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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
幕間譚其之三

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〜田村直也の地獄のバレンタイン奮闘記_中編〜

 投稿が30分以上遅れてしまい、大変申し訳ありません。幕間譚其之三、”中編”になります。バレンタインデー当日の朝、爽やかな気分で目覚めた直也は、昨日作った三不粘を冷蔵庫から取り出すが___?

 バレンタインデー当日の朝___。


 直也はスマートフォンにかかってきた珠稀からのモーニングコールで目を覚ました。


『おっ。ちゃんと起きたか、ナオ』


「…………お袋?」


 スマホを耳に当てながら、煎餅布団からのそりと上体を起こす直也。


『分かってると思うけど今日お母さん出社日だから、先に家出てるからな。朝ごはんはできてるから、チンして食べなね。それと、学校行くときは戸締まり忘れるなよ?夜には帰るから。んじゃ』


 ひとしきり言いたいことを言ったのち、珠稀は通話を切った。


 直也は布団から起き上がり、一階へ下りて洗面所で顔を洗う。


「………ぃよしっ!!」


 実に清々しい朝である。


 それもそのはず、なんせ今日はバレンタインデー。


 直也にとっては、愛しの鹿乃子から愛情たっぷり(?)のチョコを貰える日なのだ。


 しかし今年は、それだけではない。


 今年は直也からも、鹿乃子へバレンタインスイーツを贈るのだ。


「ぬフフッ」


 若干気持ち悪い笑みを浮かべながら、直也は冷蔵庫の前に立つ。


 昨日、直也は鹿乃子へ贈る至高のスイーツ、三不粘(サンプーチャン)を作り上げたのだ。


 三不粘。餅よりも柔らかい独特の食感を持つ、幻の中華スイーツだ。


 三不粘は調理難易度が極めて高く、直也自身、満足のいく出来に仕上がるまで、幾度ものトライアンドエラーを繰り返した。


 そのせいか、おたまの振り過ぎでまだ右腕が痺れているように感じる。


 そうしてやっとの思いで完成した三不粘が、この冷蔵庫の中に入っている。


 後はこの三不粘に合わせるチョコレートソースとラズベリーソースを作れば、バレンタインの準備は完璧だ。


 直也は鹿乃子の喜ぶ顔を想像しながら、意気揚々と冷蔵庫を開けた。


 そこには、ラップが掛かったスライムのような黄色いスイーツが、皿の上に鎮座していた。


(さぁ〜て♪コイツにバレンタインに相応しい良い感じの包装を施して…………ん?)


 三不粘に触れた瞬間、違和感を感じた。


 固い。


 昨日はあんなにも柔らかかった三不粘が、固いのだ。


 直也は冷蔵庫で固くなった三不粘を見てハッとした。


(そういえば、三不粘ってそもそも保存の効く食いモンだったか……!?)


 直也は直ぐ様スマートフォンで『三不粘の賞味期限』と検索した。


 そこで、三不粘は出来立てをすぐに食べなければ、その独特な食感が損なわれてしまう料理だと気付いた。


 直也は絶望し、頭を抱えた。


 考えてみれば、突き立ての餅だって保存しようとすればすぐに固くなってしまい、その後再加熱しても突き立ての時程の食感には戻らない。


 餅よりも柔らかい食感の三不粘の保存が効かないのは、道理であった。


「そうだよなぁ!!賞味期限が短いから(だから)幻のスイーツって呼ばれてんだもんなぁ!?」


 直也は焦った。焦りに焦りまくった。


 鹿乃子に三不粘の食感を楽しんでもらうには、出来立てを振る舞わなければならない。


 であれば、放課後に直也の家に招いて三不粘を振る舞うというのが望ましいのだが……。


 鹿乃子は月一で病院へ通っていて、生憎今日がその通院日だと以前鹿乃子本人から聞いていたため、放課後に時間が取れないことは確定してしまっているのだ。


(ここまでなのか……俺はかのこに、最高のバレンタインスイーツを味わわせることはできねえのか!?)


 三不粘に代わるバレンタインスイーツを考案する時間は無い。かと言って、放課後に時間も取れない。


 三不粘を振る舞うには、学校で調理をしてそのまま鹿乃子のもとへ届ける他ないが、学校で調理など……。


(………いや)


 調理は、できる。


 学校には調理実習室がある。そこを使えば、調理はできる。


 もちろん学校側は、そんなことのために調理実習室の使用を許可などしないだろう。


 ならば、()()()()()()()


 鹿乃子が病院へ行く日は、決まって彼女の両親が学校まで車で迎えに来る。


 それまでにどうにか調理実習室に忍び込み、三不粘を完成させる。


 そうすれば、鹿乃子に最高のバレンタインスイーツを食べさせることができる。




 そうと決めた直也の行動は早かった。


 直也は学校へ向かう前に、自宅でチョコレートソースとラズベリーソースを作ることにした。


 調理実習室に忍び込めても、三不粘に加えて2種のソースまで作る時間的余裕は無いだろう。


 重要なのは、三不粘はともかくソースだけなら作り置きがきくということだ。


 幸いにも寝るのが遅かった割に比較的早起きができたため、自宅でソースを作る時間は充分にある。


 自宅でソースを作り、保存容器に入れて三不粘の材料と共に学校へ持っていく。


 そして放課後、鹿乃子の両親が迎えに来るまでの僅かな時間で三不粘を作るのだ。


 直也は直ぐ様、ソースの材料を準備する。


 チョコレートソースの方は、ダークチョコレートと牛乳だけ。ラズベリーソースの方は冷凍のラズベリーと、グラニュー糖とレモン果汁___。


「___あ"……?」


 ()()に気付いた瞬間、直也の背筋にぞわりと悪寒が走る。


 レモン……ないし、レモン果汁調味液はどこだ?


「嘘だろ………マジかよ!!?」


 どこにもない。


 レモンも、レモン果汁100%を差し容器に詰めた調味液も。


 ここへ来て、まさかのシンプルな買い忘れ。


 絶望の波が、直也を襲う。


「畜生がッ!!間に合うか!?」


 直也は財布を手に取り、過去一番のスピードで近場のコンビニへ向かう。


 ここから一番近いコンビニであれば、自転車を飛ばせば10分もかからない。


 直也は珠稀のママチャリに跨り、フルスロットルでペダルを漕ぐ。


 一番近いコンビニに5分で着いた直也は、調味料の棚に置いてあるはずのレモン果汁調味液を探す。


 だが、最悪なことというものは重なるもので……。


「な………ッんで、ねえんだよ!!?」


 調味料の並ぶ棚には、醤油や砂糖など一通りの調味料が並んでいたが、唯一レモン果汁調味液だけが、ピンポイントで見当たらなかった。


「あら、直也ちゃん。朝からおつかい?」


 コンビニのおばちゃんが直也に話しかける。


「おばぢゃん"ッッ!!レモン!!レ"モ"ン"ッッッ!!」


 焦り過ぎたあまり、主語以外の全ての文法が抜け落ちる直也。


 しかしコンビニのおばちゃんは、直也の口にした主語と直也が商品を探している棚から、彼が何を求めているのかを察する。


「あ〜はいはい、レモン果汁調味液(ピッカレモン)ね。ごめんねぇ直也ちゃん、今ちょうど売り切れてるのよ。昨日女の子が、バレンタインのお菓子作りに使うからって買っていってね?そんなしょっちゅう売れるような商品でもないから、まだ在庫発注してないのよねぇ……」


 おばちゃんの話を聞き終わる前に、直也はコンビニを飛び出した。


 目当ての商品が無い以上いつまでもここでグズグズしてはいられない。早く次のコンビニへ向かわなければ。


「……今度から、バレンタインの日は少し多めに発注するようにしようかしら?レモン果汁調味液(ピッカレモン)


 ママチャリで走り去っていく直也の後ろ姿を見送り、おばちゃんはぽつりとそう呟いた。








「さむ……」


 未だ寒さの残るバレンタインデーの朝。


 田口健悟はマフラーに顔半分を埋め、霜の降りる通学路を歩く。


 今日はいつもよりも登校時間が早めで、周囲にはまだ自分以外に登校している生徒は少ない。


 健悟は生き物係で、今日は早く登校してうさぎ小屋のうさぎの世話をしなければならないのだ。


 家を出てから15分程歩いて、校門の前に着く。


 そこで健悟は、とある少女とばったり出会う。


「あ、田口くん」


「おー、柚澄原」


 健悟が会ったのは、幼馴染である田村直也の想い人である、同級生の柚澄原鹿乃子だ。


 実は彼女は二組の生き物係で、今日は健悟と共にうさぎの世話をすることになっていた。


「おはよう田口くん。今日も寒いね」


「だなー。とりあえず早ぇえとこ、うさぎ小屋の鍵受け取りに行こうぜ」


「うん。あ、ちょっと待って」


 鹿乃子はランドセルとは別の手提げ袋の中から、可愛らしい包装の施された袋を一つ取り出す。


「これ、バレンタインのチョコレート。ハッピーバレンタイン♪」


 そう言いながら鹿乃子は、健悟にバレンタインのチョコレートを差し出す。


 鹿乃子はバレンタインデーには毎年数人の友人へチョコレートを渡していて、健悟もその内の一人だ。


「おー、サンキュー」


「学校で食べるのはダメだから、おうちで食べてね?」


「分かってるって」


 そう言って健悟が鹿乃子からチョコレートを受け取ろうとした、その刹那___。


 鹿乃子の背後を、ママチャリに乗った直也が通り過ぎる。


 猛スピードなため健悟には一瞬だけしか直也の表情が見れなかったが、その両眼は確かに鹿乃子からチョコを貰う健悟を捉えていた。


 まるでこの世の終わりを見たかのような、絶望と恨みに満ちた表情で。


「?田口くん、どうしたの?」


 健悟の表情が固まったのを見て、不思議そうに声を掛ける鹿乃子。


「へ?あ、いや……なんでも___」


 なんでもない、そう健悟が答えようとした、その時___。



 ドガシャアアア……。



 遠くの方で鳴り響くクラッシュ音。


 猛スピードで自転車を走らせていた直也が、段差で盛大にコケたのだ。


 鹿乃子からチョコを貰う健悟を恨みの込もった眼で睨みつけていた為に、結果としてそれが自転車の余所見運転に繋がった故の事故だった。


 直也は自転車から盛大に投げ出され、ゴロゴロと地面を転がる。


「?なんの音___」


「ああ〜〜柚澄原!!先に職員室で鍵貰っといて!俺も後から行くから!」


 遠くの音に鹿乃子が振り返ろうとした寸前で健悟が回り込み、鹿乃子の背中を押して校門の内側へ押し込む。


 直也が自転車で盛大にコケたことに気付けば、鹿乃子は間違いなく動揺するだろう。


 鹿乃子に心配をかけるのは直也も本意ではないはずだと考えての、健悟なりの気遣いだった。


「う、うん。わかった……」


 強引に背中を押され少し困惑した鹿乃子だったが、言われた通りに職員室へと向かう。


 鹿乃子が離れたのを確認して、健悟は直也のもとへ駆け寄る。


「ぐぉぉ……」


 頭から血を流しながら、ゆっくりと上体を起こす直也。


(……落ち着け……落ち着け俺。かのこは心優しいから、いつも健悟ごとき有象無象にだってチョコを恵んでやってるじゃねぇか…)


 怪我の功名と言うべきか、事故の衝撃で直也は少しだけ冷静さを取り戻した。


「お〜い、大丈夫か直也?あと、柚澄原がチョコ配ってんのは俺だけじゃないからな?」


 直也のもとへ駆け寄りながら、健悟は直也の身を案じる言葉と共にそう告げる。


「わかってらい!!」


 キッと健悟を睨みつけ、直也はそう吐き捨てる。


「お、おいおい血がでてんじゃん!保健室寄ってくか?」


「そんな暇ねえわ!これから俺はレモン果汁を買いに行かにゃならんのじゃ!!」


 心配する健悟をよそに、直也は自転車を起こす。


 しかし、クラッシュの衝撃で前輪がイカれてしまい、これ以上乗り回すことはできなかった。


「チッ、ボロ自転車が……。健悟、(わり)ぃがこれ、学校の駐輪場にでも置いといてくれ」


 直也の要求に、健悟は渋い顔をする。


「いや、置いといてくれって……ウチの学校、生徒は基本自転車通学禁止なの知ってるだろ?見つかったら俺、怒られんだけど……」


「別におめぇが自転車に乗ってきたわけじゃねえだろ?つべこべ言わず置いといてくれや。俺は先を急ぐからよ」


 そう言って直也は、健悟と自転車を置いてコンビニへと向かうのだった。




__後編へ続く__

 幕間譚其之三中編、いかがでしたでしょうか?


 そうです。”中編”です。


 なんか幕間譚が予想以上に長くなってしまいました。まさかこんなに長くなるとは……これもある種、定期更新が故のミスと申しますか……。(汗)


 数話分纏めて書いてから投稿できれば、このようなミスもなかったのですが……言い訳ですね。申し訳ありませんでした!


 それと、投稿時間が遅れたことも申し訳ありません。


 17時前段階でとうに今週分の話は出来ていたのですが、先の謝罪にも繋がるのですが、文字数が8000字をオーバーしてしまいまして……。


 私は、1話の文字数は4000字以上8000字以下と決めていまして、オーバーした段階で「後編を更に半分に分けて前、中、後編の三部構成にしよう」と、急遽変更することに相成りまして……。


 その半分の4000字を移す作業に時間がかかってしまったため、定期更新を始めてから初の投稿遅れとなってしまいました……。(最終話まで、こういうことがないようにしたかったなぁ……(泣))


 上記の説明の通り、後編は既に出来上がっているため、次回の更新が遅れることはありませんので、ご安心ください。


 今回は本当に、申し訳ありませんでしたm(_ _)m

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