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「本気のつもりではあるけど」
「つもり?」
「いや、本気で死ぬ。死にたい」
本気を感じない、と香坂に言われたことを思い出して、一瞬口ごもってしまった。
本田は勝手に水野の机と自分の机を引っ付けて、さらに前の席の机も勝手に動かし、一つの大きな机にした。小学校で給食を食べる時、こんな風に机を合体させていたっけ。
面積が四倍になった机の上に、本田はミステリー小説を一冊、また一冊と並べていく。鞄の中に一体何冊入っているのだろう。次々と取りだされる文庫本は、どれ一つとして平和そうな話はなかった。一冊くらい、人の死ななそうな物語があってもいいものだが。
ようやく鞄の中身を出し終えたかと思うと、次は机の中をガサゴソとし始め、また新しい小説が出てきた。数分後、机の上は、びっしりとマーダーミステリーで埋め尽くされた。
「どれがいい?」
「な、なにが?」
「死にたいんでしょう。どの死に方がいい?」
言っている意味がまるで分からないので、水野は何も言えずに黙った。本田は答えを急かすわけではなく、ただ水野が答えるのを待っているが、いくら待ってもらっても質問の意図が分からないのでは意味がない。
「えっと、本田さん。もう少し分かりやすく説明してくれると助かるんだけど」
「まさか全ての物語のあらすじと殺人トリックを、朝礼までの残り三分で説明しろと?なかなか無茶な事を言う人ね」
「そうじゃなくて、質問の意図が分からない。どの死に方がいいって、どういうこと」
「なんだそっちか」
本田は拍子抜けしたというふうに、息を吐いた。
「私、こう見えても人が死ぬ物語が好きで好きでたまらなくて…」
見た目は文学少女といった風貌なので驚きはないが、好んで読んでいる内容が総じてマーダーミステリーとは、確かに思わなかった。てっきり純文学だとばかり。
「物語の中にはいろんな殺し方があるの。どれもこれも、想像しただけでワクワクするものばかり。でも実際に試せるチャンスがなくて」
チャンスが巡ってきていれば、今ここに本田はいないだろう。まさか同じクラスにこんな危険思想の持ち主がいるとは。
これ以上話していると危険そうなので「ちょっとトイレ」と言って水野は席を立った。どうせ隣の席なので一時的な避難にしかならないが、朝礼開始までの時間は稼げそうだ。
「トイレなら後で行けばいいから、今は話を聞いて」
立ち上がりかけた水野の腕を掴む力は、女子にしては強かった。運動部ならまだしも、いかにも文科系といった見た目の本田から出ているとは思えない力だ。
「死にたいんでしょ?私は殺したい。利害が一致しているじゃない?」




