表示されていった。
《内界機構アーク》。
それは、レイが保有する膨大な機械文明の技術資産を収めた、独立した異空間だった。通常の空間から切り離されたその領域には、数え切れないほどの研究記録や設計資料に加え、大規模な製造施設、機械兵器の保管区画、各種の加工設備などが存在している。単なる物資の保管場所ではなく、レイが新たな技術を研究し、それを実際の機械として形にするための巨大な工学基盤でもあった。
レイ自身には魔力がない。
魔法を扱うための素質も、剣一本で強敵を打ち倒すような身体能力も持ち合わせていなかったが、その代わりに、機械を設計し、改良し、誰も見たことのない技術を生み出すことを得意としていた。アークもまた、そうした研究と開発を支えるためのものであり、その内部で稼働する数々の装置は、魔法ではなく工学技術によって成り立っている。
もっとも、どれほど高度な設備であっても、何もないところから無制限に機械を生み出せるわけではない。製造には材料が必要であり、設備を動かすにはエネルギーがいる。複雑な装置を組み上げるには、それに見合った加工精度や製造工程も欠かせず、レイが長年にわたって蓄積してきた技術の多くは、そうした制約を一つずつ乗り越えるためのものだった。
しかし現在、その設備群のほとんどが正常に機能していなかった。
制御画面には接続不能を示す警告が並び、製造施設や保管区画からは応答が返ってこない。内部の主要設備は眠りにつく前に施した封鎖によって守られているはずだったが、解除に必要な接続系統まで不安定になっているらしい。いくつかの診断機能を呼び出してみても、途中で通信が途切れてしまい、内界の奥にある設備がどのような状態なのか確認できなかった。
中でも厄介なのは、アークと外部空間を結ぶ搬送機構が沈黙していることだった。
《アーク・ゲート》と呼ばれるその機構は、内界に保管された物資や機械を外部へ搬出し、必要に応じて逆方向へ搬入するためのものだ。通常ならレイの認証によって接続を確立できるが、現在は開口に必要な制御系統が応答しておらず、小さな部品ひとつ取り出すこともできそうにない。
「……参ったな」
レイは眉を寄せ、暗く沈んだ設備の一覧を眺めた。
眠りにつく前に施した封鎖そのものは維持されているようだが、今の状態では、内部に残された資産を利用することが難しい。製造施設が無事なのかさえ確かめられない以上、復旧には相応の手間がかかるだろう。
「俺が作り上げたレギオンも、ほとんど失ったからな……」
かつてレイが設計し、運用していた機械戦力――《レギオン》。
その大半は、すでに失われていた。わずかに残った機体が内界のどこかに保管されていたとしても、アーク・ゲートが使えない現状では取り出しようがない。
レイは応答の残っている制御系統をいくつか確認すると、現在の状態を記録して診断を終了した。無理に封鎖を解除すれば、正常に保全されている設備にまで影響を及ぼすおそれがある。内部の状況を把握できないうちは、慎重に進めた方がよさそうだった。
そのとき、部屋の隅から控えめな駆動音が聞こえた。
視線を向けると、待機していた四機の自律機械が、レイの覚醒に合わせて順次起動していた。
白を基調とした滑らかな外装を持つセラ、薄い翼状の機構を備えたイリス、黒銀の装甲に覆われたヴェクター、そして複数の作業用機構を持つノヴァ。いずれもレイが自ら設計した機械であり、それぞれ医療と修復、偵察と観測、戦闘と護衛、工学と建設を担当している。
最初に近づいてきたのはセラだった。
機体の一部が開き、淡い光がレイの身体を頭から足元まで走査する。診断が完了すると、彼の視界に結果が表示された。
『おはようございます、マスター。生体反応、並びに運動機能オールグリーン。重大な異常は認められません』
「ああ、おはよう。セラの方も異常なしってとこか」
『はい。基本機能、すべて正常に稼働中です』
「そいつはよかった」
レイは小さく頷き、ほかの三機へ視線を向けた。イリスはすでに周辺環境の測定を始めており、ヴェクターは扉の近くで静かに待機している。ノヴァも作業用の機構を展開し、自身の状態を確認しているところだった。
「ノヴァ、アークの状態をチェックしてくれないか。繋がるところから順番に診断をかけて、直せそうなエラーがあれば修復に回してくれ」
『了解。これより利用可能な制御系統の調査を開始します』
「無理に封鎖プロテクトを解除しなくていい。判断に迷うブラックボックスがあったら、ひとまず保留で頼む」
『了解しました。タスクを進行します』
ノヴァは短く応答すると、機体の周囲に複数の制御画面を展開し、応答の残っている系統へ順番に接続要求を送り始めた。レイの目の前にも診断の進行状況が表示されたが、接続不能を示す警告は依然として多く、調査にはしばらく時間がかかりそうだった。
その様子を確認したレイは、ひとまず作業を任せることにした。ノヴァなら、利用可能な機能の洗い出しや簡単な修復は進めてくれるだろう。レイ自身が設計を見直さなければならない部分については、診断結果が揃ってから考えればいい。
それよりも今は、確かめたいことがあった。
「……さてと。みんなはちゃんと起きてるかな」
レイは部屋の大扉へ視線を向けた。
ここは、直径十五キロメートルにも及ぶ巨大な浮遊領域――天空宮殿。その中心に位置する宮殿を囲むように庭園や森林、湖が広がり、各所には住居が設けられている。
レイが仲間たちと長い時間をかけて作り上げてきた場所であり、単なる拠点ではなく、彼らが日々を過ごすための家だった。
眠りにつく際、仲間たちにも同じ保全措置を施している。手順が正常に完了していれば、全員が宮殿のどこかで目覚めているはずだった。
レイはセラとヴェクターを伴い、大扉へ歩み寄った。重厚な扉を開くと、柔らかな陽光とともに、湿った土と花の香りを含んだ風が流れ込んでくる。
馴染み深い庭園の匂いに、レイは自然と口元を緩めた。
そして、扉の向こうへ一歩踏み出したところで、その足が止まった。
広大な中央庭園には、数多くの異形たちが集まっていた。
白い石畳の上で談笑する者、花壇の傍らに佇む者、木々の間からこちらを眺める者。その姿は驚くほど多様で、金属の身体を持つ者がいれば、影を纏う者もいる。人間と変わらない外見をした者も少なくないが、彼らの中には、そもそも人や獣という言葉では形容できない存在もいた。
頭上には、漆黒の骨格を露わにした巨大な鯨が、雲の間を悠然と泳いでいる。
肋骨の隙間には色鮮やかなステンドグラスが嵌め込まれ、陽光を受けるたびに赤や青、淡い金色の光を庭園へ降り注がせていた。巨大な黒い骨鯨――オルヴェインがゆっくりと身体を傾けると、その影が地上を横切り、周囲の木々や建物を一瞬だけ暗く染め上げる。
さらに遠く、森の外縁には全高八十メートルにも及ぶ鐘の巨人――ガルドーンが佇んでいた。幾つもの巨大な鐘を組み合わせたような重厚な身体は、遠くからでもその存在感を失うことがなく、わずかに身じろぎするだけで周囲の樹木に大きな影を落としている。
レイがその姿を見上げると、ガルドーンはゆっくりと片腕を持ち上げた。
頭上のオルヴェインも応えるように旋回し、ステンドグラスを透過した光がレイの足元へ降り注ぐ。
「……二人とも、相変わらず元気そうだな」
思わず笑みを浮かべると、遠くから低い鐘の音が響いた。その余韻が庭園全体へ広がり、近くにいた者たちがつられるように空を見上げる。
「おはようございます、レイ様」
すぐ近くから、柔らかな声が聞こえた。
銀色の長い髪を揺らしながら、一人の女性が石畳を歩いてくる。黒を基調とした気品あるドレスに身を包み、その背後には七つの棺が音もなく浮遊していた。深い紅色の瞳を持つ女性――エルゼリアは、レイの姿を認めると穏やかな微笑みを浮かべ、優雅な仕草で軽く頭を下げた。
「おはよう、エルゼリア。早いな」
「ふふっ。ようやくお目覚めですね。お身体の具合はいかがかしら?」
「ああ、絶好調だよ。セラにもお墨付きをもらったところだ」
「それは何よりですわ。皆も異常なく目を覚ましておりますので、ご安心くださいな」
レイはその言葉に小さく頷き、改めて庭園へ視線を巡らせた。見える範囲だけでも馴染みのある姿が幾つもあり、誰もが普段と変わらない様子で過ごしている。
「そっか。全員、ちゃんと無事なんだな」
「ええ。五十六名、誰一人欠けることなく揃っておりますわ」
「そうか……」
レイが安心したように息を吐くと、エルゼリアはその表情をしばらく眺め、何かに気づいたように首を傾げた。
「ですが……少し考え事をなさっているお顔ですわね。何か気がかりなことでも?」
「アークがな。どういうわけか、大半の設備がオフラインになってて接続できないんだ」
「あら……それは困りましたわね」
「まあ、ノヴァに診断プログラムを走らせてきたところだから、そのうち原因が分かるだろ」
「でしたら、今は少し頭をお休めになってはいかがかしら?」
「おいおい、まだ起きたばかりだぞ?」
「そうかもしれませんけれど、レイ様は一度研究を始めると、お食事の時間すら忘れて没頭してしまわれますから」
エルゼリアは楽しそうに目を細めた。その表情を見て、レイは以前、新しい装置の調整に夢中になり、予定していた食事の時間を大幅に過ぎてしまった日のことを思い出す。
あのときは迎えに来たエルゼリアに作業を中断させられたうえ、夕食の席でも散々小言を言われたのだった。
「……今回はそんな無茶しないって」
「ふふっ。では、そのお言葉を信じることにいたしますわね」
「なんだか、全然信用されてない気がするんだけど」
「そのようなことはございませんわ。ただ、これまでの『輝かしい前科』が少々……ね?」
「ストップ。それ以上は言わなくていい」
レイが苦笑すると、エルゼリアは口元に手を添えて楽しそうに笑った。
そのとき、庭園の奥から軽やかな足音が近づいてきた。
「レイっ!」
人々の間を縫うようにして、小柄な少女が勢いよく駆け寄ってくる。柔らかな髪には青いリボンが結ばれ、淡い色の衣服が走るたびにふわりと揺れていた。幼い顔立ちと華奢な身体は、周囲にいる異形たちと比べればひどく頼りなく見えるが、その小さな身体に秘められた力は、見た目から想像できるようなものではない。
少女――ミレアは、レイの前まで来ると、そのまま勢いよく腰に抱きついた。
「おはよう、レイ! やっと起きた!」
「おはよう、ミレア。朝から元気いっぱいだな」
「えへへ、うん!」
レイが頭を撫ると、ミレアは嬉しそうに笑い、今度は彼の手を取って庭園の方へ引っ張り始めた。
「ねえねえ、レイ! あとで一緒に遊ぼうよ!」
「いいぞ。でも、ちょっとだけ待ってくれるか? まだ調べなきゃいけないことがあってさ」
「ええーっ……またお仕事?」
「またって……俺、今さっき起きたばかりなんだけどな」
「だって、レイって一回調べ始めると、ずーっと終わらないんだもん!」
頬を膨らませるミレアの様子に、レイは思わず笑ってしまった。彼女は昔から、レイが研究に没頭していると何かと理由をつけて遊びに誘いに来ることが多かった。忙しいから後でと言えば、今度はいつ終わるのかと何度も尋ねてきて、最後には作業が終わるまで近くで待っていようとする。
そんな彼女のことを、レイはよく知っていた。
「分かった、分かった。調査が一段落したら、ちゃんと遊ぶ時間を作るからさ」
「ほんとに?」
「ああ、約束するよ」
「やったぁ!」
ミレアは嬉しそうに声を上げ、そのままレイの手を握って隣に並んだ。
「ふふ。よかったですね、ミレア」
「うんっ! エルゼリアも一緒に遊ぶ?」
「あら、私もご一緒していいのかしら?」
「もっちろん!」
迷うことなく答えたミレアに、エルゼリアは少し驚いたように瞬きをした。それから楽しそうに微笑み、レイへ視線を向ける。
「ふふ。では、私もお言葉に甘えてご一緒させていただきましょうか」
「……なんだか、ずいぶん賑やかなことになりそうだな」
「たまにはこういうのも、よろしいのではなくて?」
レイが笑って頷くと、ミレアは満足そうに彼の手を握り直した。
そのとき、石畳の向こうから重い足音が聞こえた。
全身を覆う鎧に無数の鍵穴を刻んだ騎士――ヴァルグレイヴが、こちらへ歩み寄ってきた。頑丈な鎧は見るからに重々しく、その姿だけでも相当な威圧感がある。だが、彼はレイの前まで来ると足を止め、胸元に手を添えて深く頭を下げた。
「お目覚めになられたこと、心よりお喜び申し上げます、我が王」
「おはよう、ヴァルグレイヴ。そっちの装甲も問題なさそうだな」
「はっ。現在、宮殿周辺の状況について、至急確認を進めているところであります」
「おいおい、もう警備システムの確認を始めてるのか?」
「近衛としての当然の務めであります。外界の状況が不明な以上、一刻たりとも警戒を怠るわけにはまいりません」
真面目な口調でそう答える騎士を見て、レイは小さく笑った。
ヴァルグレイヴは昔から、何よりも宮殿と仲間たちの安全を重視する性格だった。些細な異常を見つければ率先して調査を行い、必要と判断すればレイに対しても遠慮なく意見を述べる。目覚めたばかりだというのに、すでに警戒を始めているあたり、彼らしいと言えば彼らしかった。
「ありがとうな。でも、何か異常があったら一人で抱え込まずに報告してくれよ」
「承知しております。必要とあらば、皆の協力も仰ぎつつ迅速に対処する所存です」
「それなら安心だな。頼んだよ」
短い挨拶を終えると、ヴァルグレイヴは再び一礼し、庭園の奥へと戻っていった。
レイもエルゼリアたちとともに石畳を歩き始める。広場では、ほかにも多くの仲間たちがそれぞれの時間を過ごしており、近くの花壇では灰銀色の髪を持つ女性が植物の様子を確かめ、その傍らには王冠を戴いた巨大な霊狼が身を伏せていた。木陰では、夜を纏った男が星屑のランタンを手に静かに佇み、遠くでは人間の姿をした者と異形の者が、何やら楽しそうに話している。
誰かがレイに気づいて手を上げれば、彼もそれに応える。近くへ来て挨拶をする者もいれば、少し離れた場所から軽く頭を下げる者もいたが、そのどれもが彼ららしい、見慣れた振る舞いだった。
姿形だけでなく、性格も、好むものも、大切にしているものも違う五十六の仲間たち。互いに意見が合わず、口論になることだって珍しくなかったし、ときにはレイが間に入らなければ話がまとまらないこともあった。
それでも、彼らはこの宮殿で共に暮らしてきた。
誰かが庭の手入れをすれば、別の誰かがその隣で休んでいる。新しい装置が完成すれば、興味を持った者たちが集まってきて、勝手に感想を言い合う。食事の時間になれば、それぞれの場所から戻ってくる者がいて、夜にはまた別の者たちが庭園へ姿を現す。
そんな日々を、レイは何よりも大切にしていた。
「……本当によかった」
何気なく呟くと、隣を歩いていたエルゼリアが顔を向けた。
「あら? 何がですの?」
「みんな、こうしてちゃんと揃ってるってことがさ」
レイはそう答え、遠くの森に佇むガルドーンへ視線を向けた。巨大な鐘の巨人は、相変わらず庭園を見守るように佇んでいる。その上空をオルヴェインがゆっくりと横切り、色とりどりの光が地上へ降り注いだ。
「……ああ、そういうことでしたのね」
エルゼリアは穏やかに微笑んだ。
「ええ。誰一人、欠けてなどおりませんわ」
「そっか」
レイは小さく頷いた。
失われたレギオンや、機能しなくなったアークのことを考えれば、問題は山ほどある。だが、こうして皆が無事に目覚めてくれたことを思えば、それらも少しずつ解決していけばいいのだと思えた。
「ねえねえ、レイ。さっきからむずかしい顔して、何考えてるの?」
隣にいたミレアが、彼の手を軽く引っ張った。
「ん? いや、みんな元気そうでよかったなぁって、そう思ってただけだよ」
「そんなの、当たり前だよ!」
ミレアは胸を張って答えた。
「だって、みーんなレイに会えたんだもん!」
そのあまりにも素直な答えに、レイは一瞬だけ目を丸くした。それから、思わず笑ってしまう。
「……ははっ、そうだな」
ミレアは満足そうに頷くと、再びレイの手を引いて歩き始めた。エルゼリアもその様子を微笑ましそうに眺めながら、二人の隣へ並ぶ。
石畳の先では、ほかの仲間たちがそれぞれの時間を過ごしていた。見慣れた声が聞こえ、どこかで笑い声が上がる。風が木々を揺らし、花々の香りがゆっくりと流れていく。
まるで、昨日まで続いていた日常が、そのまま再び動き始めたかのようだった。




