#3 自爆
その夜に調べた。
組織内の情報と公開されているニュースと嶺の公的記録を照合した。二十分かからなかった。嶺の協力者の女が死んでいた。日付は三日前。場所は組織のハブに近いエリアのマンション。表向きは一般的なマンション。実態は違法営業の風俗店。詳細は公開されていない部分が多かったが、組織内の情報と突合すると輪郭が出た。薬物で女の口が軽くなった。変な客がいると言った。嶺のことだろう。普通の客とは違う、という認識が組織に届いた。組織が女を処理した。組織が裏切者を処理するにしては異常なまでに残酷な手口。
だが、女の自爆だ。薬物依存が女の身を滅ぼした。
データとして格納した。
*****
翌週、嶺は前の週より顔色が悪いまま来た。コーヒーを飲む速度が遅かった。間合いが長かった。朔は今週の店として指定した別のカフェに座っていた。シュークリームとプリンとロールケーキが並んでいるケースのある店で、プリンを頼んだ。この店のプリンはコンビニのプリンより卵の味が強かった。
「人一人死んでなにそんなに落ち込んでんの」
プリンを食べながら言った。
嶺の動きが止まった。コーヒーカップが途中で止まった。目がこちらを向いた。
「……何?」
「協力者の女が死んだんだろ。なんでそんな落ち込んでる。疑問として聞いてる」
嶺の顔色が変わった。変わり方が業務の顔とは違った。別の層のものが表に出てきた。
「人の命を何だと思ってる」
声が低くなった。低くて、熱量が入った。
「人の命」
「誰かが死んで悲しまないやつがいるか」
「いるかどうかはわかんない。俺は悲しまない」
嶺が立ち上がりかけた。テーブルが少し揺れ、座り直した。椅子の足が床に音を立てる。
「何も感じないのか、本当に」
「感じる感じないで言うと感じない。データとして把握した。自爆のパターンとしてはよくある」
嶺の目が、何かを処理しきれない形をした。怒りが表に出ていたが、怒りだけじゃない別の何かが混在していた。
「よくある、」
平坦な嶺の声が繰り返した。朔は淡々と続ける。
「頻度として。薬物で判断力が落ちた状態で口が軽くなるのは、そういう状況にある人間では発生率が高い。今回もそのパターンに収まった」
「落ち込む理由が、わかるか」
「わかんない。だから聞いた」
嶺は少し黙った。テーブルの端を見た。額に手を当てた。
「……彼女が死んだのは、俺の判断のせいでもあるんだ。普通の客として振る舞わなかった。それで彼女に変な客だと認識された」
「未成年の女相手にセックスしなかった。倫理を選んだから彼女が死んだ、ってこと?」
嶺がまた止まった。
「……お前には全部わかるんだな」
「裏取りして輪郭は出た。詳細はわかんない」
「倫理を選んだことは正しかった。でも結果は同じだ」
「結果は同じ」
朔はそう繰り返した。繰り返したことに特に意味はなかった。データが並んだまま、そこに止まった。嶺が苦しんでいるかどうかを解釈する回路が朔にはない。
「悲しまなかったら、死んでいった人間がかわいそうだろ」
「かわいそうという概念が機能してないから判断できない」
嶺が長い息を吐いた。それ以上は何も言わなかった。プリンを食べ終えて、朔も何も言わなかった。
帰り際、嶺は「来週も来られるか」と言った。
「甘いもんあるなら」
「ある」
「なら来る」
取引の継続が確認された。




