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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
幕間譚其之三

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〜田村直也の地獄のバレンタイン奮闘記_前編〜

 ドーモ。幕間譚其之三、田村直也の地獄のバレンタイン奮闘記_前編、始まります。バレンタインを目前に控えた日曜日、直也はとある計画を立てていた___。

 もうすぐ2月14日、バレンタインデー。


 恋人や意中の相手がいる男にとって重要な、プレシャスデー。


 そしてそれは、小学生であっても変わらない。


 もっとも、大半の小学生男子は気恥ずかしさだったり他の男子からのからかいの的になることを恐れ、表面上はなんでもないような態度を見せる。


 子供特有の実にお可愛いらしいバレンタインへの抵抗だ。


 しかし、こと田村直也にだけは、その法則は当てはまらない。


 柚澄原鹿乃子という大変仲の良い意中の同級生がいる彼は、おそらくこの日本という国に住む男子小学生の中で、誰よりもこの日を心待ちにし、謳歌していた。


 しかし……。


 直也が鹿乃子と出逢ってから今年で四度目となるバレンタインだが、今年はいつもと違った。


 そもそもバレンタインデーは、女性が意中の男性に何故かチョコレートをプレゼントするという、よくよく考えたら少し不思議な習慣だ。


 もっともその不思議は、まだチョコレートが珍しかった当時に製菓会社が販促目的で広めたという有名な俗説で、一応の説明はつく。


 昨今のバレンタインはよりその意義が多角的になり、恋愛対象ではない友人や同僚などへ御中元感覚で贈る”義理チョコ”から始まり、性別関係なく親しい友人へ贈る”友チョコ”……、果ては日頃頑張っている自分自身へのたまの贅沢として買う”ご褒美チョコ”など、その在り方は多岐に渡る。


 鹿乃子もまた、この日になると直也をはじめ複数人の友人へ友チョコを贈っていて、直也は毎年この日を楽しみにしていたのだが……。


 ふと、直也はこう思った。


 何故俺はかのこからチョコレートを貰うだけで満足しているんだ?


 バレンタインデーは好きな相手へチョコレートを贈る日なのだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ。……と。


 言うまでもないが、バレンタインデーには対となるホワイトデーという日があり、チョコを貰った男性はこの日に返礼品を女性へ渡すのが普通だ。


 しかし、そのような事実は直也にとって鹿乃子へ愛の込もったチョコレートを贈らない理由にはならなかった。


 愛の込もった贈り物をする口実など、多ければ多いほど良い。ホワイトデーに贈り物もするし、バレンタインデーにもチョコを渡すのだ。


 ___と、いうわけで……。


 直也はコンビニをはしごして買い占めた大量の板チョコをローテーブルに置き、ソファーの上で腕を組んで唸っていた。


 鹿乃子へチョコレートを贈るのは決定事項として、いったいどのようなチョコを作れば良いのか……。


 一口にバレンタインのチョコレートと言っても、色々ある。


 一口サイズのボンボンショコラに、チョコレートクッキー、ブラウニー……。


 直也がどのようなチョコを贈ったとしても、鹿乃子は喜ぶだろう。


 けれど直也としては、来たるバレンタインデーをより鹿乃子の心に残る日にしたい。


 そのために、より特別なチョコを作りたいのだ。


 しかし、心に残る特別なチョコというものが抽象的すぎて、どのようなチョコがそれに該当するか、さっぱり分からない。


「…………あ"あ"〜〜〜クソッ!!」


 考えれば考えるほど、分からなくなっていく直也。


 何かヒントを獲るために、スマートフォンで【バレンタイン 特別なチョコ】と検索をかけるが、出てくるのは老舗ブランドの高級チョコレートばかり。


 それを買えれば一番良いのだろうが、それら老舗の高級チョコはどれも、直也のお年玉では手が届かないものばかり。


 その中でも一番安いチョコですら、直也のお年玉の二倍近い値段がする。


 母親の珠稀に小遣いの前借りを頼んだが、「ほざけ小僧」と一笑に付された。


 それどころか、「お前のような小童が老舗の高級チョコを贈ろうなんぞ10年早い」だの、「そもそも高級なチョコであれば相手が喜ぶなどという浅はかな考えが気に入らん」だの、「悔しかったら心の込もったチョコを手作りしてみろ」だのと、ボロクソに言われてしまったのだ。


「ダメだ……やっぱ老舗メーカーの高級チョコしか出てこねぇ」


 頭を抱える直也。


 このままでは、あっという間にバレンタインデーを迎えてしまう。


 どうしたものかと悩んでいたその時、直也の耳に天啓のように、ある単語が聴こえる。


『サンプーチャン?』


『そう!三不粘(サンプーチャン)です!』


 直也が顔を上げると、つけっぱなしにしていたテレビからとあるトークバラエティ番組でのVTR映像が流れている。


 二人のMCのワイプ画面がテレビの左右上部に小さく映し出される中、画面中央では【SNSで話題!謎の中華スイーツ、()()()に迫る!】という文字が、黒塗りのシルエットと共にデカデカと映し出されている。


「サンプーチャン……?」


 聞き慣れない単語に、直也は首を傾げる。


 だが、直也はこの単語が起死回生の答えに繋がるという予感を感じ、そのままテレビの視聴を続ける。


 番組のナレーター曰く、三不粘とは皿、箸、歯の三つにくっつかないという意味の中華スイーツで、材料はシンプルながらも調理難易度が極めて高いため、本番中国でも一部のレストランでしか提供していない【幻のスイーツ】……らしい。


 テレビ画面には現在、卵黄とデンプン、砂糖でできた糊状の液体を、中華鍋の中でおたまを叩きつけるかのようにかき混ぜるという、激しい調理が行われている。


 そうしてできたものは、つきたての餅のように柔らかい、艶めいたひと纏まりの黄色いスライムのようだった。


 厨房でその様子を見ていたレポーターが、皿に乗せられた三不粘を食べ、食レポをする。


 曰く、食感は餅よりも柔らかく味は優しい甘さのカスタードのようだが、材料がシンプルなだけにやや単調な味わいのようだ。


「………これだあああ!!」


 ソファーから立ち上がり叫ぶ直也


「コラーー!!夜に大声出すなバカ息子!!近所迷惑だろーが!!」


 廊下の向こうから、自室で仕事の資料を纏めていた珠稀が直也を叱るが、今の直也の耳にはその声は届いていなかった。


 幻のスイーツ、三不粘……単調な味わいのこれにほろ苦いチョコレートソースを合わせて味を補えば、未だかつてない最高のバレンタインスイーツになるのでは?


(見えたぜ……究極のバレンタインの贈り物が!!)


 バレンタイン当日、鹿乃子にチョコレートソースを添えた三不粘を贈るのだ。


 きっと鹿乃子の思い出に残るバレンタインデーになること、間違いないだろう。


「っしゃあ!そうと決まれば、早速材料を買いに行くぜ!!」


 時刻は午後8時20分。今から自転車をかっ飛ばせば、隣町のスーパーの閉店時間までにはなんとか間に合うだろう。


 財布を持った直也は、廊下に出て玄関へ___。


「させるかぁ!!」


 ___向かおうとしたところを、珠稀によるラグビータックルで止められた。


「何しやがるクソババア!!」


 直也が文句を言うと、珠稀が直也の頭を引っ叩く。


「今何時だと思っとるか、このバカ息子!!こんな時間に子供を一人で外に出す親がいるかアホ!!」


「まだ8時半前じゃねえか!深夜帯ってわけでもねぇし、ちょっとそこまで買い物に行くぐらい別にいいだろ!」


「ほう、ちょっとそこまで?ならどこまで行くつもりだ?言ってみろ」


「隣町のスーパー!」


「はいアウトー!!」


 再び直也の頭を引っ叩く珠稀。


「今からそんなとこまで行ったら帰りが遅くなるだろがい!!第一お前は()()()()だろーが!!去年丸一晩帰ってこなかったこと、忘れてねぇかんな!!」


 そう。直也は去年の5月頃、髪鬼という妖魔との戦いで丸一日家へ帰らなかった前科があるのだ。


 それ以外にも、気に入った人間の身体の一部分を蒐集するサイコ女刑事と戦って病院送りになったりと、色々とやらかしているのだ。


「ぐっ!?過去のことをグチグチと……」


 直也自身、過去のやらかしを引き合いに出されては何も言い返せない。


 結局直也はおとなしく、翌日を待った。


 幸い、バレンタインデーまで今日を除いてあと2日間の間がある。準備期間としては充分だ。


 そう思っていた直也だが、この三不粘を作るという選択がとんでもなく過酷な選択であったことを、のちに思い知ることとなる___。








―――――――――――――――――――――――








 翌日___。


 学校を終えた直也はその足で隣町のスーパーへ直行し、材料を買い揃える。


 と言っても材料はシンプルで、卵にタピオカ粉、それとピーナッツオイルだ。チョコレートソース用のチョコは昨日買っておいた物を使えるし、砂糖は家に充分ストックがある。


 加えて直也は、冷凍のラズベリーを買った。


 折角鹿乃子に三不粘を食べさせるのであれば、チョコレートソースだけではつまらない。ラズベリーソースも加えて、より味のバリエーションを楽しめる方が良い。


 そうなると最早、本当にチョコレートがメインなのか疑問が残るところではあるが、直也にとってそんなことは関係無い。


 重要なのは、鹿乃子が直也の作った三不粘を最後まで美味しく食べられるかどうかなのだ。


 こうして一通り材料を揃えた直也は帰宅し、早速三不粘を作ってみることにした。


 三不粘の作り方は以下の通り。


 一、まず用意したデンプン(今回はタピオカ粉)と砂糖を水に溶き、充分に馴染ませる。


 この水とデンプンを馴染ませるのに、最低でも4、5時間は要るらしい。


 おかげで本格的な調理に取り掛かるのが、夕食の後になってしまった。


 二、卵黄をキッチンペーパーで濾し、一の工程で充分に馴染ませたデンプン液と混ぜる。


 三、中華鍋(今回は家庭用フライパン)で卵液を混ぜたデンプン液を熱し、糊状になったら適宜ピーナッツオイルを加えて、おたまでひたすらにブッ叩き続ける。


 この三の工程が一番難しく、素人がやると出来の悪い炒り卵のようになってしまう。


 現に直也も、1回目は失敗して甘い炒り卵になってしまった。


「……まぁまぁ。まぁまぁまぁ、最初はこんなモンだよな?」


 やはり幻のスイーツと言われるだけあって、一筋縄ではいかない。


 しかし、問題は無い。こうなることを見越し、馴染ませるのに時間の掛かるデンプン液は、あらかじめ多めに作っていた。


 これで何度か練習すれば……。


 練習すれば………。


 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。




 あっという間にデンプン液も、1パック10個入りの卵も無くなった。


 できたのはどれも、出来の悪い甘い炒り卵ばかり……。


「マジかよ……」


 大量の炒り卵を前に項垂れる直也。よもや、これほどまでに難しいとは……。


「クソッ、何がダメなんだ……?火力か?それとも、やっぱ中華鍋と家庭用フライパンじゃ熱伝導率がちげぇのか?」


 いずれにせよ今日はもう外出はできない。


 とりあえずデンプン液だけ作り置きをして、また明日卵を買い揃えることにする。


 大丈夫、まだあと1日ある……。




 翌日、学校を終えた直也は町中のコンビニや商店街をはしごして卵を買い占めた。


 本当なら隣町のスーパーの方が安いのだが、学校が午後に終わる都合上隣町まで自転車を走らせているような時間的余裕は無い。バレンタインデーは明日に迫っているのだ。


 おかげで正月に貰ったお年玉はだいぶ減ったが、卵は昨日の数倍の量を買い揃えた。三不粘を上手く作れるようになるまでに材料切れになることはないだろう。


「よっしゃあ!今日で三不粘、仕上げてやるぜ!」


 早速三不粘作りに取り掛かる直也。


 デンプン液も、家にあるありったけの冷水筒に作り置きを入れておいた。


 デンプン液の作り置きをするための冷水筒を少しでも増やそうと、作ったばかりの麦茶を強引に飲み干して珠稀に怒られたりもした。


 そうして用意した大量のデンプン液と卵を使い、数度のトライアンドエラーを繰り返したのち、それは起こった。


 三不粘を作っている途中で、おたまが壊れたのだ。


「んな"っ!?」


 壊れたおたまを見つめ、呆然とする直也。


 三不粘は、作るのが大変と言われる理由が主に三つある。


 一つがその調理難易度、もう一つはデンプン液を仕込む時間的な手間。


 そして、三不粘を作るのが大変な理由の最後の一つがこれだ。


 三不粘は生地におたまを激しく打ち付けながら作るその性質上、調理道具の消耗が激しいのだ。


「クソッ!!ようやく感覚を掴みかけてたってのに……!」


 三不粘を作り始めて、ようやく上手く行きかけていた矢先にこれだ。


 直也は壊れたおたまを床に叩きつけた。


 しかし、それが仇となった。


 直也がおたまを叩きつけた音で、直也がおたまを壊したことに珠稀が気付いてしまった。


 感覚を忘れてしまう前に予備のおたまを取り出して練習を再開しようとしていた矢先に、直也は珠稀から壊したおたまの替えを買ってくるよう命じられてしまった。


「勘弁してくれよお袋……ようやく感覚掴みかけてたとこなんだよ!これ以上のタイムロスは避けてぇんだ!」


「ダ〜メ!!金は出してやるから、自分で壊した分はその日に自分で買い直してくる!怒られないだけありがたいと思え、バカ息子」


 結局直也は、壊したおたまを買いに行かされてしまった。


 買いに行く際に渡されたのはおたま一つ分の値段であったが、直也は自腹でもう一つおたまを買った。


 万が一再びおたまが壊れてしまった時のことを考えてのことだ。これ以上のタイムロスは避けたいのだ。


 おたまを買ってきた直也は再び三不粘作りに取り掛かろうとするが、珠稀が夕食を作るために台所が使えず、三不粘作りを再開するのに更に時間が空いてしまった。


 そのせいで、折角掴みかけていた感覚を再び忘れてしまい、深夜まで更に数度のトライアンドエラーを重ねることとなった。


 唯一好都合だったのは、直也が夜中まで三不粘作りの練習をしていたことを、珠稀が咎めなかったことだ。


 いつもであれば、夜中まで起きていないで早く寝ろと怒られていたところだが、息子が好きな子のために一生懸命料理を頑張っているのを見て、その頑張りに絆されてしまったのだ。


 そのおかげでどうにか夜中の内に感覚を掴んだ直也は、ついに幻の三不粘を完成させた。


 深夜なので声は出さずに、何度もガッツポーズをする直也。


 直也は完成した三不粘に()()()()()()()()()()()()()()その日は床に就いた。


 チョコレートソースとラズベリーソースは、三不粘に比べれば作るのは簡単だ。明日の朝イチで作ればいい。そう考えていた。


 しかし、直也は理解していなかった。


 三不粘は冷めるとすぐに固くなって、()()()()()()()()()()ということを___。




__中編へ続く__

 幕間譚其之三前編、いかがでしたでしょうか?


 今回の幕間譚は、前後編で構成されています。


 これまでの幕間譚はどれも一話完結型だったのですが、今回は筆が乗ってしまい(スマホポチポチやってるだけなのに筆が乗るって表現変ですかね?)予想以上に長くなってしまったため、急遽前後編に分けることと相成りました。


 果たして、直也のバレンタイン計画は上手くいくのでしょうか?三不粘に込められた直也の愛は、鹿乃子に届くのか!?


 後編を待て! 

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