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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
終之譚 宿敵邂逅

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〜第一話 利権〜

 ドーモ。直也之草子少年編最終譚、始まります。時は三月、修了式。直也は六年生になってもまた鹿乃子と別々の教室で授業を受けなければならない事を嘆いていた___。

 三月___。


 桜の花が開花を始める、卒業の季節。


 本日は修了式。直也達が小学五年生でいられる最後の日だ。


「来月で俺らも六年生かぁ〜〜……」


 登校中に感慨深そうにそう呟いたのは、直也の幼馴染の健悟だ。


「といっても、六年生はクラス替えも無いし、どうせ去年とそんな変わらない1年に……あいたっ」


 変わらない1年になるだろう。そう言おうとしたもう一人の幼馴染である月男の言葉を遮るように、直也が彼の頭を引っ叩く。


「言うんじゃねえ月男!!また1年、かのこと別々のクラスだって思ったら、悲しくなるだろーが!!」


 そう怒鳴りつつ、肩を落とす直也。


「はぁぁぁ~〜〜〜〜………何かの間違いで、またクラス替えしねぇかなぁ……」


 ショボくれる直也の肩を、健悟がポンと叩く。


「そう落ち込むなよ直也。柚澄原と一緒の学校に通ってることに違いはねぇんだからさ?」


「そうそう。()()ゆずみんと同じ学校に通えてるだけいいじゃないか。……まぁ、来年はどうなるか分からないけど」


「あ、バカお前……」


 余計な一言を言った月男を健悟が諌めるより早く、直也が月男に詰め寄る。


「ちょっと待て!!来年はどうなるか分からないってどういう意味だ月男!?ああ゛!!?」


 月男の襟を掴みグラグラと彼の頭を揺さぶる直也。


「だぁってぇ〜〜〜……ゆずみん、来年は受験するかもじゃ〜〜〜ん」


 直也に揺さぶられながら答える月男。


 直也は月男のその言葉に激しく動揺する。


「じゅじゅ、じゅじゅじゅ受験!!?」


 勉学や学歴など微塵も興味の無かった直也にとって、それは予想もしていなかった可能性であった。


「あ〜〜……まぁ、柚澄原頭良いからな。中学は公立行かずに私立行く可能性も……な?」


 ここまで言ってしまえばもう仕方ないとばかりに、健悟は遠慮がちに直也にその可能性を告げる。


「ッッッ!!?」


 突きつけられた可能性に絶望し、打ちひしがれる直也。


 その場でガックリと膝を折り、地面に両手を突く。


「ほらぁ、こうなっちゃったじゃん……お前が余計なこと言うから……」


 そう言って、月男の脇腹を肘で軽く小突く健悟。


「直也ー、遅刻するよー?置いてくよー?」


 月男は直也の傍にしゃがみ込み、相も変わらぬ間延びした声で直也に言う。


「………………する」


「え?」


「What's?」


 ぼそりと何かを呟いた直也に、健悟と月男は首を傾げる。


「俺も中学受験する!!」


 直也は顔を上げ、爪が食い込み血が出るほどに拳を握り締めながらそう宣言する。


「よ、よもやお前の口から中学受験なんて言葉を聞く日がくるとはな……」


 予想外の直也の台詞に、思わず呆気に取られる健悟。


 そんな折、直也達が今いる学校の正門前の通りの反対側から、タイミング良く柚澄原鹿乃子が歩いてくる。


 学校の正門に近付いたところで直也達の存在に気付いた鹿乃子は、一旦正門を通り過ぎて直也達の元まで駆け寄ってくる。


「なおくん、田口くん、田中くん。おはよ!」


「おっはーゆずみん。ちょうど今ゆずみんのことを話し___」


 月男が言い終わる前に、直也は月男を押し退けて鹿乃子に訊ねる。


「か、かのこ!!中学どこ受験すんだ!?俺もかのこと同じとこ受けるからよ!!」


 捲し立てるような語調で直也が訊ねると、鹿乃子は顎に人差し指を当てて小首を傾げる。


「中学校?えっと、まだ分からないけど……たぶん、普通の公立中学校だと思うよ?」


 鹿乃子の返答に、直也はパチパチと目をしば叩かせながら、彼女の言葉を繰り返す。


「公立……中学校??」


「うん。今はまだ、受験をする予定も無いから……」


 その言葉を聞き、直也は一気に表情筋を緩ませる。


「なぁあんだ、そうだったのかぁ〜〜♪いやな?この馬鹿共が、かのこが中学受験するかもしれないとかのたまうから、俺てっきり……」


 直也はほっと胸を撫で下ろしつつ、健悟と月男の頭を引っ叩く。


「ふふ、大丈夫だよなおくん。来年中学校に上がっても、なおくんと同じ学校だよ。あ、でも……もしもなおくんが中学受験するのなら___」


「死んでもしねえ!!」


 かのこの左手を両手で握り、直也はそう固く誓うのだった。








―――――――――――――――――――――――








 それは修了式が終わった放課後のことだった。


「なぁなぁお前ら、こんな噂があるんだけど、知ってる?」


 そう直也、健悟、月男の三人に切り出したのは、直也達のクラスメイトであり直也のサッカー仲間である箕輪(みのわ)(とおる)であった。


「なんでもさ?この町の周囲の山に、”メガソーラー”が設置されるって話なんだけど…」


 享のその言葉に、直也は眉をひそめる。


「メガソーラー?なんだそりゃ?」


 直也の疑問に、健悟が享に代わって答える。


「メガソーラーって、あれだろ?大規模なソーラーパネル」


 この手の話題は、直也達”三田郎”の中では健悟が最も詳しい。


「ソーラーパネルって、太陽の光で発電するアレだよな?なんだよ、そんならはじめからそう言えよ。んで、そのソーラーパネルが設置されるからどうだってんだ?良いことじゃねえか、エコってやつだ」


 直也がそう言うと、享は難色を示す。


「それがどうも、そうでもないらしくてさ……メガソーラーって、色々問題があるんだって」


 享の言葉に、健悟が相槌を打つ。


「ネットニュースなんかでは結構色々言われてるよな。普通にソーラーパネルを設置するより規模が大きいから、設置の際に森林とかを広範囲で伐採する必要があるって。そのせいで土砂崩れとか環境破壊に繋がったり、太陽光の熱を利用する性質上山火事なんかにもなりやすいクセして、感電するから放水による消火もできないらしいぜ?」


「そうそう!おまけに火災とかで破損すると、有害物質?ってのが出て山の土が汚染されたりとか……そもそも、メガソーラーが老朽化したらリサイクルができないとか、問題が山積みなんだよ」


「ついでに言えば、単純に景観も悪くなるよねぇ」


 健悟の解説を、更に享と月男が補足する。


「自然に優しい再生可能エネルギーが、回り回って自然破壊かよ。笑い話にもならねぇ」


 健悟らの言葉を聞き、直也は冷めた眼でそう吐き捨てる。


「まだ噂でしかないんだけどさ?どうも役所側はメガソーラーの設置に乗り気らしいって、大人たちが噂してんだってさ。二組の嘉島が今、あちこちに言いふらしまくってるよ」


 五年二組の嘉島(かしま)美樹(みき)。豊崎小のマスメディアと呼ばれる程の、噂好きだ。


「やっぱりな。情報の出処は大方、そんなところだと思ったぜ。いかにもアイツの好きそうな話題だしな」


 直也は呆れたようにそう呟き、更に続ける。


「メガソーラーってのは、相当儲かンだろうな。どいつもこいつも、利権にさえ絡めりゃあ環境破壊なんざ知ったこっちゃねえってわけだ」


「イヤだワァ、オトナのそういうトコ……」


 侮蔑混じりの直也の言葉に、月男が同調する。


「なんでも今日、町長が事業関係者を同席させて地域住民への説明会を開くんだってさ。たぶん、もうやってんじゃないか?」


 能天気な表情でそう告げる享。


 直也は春の陽気による欠伸を噛み殺しながら、桜の咲き誇る窓の外をぼんやりと眺める。


 遠くには、これからメガソーラーが設置されるかもしれない、町を囲む山々が見える。


(あそこにメガソーラーか……くだらねぇ)


 直也は立ち上がってランドセルを担ぎ、教室を後にした。








―――――――――――――――――――――――








 直也達の住む町の公民館___。


 ここでは今、地元住民を相手にした説明会が開かれていた。


「___えぇ〜〜、今回この地域にお住まいの皆様がご懸念されている疑惑についてですが……単刀直入に申し上げますと、近隣の山々をメガソーラー設置のために伐採する、などということは、一切ございません」


 開口一番、住民達の間に渦巻く疑惑を、町長は真っ向から否定する。


 町長の思わぬ回答に、説明会に参加する住民達は一様にざわつく。


 そこへ、住民達を代表するように一人の初老の男性が口火を切る。


「しかしですねぇ……市が山の土地の一部を、()()()()()()()()()というのは、事実なんですよね?」


「……ええ〜〜…それは、ですね……」


 男性の言葉を受け、しどろもどろになる町長。その時___。


「私が代わってお答えします」


 町長の横に座っていた男が立ち上がり、自ら答弁を買って出る。


 黒いワイシャツとスラックスに、ダークブルーのジャケットを着込んだ若い男だ。


 髪は黒のウルフカットで、左目元の泣きぼくろが印象的な、端正な顔立ち……おそらく、外国人だろう。


「えぇっと、貴方は?」


 突如として答弁を買って出た若い外国人に、初老の男性は若干気圧されながら訊ねる。


「申し遅れました。私は、今回市の土地を購入させて頂いたヴァレンティ・サイエンスの代表を務める、カリート・ヴァレンティと申します」


 ヴァレンティ。


 この場に集まる大半の人間には聞き慣れない名であったが、この場で唯一、町長以外にその名を知る人間であるネットニュース記者の男は、思わず度肝を抜かれた。


「……??先輩、あのヴァレンティって人、知ってんすか?」


 様子が変わった記者の男を見て、新人記者は首を傾げる。


「馬鹿っ!お前”ヴァレンティ・ファミリー”の名も知らずに記者やってんのか!?」


 新人記者の能天気な問いに、先輩記者の男は可能な限り小さい声で答える。


「記者なら覚えとけっ。ヴァレンティ・ファミリーってのは、アメリカ合衆国の大富豪一族だ……!」


 ヴァレンティ・ファミリー。


 合衆国内において複数の事業と株を保有する、ビリオネア一族。


 そのルーツは米国の裏社会にあるとされ、今尚米国や欧州、中東などの世界中の()と繋がりを持っていると噂されている。


 ヴァレンティ一族の当主は政界にも顔が利く、正に米国政財界のドンと呼べる存在なのだ。


 そんなヴァレンティの名を持つ青年カリートが、マイクを片手に流暢な日本語で地域住民達へ説明をする。


「今回、私達ヴァレンティ・サイエンスが山の土地を一部購入したのは、地域住民の皆々様の生活をより豊かにするため、弊社が開発した新たな発電システムを設置するためです」




__第二話へ続く__

 終之譚第一話、いかがでしたでしょうか?


 唐突に妖魔に全く関係の無い社会問題の話が始まって困惑している方もいらっしゃるかも分かりませんが、この話は田村直也という少年の今後にとって、最も大事な話となります。何卒、お付き合いください。


 さてそれでは、今回で登場人物紹介は最後となります。実は直也にとって、鹿乃子との出会いの次に重要な人物です。


――――――――――――――――――――――――


・カリート・ヴァレンティ


・誕生日:3月24日(20歳)


・身長:181cm ・体重:70kg


・米国の大富豪、ローレンス・ヴァレンティの落胤。かつてローレンスが日本人の家政婦に産ませたハーフで、母とは幼少期に死別している。その出自から、本妻の子である他の兄弟達からは存在を疎まれている。18歳という若さで父からヴァレンティ家の持つ事業の一部を託された才子。また武才にも秀でており、《蛇拳》と呼ばれる中国の暗殺拳を用いて敵対者を無力化する。周囲からは冷徹な人間と思われているが、その冷たい眼差しの奥にどういった感情を秘めているのか……それは誰にも分からない。

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