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 プシュッ、とプルタブを開ける音がした。

 

 アルコールの摂取をやめれば生存率は高まる。それを理解していても、酒を手放せないのが依存症というものらしい。


 「ビールってそんな美味しいんですか」


 CMのようなぐびぐびという音はしないのだな、と考えながら水野は訊いた。

 

 「んー、昔は美味しいと思ってたんだけど、今は違う。生きるために飲んでるだけ」


 「酒を飲むせいで死にそうになってるんじゃ?」


 「アル中はさ、飲まないと死んじゃうんだよ。それこそ自殺衝動に駆られることもある。でも飲んでも死んじゃうんだ。面白いよね、なんか」

 

 何が面白いのか分からないが、悲惨な運命だということは理解できる。


 「薫くんはさあ、こんな私を見てもまだ死にたいって思うわけ?」


 「僕の考えは変わりません。香坂さんが僕の生死に興味ないって言ったみたいに、僕も香坂さんがどうなろうが関係ないですから」


 「うわ、ひどっ。お姉さん傷ついた。女の子にそういうこと言っちゃダメなんだ」


 先に言ったのは自分のくせに、まるで突然水野が暴言を吐いたかのように被害者面をしてくる。


 「まあいいや。そろそろ体の具合はよくなった?」


 「あ、はい。もう大丈夫です」


 睡眠薬が一錠であんなに効くとは思わなかった。飲んだ結果死ぬのではなく、アラサーのアル中女性の部屋で寝かせてもらうことになるなんて、予想外だ。


 「あの、鞄返してもらえますか」


 香坂は三角座りになり、水野の学生鞄を足の間に挟んでいる。相手が十歳近く年上とはいえ、そんなところに手を伸ばすわけにもいかない。


 「いいよ、はい。返す」


 返ってきた鞄は、異様に軽くなっていた。おかしいと思いひっくり返すと、中には財布と筆記用具しか入っていなかった。水野が用意した自殺用品がすべて抜き取られている。


 「香坂さん、中身も全部返してください」


 「んー、ダメ」


 「窃盗ですよ」


 「言ったでしょ。君にはまだ、死ぬことへの本気度を感じない。マジだって私に思わせたら返してあげる。だからさ…」


 香坂は酒と煙草の臭いが混ざった口臭を発しながら、囁いた。

 

 「死ぬまで私に付き合ってもらうよ」


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