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きれいな手で - 出会い -  作者: 灯屋 いと


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3/5

#3 自爆

 その夜に調べた。

 組織内の情報と公開されているニュースと嶺の公的記録を照合した。二十分かからなかった。嶺の協力者の女が死んでいた。日付は三日前。場所は組織のハブに近いエリアのマンション。表向きは一般的なマンション。実態は違法営業の風俗店。詳細は公開されていない部分が多かったが、組織内の情報と突合すると輪郭が出た。薬物で女の口が軽くなった。変な客がいると言った。嶺のことだろう。普通の客とは違う、という認識が組織に届いた。組織が女を処理した。組織が裏切者を処理するにしては異常なまでに残酷な手口。

 だが、女の自爆だ。薬物依存が女の身を滅ぼした。

 データとして格納した。


*****


 翌週、嶺は前の週より顔色が悪いまま来た。コーヒーを飲む速度が遅かった。間合いが長かった。朔は今週の店として指定した別のカフェに座っていた。シュークリームとプリンとロールケーキが並んでいるケースのある店で、プリンを頼んだ。この店のプリンはコンビニのプリンより卵の味が強かった。

「人一人死んでなにそんなに落ち込んでんの」

 プリンを食べながら言った。

 嶺の動きが止まった。コーヒーカップが途中で止まった。目がこちらを向いた。

「……何?」

「協力者の女が死んだんだろ。なんでそんな落ち込んでる。疑問として聞いてる」

 嶺の顔色が変わった。変わり方が業務の顔とは違った。別の層のものが表に出てきた。

「人の命を何だと思ってる」

 声が低くなった。低くて、熱量が入った。

「人の命」

「誰かが死んで悲しまないやつがいるか」

「いるかどうかはわかんない。俺は悲しまない」

 嶺が立ち上がりかけた。テーブルが少し揺れ、座り直した。椅子の足が床に音を立てる。

「何も感じないのか、本当に」

「感じる感じないで言うと感じない。データとして把握した。自爆のパターンとしてはよくある」

 嶺の目が、何かを処理しきれない形をした。怒りが表に出ていたが、怒りだけじゃない別の何かが混在していた。

「よくある、」

 平坦な嶺の声が繰り返した。朔は淡々と続ける。

「頻度として。薬物で判断力が落ちた状態で口が軽くなるのは、そういう状況にある人間では発生率が高い。今回もそのパターンに収まった」

「落ち込む理由が、わかるか」

「わかんない。だから聞いた」

 嶺は少し黙った。テーブルの端を見た。額に手を当てた。

「……彼女が死んだのは、俺の判断のせいでもあるんだ。普通の客として振る舞わなかった。それで彼女に変な客だと認識された」

「未成年の女相手にセックスしなかった。倫理を選んだから彼女が死んだ、ってこと?」

 嶺がまた止まった。

「……お前には全部わかるんだな」

「裏取りして輪郭は出た。詳細はわかんない」

「倫理を選んだことは正しかった。でも結果は同じだ」

「結果は同じ」

 朔はそう繰り返した。繰り返したことに特に意味はなかった。データが並んだまま、そこに止まった。嶺が苦しんでいるかどうかを解釈する回路が朔にはない。

「悲しまなかったら、死んでいった人間がかわいそうだろ」

「かわいそうという概念が機能してないから判断できない」

 嶺が長い息を吐いた。それ以上は何も言わなかった。プリンを食べ終えて、朔も何も言わなかった。

 帰り際、嶺は「来週も来られるか」と言った。

「甘いもんあるなら」

「ある」

「なら来る」

 取引の継続が確認された。

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