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「今、死ぬと聞こえたのだけど」
読んでいた文庫本から顔を上げ、クラスメイトの本田真子が言った。
「私の聞き間違いならごめんなさい。水野君って別に死にたがりのキャラじゃないし、そんな事言うはずないか」
死にたがりのキャラとは一体なんだろう。少なくともこのクラスに、そんな後ろ向きな人間がいるとは記憶していない。水野の自殺願望はあくまでなんとなく、というだけで、死にたいオーラみたいなものを出しているつもりはなかった。
「朝から変なこと言って、気分悪くさせちゃったかも。今のなし、忘れて」
「まあ、言ったけど」
死にたいとは言っていないが、死に方を選ぶという物騒な言葉は口にした。むしろそっちのほうが、漠然とした自殺願望よりも具体性がある分、より危険な感じはする。
本田は本を閉じた。表紙の挿絵には、暗い森の中に佇む洋館が描かれている。
「やっぱり言ってたんだ。水野君、なにか悩みでもあるの。あっ、言わなくてもいい。言いにくいならとかじゃなくて、今のは社交辞令で聞いただけ。水野君の悩みには毛ほどの興味もない。私が聞きたいのは、死にたいって気持ちが本当かどうか」
あまり会話を交わしたことがない相手に、よくもそんなことが言えるものだ。本田は普段からあまり人と関わるタイプではなく、授業中以外は読書に没頭していることが多い。表紙を見る限り、サスペンス系の小説なのだろう。閉ざされた空間で、人が一人、また一人と消えていく、ベタすぎて書き手の実力が試されるような作品だ。
「どうなの。答えて。死にたいの」
「自殺願望は…まあ、あるかな」
願望どころか、本来なら昨日の時点で実行されていたはずだ。香坂の邪魔さえ入らなければ、今頃水野はこの世にいなかった。睡眠薬の過剰摂取により、安らかに墓地で眠っていたのだ。
「それはよくSNSにいるような、病んだフリしてるだけの構ってちゃんではなくて、本当に死にたいほうのやつ?」
なぜそこまで執拗に確認するのだろう。意図の読めない質問をしてくる本田は、とても気味が悪かった。香坂に感じた得体の知れなさはとはまた別の、形容しがたい違和感が襲ってくる。




