#2 量から質へ
四回目はソフトクリームの新しい店だった。オープンしたての店で、SNSにレビューが出始めていた。写真で見た段階では普通のソフトクリームに見えたが、レビューにミルクの質が高いと書いてあった。コンビニのソフトクリームとは素材が違う。
「いつもこんな情報どこで仕入れてる」
怪訝そうに嶺が訊いてきた。しかし、朔はその怪訝の意味までは理解しない。──十三歳の少年が脳みその餌とは言えやたらと年頃の女子やOLと同じレベルの甘いものを好むことの異質さには。
「SNS。掲示板も見る。あとは業務用のブラウザで広告が流れてくる」
「業務中に全部やってるのか」
「並行でやる。タブが別だから干渉しない」
嶺はまた黙った。ため息でもなく、笑いでもなく、何かを受け止めて閉じるような呼吸だった。ソフトクリームは確かに質が違った。コンビニのソフトクリームは後味に人工的な何かが残る。この店のは後味が素直だった。ミルクが主役で、甘みがシンプルだ。量は少なかった。コンビニのほうが量は多い。質と量のトレードオフは今回は質が勝った。
「美味いか」
「コンビニとは違う」
「それが感想か」
「質が高い。量は少ない。次は量が多い店がいい」
嶺が少し笑った。笑うかどうか迷ってから笑ったような顔だった。迷う理由がよくわからない。
「わかった。探しとく」
「探さなくていい。こっちで調べる」
「……そうだな」
嶺はソフトクリームを食べないまま、並んで歩いた。帰り道だった。日が暮れかかっていた。コートが風で少し動いた。朔はソフトクリームの最後のひとすくいを食べた。底のコーンが少し湿っていた。素直な甘みが口に残った。
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五回目は量の多いカフェのデザートプレートだった。チョコレートケーキとフルーツタルトとプチシュークリームが三個並んで出てくる店を朔が指定した。単品で頼むより種類が多い。それが選んだ理由だった。
嶺がコーヒーを頼んだ。タルトはフルーツの種類が多かった。チョコレートケーキは層になっていて、スプーンを入れる角度を変えた。プチシュークリームは一口で入った。甘かった。三種類の中で一番甘かった。
嶺は今日、あまり話さなかった。組織の話を始めても、普段の質問の密度が来なかった。コーヒーを飲む速度が遅かった。朔はチョコレートケーキの二口目を食べながら嶺を観察した。顔色が前の週より青白かった。目の下の疲労の質感が違った。業務的な反応速度が落ちている。変化の原因については、この日は調べなかった。情報が出てきていないうちに推論を走らせるのは効率が悪い。帰ってから確認すれば充分だ。
「なんかあった」
「……関係ない」
「そう」
プチシュークリームを食べた。一番甘いのは正解だった。




