無人機と野菜。
あの滑走路から離れてから数日経った。
あれからただ、食べて歩いて寝て歩いて……。
そんな生活をずっと繰り返した。
そろそろ、普通のやつだったら気が狂うかもな。
そんなことを思い、あの街を抜け、明らかに景色が変わったころ。
「明らかに自立兵が多いな。」
ここら辺は確か大国と俺らの国の最前線だったはずだ。
だからか、そこらへんに薬莢が散らばり、ところどころ傷ついた自立兵が闊歩していた。
十歩歩けば遺体一つ。
二十歩歩けば機械の残骸一つ。
遺体を回収することすらかなわなかったのだろう。
俺はそんな人のいなくなった戦争の跡を見ながら自立兵をできる限り避けていた。
戦闘は疲れる。水分補給も後で必要だし、腹も減る。
ここは激戦地だったということもあってか、自立兵の数がいままでの二倍はいるだろう。
真っ向から戦えば、一体なら勝てても応援を呼ばれてそこらへんの死体と同じ道をたどる。
だからビルの影に身を隠してやり過ごし、とても狭いビルとビルの間の路地裏、ビルの中、いろんなところを通った。
だが、それもそろそろ限界らしい。
ビルから少しだけ頭を出し、路地に目を通す。
「あぁクソ。」
通るつもりだった路地裏にも自立兵が立っていた。今までに比べれば確かにこの先の路地は広い。
だからといって大通りに出れば自立兵だっているし、ビルの中には監視兵だっている。
下手な判断で動けばそこらへんの死体と同じ道だ。
路地裏を戻って迂回するか?
いや、これ以上迂回すると方角と道がわからなくなってくる。
地図でもあればな…。軍学校の座学で習った最低限の地理じゃ少し厳しい。
どうしたもんかと頭をかいていると、マンホールを見つけた。
結構よく見る人間一人ぐらいなら簡単に入れそうな大きさのマンホール。
……。いや、やめよう。改造されたとはいえ、人として大事なものが失われる気がする。大体、汚水が流されてた場所だぞ。臭くて鼻が曲がる。
だが、俺はほんの少しだけ確認してみた。
中にはほとんど水はなく、特段汚れた感じはなかった。おそらく、長い時間をかけて汚れが流されたんだろう。
そのうえかがめば歩けるぐらいの広さはあった。
暗い中を更に奥深くまで持っているライトで照らしてみる。
……。まぁ、路地裏に行くにしても大通りに行くにしても、下手に動けば意識とはおさらばかもしれない。
それに今更人として大切なものよりも命の方が大事だろう。こんな世界だ。尊厳なんて見る人間もいない。意味もないだろう。
俺は意を決してその中に入った。
その瞬間、鼻が曲がるかと思うほどの匂いが鼻に入る。臭いで済めばいいが、そんなんじゃない。入ったのを後悔し、死ぬのと同じじゃないかと感じれた。だが、それでも諦めなければならない。出れば死ぬからな。
どれくらい移動しただろうか。もはや嗅覚がなくなった感覚がした。鼻をつまみ、口呼吸を繰り返しながらほとんどまっすぐ、というか真っすぐにしか進まなかった。
いったいどれくらい進んだかに関しては景色もクソもないせいでわからない。
だが、もうそろそろいいだろう。感覚としてはだいぶ移動した。それに流石にこれ以上はきつい。
最寄りのマンホールを少しだけ押し上げ、ガコッという外れる音が聞こえ、ライトの光のみだった暗闇に外の光が入り込んだ。それと同時に、新鮮な空気がほんの少しだけ入り込んだ。
暗闇に目が慣れてしまったせいで目がちかちかする。
少しだけの隙間から周りを見渡すが、自立兵はいない。
さらには入る前のところよりもビルの背が低く、街の郊外と呼べるであろう所までには来ていた。
「こんなに外って明るくて、空気が住んでいたんだな。」
排水路から上がると、無意識にそうこぼれた。
もう日が沈み、ビルの陰にすこし隠れながらもこんな静かな世界を美しい橙色で照らしていた。
暗闇に目が慣れてしまったせいか周りがずいぶん輝いて見える。それに匂いも感じない。素晴らしい。
少し休んでから移動しよう。
目を慣れさせた方がいいだろうし嗅覚も戻って欲しいし、ずっとかがんでいた影響で腰が痛い。
なにより、こんな景色なんていつぶりだろうか。なんもない世界だからこそ、こういう景色だけでも大切にしたい。
「さぁ。そろそろ行こうか。」
そう誰かに話しかけるように立ち上がる。
目指す方向は変わらず。
大国だ。
俺はとりあえず大通りと見れるところへ少し顔を出した。
だが、その判断は大間違いだったようだ。
すぐそこに自立型二足戦車がいた。
さらにはその無機質な銃口がこちらに向けられた。
すぐさま、足の破損など気にせず、路地裏の奥へと走った。あいつはでかい。狭い路地裏には来れないはずだ。
だが、そんな希望は一瞬にして周りのビルとともに砕かれた。
敵機は手のライフルを持ち、その銃口から数多くの弾丸を送り出す。
そいつのライフルは俺の持っているものとは比べ物にならない程の銃声を辺りに響かせ、周囲の風を切り、周囲のビルや、地面へと大きな穴を開け、破片を周囲へと飛び散らせる。
「いッ!」
弾丸が目の前の地面を穿ち、穴を開けた。足の破損など気にせず走っていた俺にコンクリートの破片が飛び、皮膚や服を切り裂き、更にスピードのまま止まることができず、その穴へと転がり込んだ。
そのその瞬間をチャンスとし、敵機はその巨体からは想像できないスピードでこちらへと走った。
狭い路地裏の弾丸を受け、全体的に脆くなったビルはその巨体の突進に長くは耐えることができず、ほんの少し止める瞬間はあれど、結局は道を開けた。
もちろん俺だって黙って死ぬわけには行かない。立ち上がり、走り出そうとした。
「あぁ!」
さっき無茶言わせて走ったせいで足が悲鳴を上げ、さっき思い切り転がり込んだときの衝撃で破損する一歩手前まで追い込まれ、一時的な制限がかかってしまった。
クソ!
そんな中でもやつはこちらへと迫ってきていた。
こうなったら、やつを撃破するしかない。だが、そんな手段どこにある。
やつの地面を蹴る地響きと破壊されるビルの悲鳴を聞きながら、なにかないかと所持物を確認する。
なにか、なにかないか。
「あった!」
あったぞ。これを打開しうる兵器を!
だいぶ前から持っていた多用途グレネードランチャー。
一発の投擲物を装填し、打ち込む中折式のグレネードランチャーだ。
グレネードの内部に装填されているものを確認し、そいつに砲口を向けようとした。
そいつの手はもう目の前まで迫っていて、無情にも俺の体は自由が効かなくなった。
機械の冷たい金属に全身が浸かり、全身に悪寒と衝撃が走った。
だが、不思議とその握る手は握りつぶすような暴力的な力ではなかった。むしろ、握りつぶさないように柔らかく握っているようにまで感じた。
「捕虜……ほ」
そいつは、スピーカーがイカれたのか知らないが、ザラザラとした発音を発した。
「なんだか知らんが、捕虜なんて今更意味はねぇよ!」
聞こえるわけでもないそいつへと叫び、手に持ったグレネードランチャーの砲口をそいつの頭部へと向け、引き金を引いた。
至近距離で放たれたそれは、特段、何かが起こったようには見えなかった。
だが、そいつの手からスルッと俺は落とされた。
俺が放ったのは電磁弾。
正常な電気の流れを阻害する特殊な波を起こす物だと聞いた。そんなものを行動処理をしている頭部へと至近距離でやつは食らったんだ。
あぁくそ。至近距離で撃ったせいで俺にも影響が出て、全身の強化部が特にまともに動かない。
だが、大量の電気が体に流れているわけでもない俺ですらまともに動けないんだ。眼の前の電気の流れる鋼鉄の化け物は俺を落としたあと、その巨体は大地へ倒れ込んだ。
はは。ざまぁみろ。
そう思い、立ち上がろうとするが、足持ても動かない。もう一度試みるが、結果は変わらなかった。制限も、電気妨害もかなり俺に効いているらしい。
ほんの少し休もう。さっきの音で自立兵が来るだろうが、すぐには来ないはずだ。簡単に二脚はやられはしないからこいつは一人だったはずだ。
すこし休み、制限が解除され、多少歩ける程度になった頃に、修復をもっとするために少しでも安全な近くのビルに入った。
一旦、入り口の右の死角に座り込んだ。
もちろん銃は横に起き、グリップに手をかけておく。
「ふぅ。」
至近距離での電気妨害、足への破損寸前の負荷。
老技師の世話になったあのときに比べればある程度の修復が行われる分マシだろう。
そう納得させ、破損が修繕され、多少力を出しても大丈になるまでその場にとどまった。
ある程度修復が完了すると、オフィスがあると思うビルの二階に上がった。
あの用水路を一直線に進んだはずだが、若干のカーブもあったように見えた。一応位置を確認しておきたい。
予想通り、二階にはパソコンが多数置いてあった。
「さぁここに予備電源は……。」
あることを祈り、電源ボタンを押した。
本当に運のいいことにモニターに画面が出力された。
ラッキーだ。
俺は予備電源がもったいないので急いでここはどこなのか確認する。
最後に衛星からのGPS受信したのが残っているはずだ。
それを確認すると、少しズレて入るが概ね一直線に行っていたらしい。
それならいい。
そこで俺はふとあのUSBのことを思い出した。
取り出して挿してみようかとしたが、差込口がなかった。
残念。まぁ、古い規格だし、情報機密を大事にする場所じゃない限りないよなと思い、USBをしまう。
すると画面が急に暗転し、電源が切れていた。
予備電力が切れて強制的に電源が落とされたのか?
それに少し罪悪感を感じてしまった。まぁ、使うやつもいねぇか。
あのビルから出て少し歩いた。
そして郊外のこの町がわかってきた。
ここは珍しく農業が主な産業らしい。
技術が発展したので合成肉や合成野菜などが簡単に作れるようになった。
それが主食となっていたわけだが、ここはそんな中で野菜を作っていたらしい。
まぁ実際金持ちなんかは生野菜は高級食材として食べていたわけだし。
昔のエネルギーだが石油を売るみたいなものだろう。
なんでこんなことがわかるかというとその農業工場にいるからだ。
どうやら栽培していたのはニンジン、キャベツと言われる食材らしい。
どれもいわゆる超高級食材だ。キャビアとかの絶滅寸前の生物から取るやつには及ばないがな。
全部土で作るっていた食材だと聞いたことがあるが、明らかに土じゃない。
おそらく生ごみなんかを特殊分解させた後だろう。
技術ってすごいな。俺も少し技術はかじったんだが…。
まだ野菜は成長中、というか植えられたままらしく、ところどころに緑色が見えた。
せっかくの高級食材だ。
放射線がどうとか思うが、それなりに密閉されている分、いつもの食事よりも安全だろう。
それに今更だ。こんな誰もいない世界。
ガラスを開け、中のニンジンを引っ張ってみる。
スポッと抜けて小さなオレンジ色の実が出てきた。
案外食べられるかもしれない。
他のニンジンを引っこ抜いてみるが、すべて色は正常。
大丈夫そうだ。
キャベツは外から見れるが、ところどころ腐っていた。
だが、あまり腐っていない個体もあったので食べられるかもしれない。
おそらく生ものなので外に出せばだめになるのではとは思うがここですぐに食べればいい。
ちょうどいいご飯だ。節約にもなるだろう。
まずはニンジンを一口かじる。
カリッという音が聞こえ、口に甘みが広がった。
「甘ッ!」
さすが金持ち向け。
初めて食べた生野菜ということもあるかもだが、かなり甘い。
合成野菜なんかとは比べ物にならないほど甘みが凝縮された感じがあって、おいしい。これが本当の野生の甘みというやつなのかもしれない。合成野菜の糖分を加えただけの甘さとは全く違う。少し硬く、土臭さまでも感じる部分も食べたことのない生野菜というものを食べるという実感を感じさせて美味しく感じた。
次はキャベツを食べてみた。
慎重に腐っていないものを探して選んだ。
ゆっくりと葉っぱを噛むとシャキッという音が聞こえ、口の中に何とも言えないみずみずしいおいしさが広がった。合成野菜はこんなみずみずしさではなく、水を飲んでいる気がするが、これはドレッシングなんかもかけずに確かな甘みと水を飲んでいるわけではない、本当のみずみずしいと言うのを実感できた。
久しぶりに美味しいものを食べれた、今日はなんて良い日だ。
毎日こうだといいだけどな。
読んでくださりありがとうございます。今後も読んでくださるとうれしいです。なんか最近表現が退化しているような気もしなくはない……。できる限り頑張ります。評価等お願いします。




