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きれいな手で - 出会い -  作者: 灯屋 いと


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#4 カテゴリ更新

 嶺のカテゴリが更新されたのは、次の接触の二日前だった。

 ニュースで知った。狙撃。別案件の対象。足がつかない形で処理が完了している。公安が動いた案件。あーやっぱね、と思った。嶺の動きを観察してきた期間で、この人間が情報収集だけをやっているわけではないことは把握していた。武装している。判断速度が速い。業務の幅が、情報収集担当よりも広い。狙撃が業務の範囲に入っていても矛盾しなかった。裏取りした。公的記録と組織内の情報と非公開のデータベース。三つを照合。三十分かかった。

 事実として確定した。「嶺が狙撃で人を殺した」データとして格納した。

 同時に別のデータが入ってきた。嶺が公安を切られた。内部の記録は表に出ていない。けれど公的なデータベースから嶺の名前が特定のリストから消えた。理由は推測しかできないが、輪郭は出た。上の都合。スケープゴート。内部の汚職を隠す犠牲。よくある構造だ。嶺のカテゴリが「潔白」から「殺す側」に更新された。データとして格納した。因果は繋げない。その必要もなければ、接続のさせ方も朔は知らないからだ。


*****


 次の接触の日、嶺は今まで以上に顔色が悪かった。

 朔が指定したのはソフトクリームの別の店だった。前に行った店とは違う。新しくオープンした店で、SNSに写真が上がり始めていた。嶺は店の前で待っていた。コートが同じだった。顔の青白さの質が違った。目の下の疲労が深くなっていた。

「公安、切られたの」

 朔がさらりと言うと、嶺は一瞬固まった。

「……調べたか」

「そう」

「どこまで」

「狙撃のことも知ってる」

 嶺が少し目を細めた。驚いているのか、別の感情が出てきているのか、表情だけでは区別できない。

「……余計なことを」

「裏取りの流れで確認した。意図して追ったわけじゃない」

「同じだ」

「そう」

 中に入ってソフトクリームを注文した。嶺はコーヒーが置いていないと確認してからスムージーを頼んだ。今日のソフトクリームはコーンの部分にスパイスのフレーバーが入っていた。ミルクのソフトクリームとコーンのフレーバーが干渉していた。前の店とは設計が違った。慣れると悪くなかった。最初の干渉感が落ち着くと、スパイスとミルクが馴染んだ。後半は前半より美味かった。

「なにそんなこと気にしてんの?」

 ソフトクリームを食べながら朔は言った。

「気にするのは当たり前だろ」

「任務として完遂したんでしょ。なんで落ち込む」

「お前には、」

 嶺の手が動いた。テーブルに置いていた嶺の手が動いて、朔のソフトクリームを下から弾いた。

 コーンがひっくり返った。ソフトクリームが落ちた。テーブルの端を越えて床に落ちた。

 ──あ、消えた。

 朔はソフトクリームが落ちた床を見た。ミルクが広がっていた。コーンが横倒しになっていた。フレーバー入りのコーンと分離したソフトクリームが別々に床にあった。嶺を見た。嶺は手を引っ込めていた。テーブルの縁を見ていた。顔色が変わっていた。青白さの質が変わった。

「もう一個頼む」

 嶺は何も言わなかった。朔は立ち上がってカウンターに行った。もう一個注文した。お金を払った。席に戻った。嶺はまだ同じ姿勢でいた。テーブルの縁を見ていた。朔は二個目のソフトクリームを食べた。嶺はスムージーを飲まなかった。

 帰り際、嶺は何も言わなかった。来週についても何も言わなかった。次の接触について、業務用連絡先からもその後しばらく連絡が来なかった。

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