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家の内側、女中の気配が変わるころ  作者: てきてき@tekiteki


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15/21

第15話 守るという覚悟

ーー玄関先。


女中は静かに戸を開けた。


「お待たせいたしました」


そこには、亭主の仕事仲間が二人立っていた。

昨日、座敷で酒を飲み交わしていた男たちである。


「ああ、旦那さんは?」


「本日は町へ出ております」


男たちは顔を見合わせた。


「そうか」


「急ぎの話でもないんだがな」


そう言いながらも、帰る様子はない。

一人の男が、女中をじろりと眺める。


「いやぁ……近くで見ると、本当に別嬪さんだ」


女中は視線を落とした。


「恐れ入ります」


「はは、照れてる」


もう一人も笑う。


「旦那が家に置いておきたがる気持ちも分かる」


その言葉に、女中の胸がわずかにざわついた。


「申し訳ございません。

旦那様へ何かお伝えいたしましょうか」


男は首を振る。


「いやいや」


「せっかくだ」


「冷たい茶でもいただけないか」


女中は一瞬だけ迷った。


亭主がいない家へ客を上げるべきか。

しかし相手は、主人の仕事相手である。

追い返すこともできない。


「少々、お待ちくださいませ」


女中は奥へ下がった。


--台所。


「奥様」


妻は振り返る。


「どうしたの」


「旦那様のお仕事先の方が、お二人」


妻は少し考え込む。


「主人は留守だと伝えたのね」


「はい」


「それでも、お茶だけでも、と」


妻は静かに息を吐いた。


断れば角が立つ。

迎え入れれば落ち着かない。

どちらを選んでも気が重い。


「……応接間へお通ししましょう」


「私もすぐ参ります」


「はい」


--応接間。


男たちは部屋を見回していた。


「相変わらず立派な家だ」


「旦那は羽振りがいいな」


そこへ女中が盆を運んでくる。


冷えた麦茶。

菓子皿。

一つ一つ丁寧に並べていく。


男たちの視線が、その手元を追っていた。


「ありがとう」


「失礼いたします」


下がろうとした時だった。


「おいおい」


男が笑いながら声を掛ける。


「そんな急いで帰らなくてもいいじゃないか」


女中は足を止める。


「まだ何か」


「いや」


「少し話でも」


「旦那は普段、家ではどんな様子なんだ」


女中は戸惑った。


「旦那様……ですか」


「怒ったりするのか?」


「お優しい方でございます」


「やっぱりな」


男たちは笑い合う。


「だから、お前さんも懐いてるんだろ」


その一言に、女中の表情が曇った。

昨日、妻から言われた言葉が頭をよぎる。


――男は、そういうものを見逃さない。


女中はゆっくり頭を下げた。


「申し訳ございません……」

「私には、そのようなお話は……」


そう言って下がろうとした、その時。


「失礼いたします」


妻が部屋へ入ってきた。

穏やかな笑みを浮かべている。


「主人が留守で申し訳ございません」


男たちは慌てて姿勢を正した。


「ああ、奥様」


「急ぎじゃないんですよ」


「近くまで来たものですから」


妻は静かに頷く。


「それでは、お帰りになりましたら、

そのように伝えておきます」


男たちは顔を見合わせる。

遠回しな言葉だった。


「長居はご遠慮ください」


そう言われているのと変わらない。


「いや、そういうことなら」


「今日は失礼しましょう」


立ち上がる二人。


しかし帰り際、一人の男が笑いながら言った。


「旦那も苦労するな」


「こんな綺麗な娘が家にいたら、

客が寄ってきて仕方ない」


妻は微笑んだまま答える。


「ええ……」

「ですから、この家の者は私が守ります」


柔らかな声。


だが、その場の空気は一瞬で張り詰めた。

男たちは苦笑しながら玄関を後にする。


戸が閉まる。

静寂が戻る。


妻はしばらく玄関を見つめたまま立っていた。


やがて女中へ振り返る。


「……大丈夫だった?」


女中は深く頭を下げる。


「はい」


「ですが……」

「少し、怖うございました」


妻は静かに女中の肩へ手を置く。


「それでいいの」

「怖いと思えるうちは、自分を守れる」


女中は顔を上げた。


「もし、私が留守で、主人もいない時に同じことがあったら」


妻は真っすぐ女中を見つめる。


「理由は考えなくていい」

「応接間へも通さなくていい」

「『主人がおりませんので』

――それだけ言って戸を閉めなさい」


女中は少し驚いた表情を浮かべる。


「失礼には……」


「構わない」


妻は静かに言い切った。


「家を守ることの方が、大切だから」


その言葉を聞いた女中は、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


叱られているのではない、守られているのだ。


そう、初めてはっきりと理解したのである。

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