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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
終之譚 宿敵邂逅

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〜第二話 偽りの計画〜

 ドーモ。終之譚第二話、始まります。公民館にて町の山の土地の一部を買ったことへの住民達への説明をするカリート・ヴァレンティ。彼は何を語るのか……?

 公民館。


 新たな発電システムを設置するとカリート・ヴァレンティが口にした瞬間、会場のあちらこちらから怒りの声が飛び交う。


「ほら見たことか!やっぱりメガソーラーを設置するつもりじゃないか!」


 最初に町長へ質問を投げかけた初老の男性が、鬼の首をとったかのようにカリートを批難する。


 カリートは興奮する住民達に一切動じることなく、淡々と説明を続ける。


「いいえ。設置するのは、メガソーラーではありません」


 そう言うとカリートは、手元の資料をプロジェクターで投映する。


「皆様も御承知の通り、メガソーラーには様々な問題点が存在します。森林伐採による環境破壊や、それによって地面が保水力を失うことによる土砂崩れ。常に通電しているため放水による消火も難しく、景観も著しくそこないます」


 しかし、とカリートは続ける。


「この度山に設置するのは太陽光発電の設備ではなく、弊社が従来のシステムを独自に改良したバイオマス発電の設備です。バイオマス発電とは、木材や家畜の糞尿、食品廃棄物等の有機資源を利用して発電する技術です」


 カリートはプロジェクターで投映する資料を別のものに切り替える。


「一口にバイオマス発電と言っても、その仕組みは様々です。直接燃焼方式、熱分解ガス化方式、そして生物化学的ガス化方式等……。今回弊社が設置する設備は、堆肥熱発電という方式になります」


 カリートは更に続ける。


「堆肥熱発電はその名の通り、堆肥を発酵させる際に生じる発酵熱を発電に利用する方式です。この町の山の土壌は大変良く、発電に用いる堆肥の自然発酵に適しています。そこに弊社で培養したバクテリアを用いた発酵促進剤を使えば、効率的な堆肥熱発電の運用が可能です」


 カリートの説明に、住民の一人が疑問を呈する。


「それって要は、山にゴミ処理場を作るってことですよね?冗談じゃないですよ。山に生ゴミを集めるなんて……」


 渋い顔をする住民に、カリートは続けて説明をする。


「ゴミと言っても、利用するのは当然生分解される有機肥料に限ります。また、発酵は山の地下50メートルのところで行うため、異臭等を外部に漏らす心配もありません」


 カリートのさらなる説明に、しかし住民達はまだ納得しない。


「山の地下50メートルって……山に穴を掘るってことですか!?それで臭気の問題は大丈夫でも、そしたらまた土砂災害の危険が出るでしょうが!」


「それも御心配には及びません。掘削工事は山の地盤に影響を与えないよう、地質学の専門家の指導の下、安定した地盤を選び最小限のスペースだけ確保して行います」


 カリートは工事の計画案と山の地盤調査の資料を同時にプロジェクターで映す。


「有機肥料を入れる穴の直径は40cm程度、地下50メートルの貯蔵及び発電スペースも、縦6メートル、横4メートルの、アパートのワンルーム程度の広さ。メンテナンス用の進入スペースも、直径が70cmを超えないように設計します。地盤沈下や土砂崩れ等の災害は、決して起こしません」


 そして、とカリートは続ける。


「今回の堆肥熱発電で作る電力は全て、地上で運用する新たな()()()に供給されます。」


 基地局。


 唐突にカリートの口から出たその言葉に、住民一同は顔を見合わせ、首を傾げる。


「基地局……とは、携帯やスマートフォンの電波を中継する、あの基地局…ですか?」


 最初に質問をした初老の男性が訊ねる。


「はい。この度弊社は株式会社JTTフォンと共同で、山に作る発電設備の更に上に、新たな基地局を建設します」


 ここへ来て山の発電設備の話に日本の通信会社が絡んできた事に、説明を聞いていた住民達は困惑する。


 カリートはプロジェクターで映す資料を更に切り替え、淡々と畳み掛けるように言う。


「御存知の通り皆様が暮らすこの豊崎町は、総面積約4600haの内可住地面積は46%、およそ2116haであり、残りの54%、2484haを山林が占めています。この町は、その半分以上の面積が山地であるのです」


 プロジェクターで映す資料を次々に切り替えていくカリート。


「これはJTTフォンが公開している山の電波状況を地図に記した物です。これによれば、山で携帯電話、並びにスマートフォンの電波が繋がる範囲は、現在使われている基地局の周辺を除けば、一部の登山道に限られます。そこを一歩でも外れてしまえば、山の高低差や樹木に阻まれ、途端に電波状況が悪くなります」


 次にカリートが映し出した資料は、昨年の地元紙の記事であった。


「この新聞記者は昨年、近隣に住む小学生三人が行方不明になった時の物です。のちに発見された彼らの証言によれば、彼らは上級生へ贈るプレゼントに使うための植物を採取しに山へ入った際に、迷子になったとのことでした」


 それは去年、豊崎小学校に通う小学一年生の宮前卓、楢崎准、鎌田春花の三人が行方不明になった時の物であった。


 ちなみに、その事件は山姫という女の妖魔が関わっていたのだが、三人はその事については誰にも話していない。


「このように、町の子供達にとって山は最も身近な遊び場です。しかし、子供は好奇心旺盛です。山で遊んでいるうちに山林の奥へと入ってしまい、結果迷子になるというケースは、どの家庭のお子様にも起こりえる事です」


 カリートは手元の資料を置き、住民達に正面から向き直る。


「こうした事態を防ぐためにも、基地局の増設は急務であり、発電設備はあくまでその基地局に必要な電力を補うためのものです。子供達の安全のためにも、住民の皆様にはどうか御理解の程、よろしくお願いします」


 そう言ってカリートは住民達へ頭を下げた。


 集まった住民達も完全には疑惑は拭えなかったものの、子供達の安全のためと言われれば、それ以上何も言えなかった。








「いやぁ~〜、先輩からヴァレンティ一族はアメリカの闇がどうこう言われた時はどうなるかと思いましたけど、あのカリートって青年、良い奴そうでしたね」


 説明会が終わったのち、本社へ向けて車を運転するネットニュースの新人記者が、助手席に座る先輩記者にそう語りかける。


 しかし、先輩記者は呆れたように言う。


「……お前、まさか本気であの話信じてんのか?」


「え??」


 自身の後輩の単純さに、先輩記者は思わず眉間を押さえる。


 これがのちに日本のジャーナリズムの最前線に立つ人間だと思うと、報道の未来を憂わずにはいられない。


「あのな?まずトラックの搬入が困難な山に有機肥料を持ち込むなんてのが、現実的だと思うか?」


 先輩記者の言葉に、後輩記者は「言われてみれば……」と納得する。


「そもそもがだ、堆肥熱発電なんて非効率な発電方式で、基地局一つ分の電力を補えるわけがないだろ。基地局一つで何kW使うと思ってんだ?設置費と維持費の面から見ても、太陽光発電を使うって言われた方がまだ説得力があったわ」


 先輩記者の発言に、後輩記者は首を傾げる。


「えっと……じゃあ、あのカリートってやつの説明は……」


「十中八九、適当に取り繕っただけだろうな。太陽光発電って言えば、今はその問題点が全国的に話題になってるから、敢えて他の発電方法をあげつらって、批判を避けたんだろうよ」


 先輩記者は車の窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。


「……あのカリートって若造……何を企んでやがる?」







―――――――――――――――――――――――








 おおよそこの町には不釣り合いな黒塗りの高級車が、通りを走る。


 その車内でカリートは、流れ行く町並みを何の気なし似眺めていた。


「……若」


 運転手の男が車を目的地へと走らせながら、カリートに訊ねる。


「何故こんな田舎町の、山の土地なんて買ったんですか?我が社も太陽光発電の事業に参入するというのであれば、幾らか利益も見込めたでしょうけど___」


 そこまで口にして、運転手の男はハッとする。


 バックミラー越しにカリートが、冷たい視線を向けている。


「……俺のやることが、不満か?」


「い、いえ!出過ぎた発言でした。申し訳ありません……」


 慌てて男はバックミラーから視線を逸らす。


 それから少しの間、運転手は無言で車を走らせていたが……。


「……そこを左へ曲がれ」


 唐突にカリートが運転に口を出す。


「は?」


「少し寄りたい場所がある。曲がれ」


 そこから運転手は、カリートに言われるがまま車を走らせる。


 やがて車は、町外れの人通りの無い道で止まる。


「ここで待っていろ」


 カリートは運転手にそう告げ、車を降りる。


 そこからカリートは、道路脇の林の中へと入っていく。


 地元住民ですら滅多なことでは立ち入らない林の中を、カリートは樹木の合間を縫うように進んでいく。


 歩いている内に、カリートは傾斜に差し掛かる。


 歩き慣れない人間にはキツいであろう舗装されていない傾斜を、カリートは息を乱すこともなく上っていく。


 そうしてカリートが辿り着いた場所は、小高い丘の上だった。


 眼下には町が一望でき、反対側には町を囲む山々が連なっている。


 カリートは丘の上から町を見下ろす。


 周囲を山に囲まれた、何の変哲もない片田舎の町。


 先程の運転手がそうであったように、カリートの部下は皆、彼が何故こんな町の山の土地を買ったのか解らなかった。


 この町は観光業が盛んなわけでもない、至って平凡な地方の片田舎だ。


 この山も、特段希少な鉱石などが採掘できるというわけでもない。


 今現在シェアを拡げつつあるソーラーパネルの事業に参入すれば、このような町の山でも多少は利用価値があるが、ヴァレンティ・サイエンスは現在、ソーラーパネルの事業には手を付けていない。


 ソーラーパネルの事業に着手するつもりがあるのかを部下が訊ねても、カリートは何も答えない。


 彼が何を考えてこの山の土地を買ったのか……それは彼以外には誰にも解らない。


 ただ一つだけ言えることは、この町がカリートにとっては()()()町であるということ。


(……)


 暫し丘の上から町を見下ろしたのち、カリートは丘を降りようと踵を返す。


 その時___。



「待ちな!」



 一人の少年が、カリートの前に立ち塞がった。




__第三話へ続く__

 終之譚第二話、いかがでしたでしょうか?今回はカリート視点でのお話でした。


 ちなみに、最後に現れた少年はもちろん直也です。ここへ来て初めて、二人が邂逅しました。


 何故直也はカリートの前に現れたのか……次回は直也視点に戻ってのお話です。


 ちなみに、予定では直也之草子は後二話で終わりです。どうか皆様、最後までお付き合いくださいm(_ _)m

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