未練
「カレン?」
そろそろ地上に出てもいいだろうと考えていた朝の食事中のことである。
両手で持った、バターの香りが幸せなトーストを少々啄んで、心ここにあらずなカレン。声をかけるとハッとして微笑んでくれるのだが、ユーリもさすがにごまかされない。
「カレン、何か困りごと?」
「ごめんなさい。さすがに気にしないでって方が無理よね」
そう言って手のトーストを一旦置いてカップのコーンスープを一口飲んで笑う。今度は本当の笑みだ。
「……たいしたことじゃないのよ? 私なりに覚悟を決めてユーリと共にいくことを決めたのだから後悔はないの。ないのだけれど、一言挨拶くらいはしたい相手もいたってだけ。余裕なかったからね」
最後はちょっとだけユーリをからかうように言うカレン。
「……ゴメン。でも、帰ろうと思えばいつでも帰られるよ?」
「え?」
「“冒険者“の資格は返上したけど、グルガンさんたちが困るような事態になったら普通に助けたいしね」
ーーー転移部屋、進行阻害用トラップ。
ダンジョンマスターは自身のダンジョン内では無類の強さを発揮する。
但し、制約が幾つか存在する。そのうちの一つが、ダンジョンマスター及びダンジョンコアに辿りつけないようにはできない、というものだ。
簡単に言えば全方位を壁で覆って絶対防壁はできないということだ。
だが、それにも例外はある。それが転移部屋である。部屋から部屋へと転移して行き、正しいルートを選択しない限りマスター及びコア(ユーリの場合はネックレス)へと辿りつくことはできない。
だが、辿りつくことができる、という一点で完全にクローズドな空間を設置できるのだ。
但し、コアを台座にセットし、絶対位置を固定する必要がある(そうでないと、ユーリが動く度に迷宮領域がズレてしまうため)。
迷宮領域を自身から切り離して設置する際には、自身がその空間内にいない限り、解除や変更ができない。
切り離した空間分だけ、ユーリの周囲の迷宮領域が縮む。
割とデメリットも大きいのだが、一度訪れた地に設置するだけで以降瞬時の移動が可能とあればメリットもまた大きいのだ。
「私たちの拠点にしていた家の地下の隠し部屋に繋がってるんだけど、もしかしたら見張られてたりするかもしれないねぇ」
「……夜の方が都合がいいので、後で一度使わせてもらえますか?」
ユーリはわずかに悩み、頷いた。




