98.Things Suddenly Rotate シングス・サドゥンリー・ローテート
シュラはちょうど持っていた魔石を有効活用し、聴衆たちをどうにかなだめようとする。
「お、落ち着いてくれ! 下手に動くと皆様の身が危ないよ!」
「やっぱりただの観光程度じゃすまなかったか……!」
その後ろ――舞台裏に待機していた十殺の面々は、念のためにいた理由が実現したことを内心喜びながら、飛び出し、
「十殺の皆様! 気をつけてください、どうやら、相手方はかなりこの場に賭けていらっしゃるようですよ……」
ネロアとシュラと共に、この舞台を取り囲む、フェルトハットにロングコートという禁酒法時代のマフィア風に統一した敵対者数百人を見渡す。
ネロアは周囲の出方に気を配りつつ、シュラへ尋ねる。
「シュラさん、この方は一体何者でしょうか? この高圧的な風体からして、ヨヤアサの方々らしくないですが……」
シュラはあることを思い出し、苦笑いをしつつ答える。
「……さぁね。どっちにしろ、こんなことしてくる奴らなんか、どこの誰だって関係ないよ」
シュラは胸ポケットにしまっていたペンを【ペンは剣よりも強し】でレイピアに変形させ、その切っ先を手始めに正面に向け、
「【モンスターコール:ビートル4】」
穿ち抜くことに特化して進化したカブトムシ【トランセンドビートル】を、十数匹召喚、そして即突撃させ、その倍量の刺客を撃ち抜き倒す。
そしてシュラは、まだ持っていた魔石を通して叫ぶ。
「くどいようだが言わせてもらう! ここにはボクと、トードイスムカの勇者様御一行がいる! だからただ今より、我々はその才を一切の妥協無く用い、君たちにロジスティクス神戦の勝利の予兆をお見せしよう!」
「というわけで、僕たちも参りますよ、皆様!」
ネロアは十殺の各々の了承の声を聞いた後、彼らやシュラとともに舞台を飛び降り、聴衆たちを守りつつ、迫ってきた刺客たちに立ち向かっていく。
刺客たちは数の利を活かしてネロアたちに挑むが、それは相手が死国の強者上位層であるという質の利を超えることは出来ず、結果、彼女たちの大暴れに消滅エフェクトという名の紙吹雪を添えるくらいにしかならなかった。
それでも彼らは怯まず、一心不乱にネロアたちへ襲いかかり続けた。
――この後に控えている、自分たちの統率者の約束のために。
刺客たちの数が半減してきたところで、突然、あちこちからガサガサと、何かが木々を通り過ぎる音がした。
当然のごとく、ネロアとシュラたちは新たな敵勢を予想し、戦闘を続けつつ、その心構えをする。
そして、その異音の正体は、字都に普遍的に存在する大木の上から飛来した。
大型バイクほどの体長を誇るバッタに跨る、オーソドックスな騎士姿をしたプレイヤーたちである。
その先頭にいる、一際重厚な鎧に身を包み、螺旋上のランスを携えた、中世の騎士道物語から飛び出してきたような青年は叫んだ。
「我輩は『ブラゼファ=サルヴァンデス=ストラグラー』! 我らが『父上』の盟約に従い! ここに参った!」
ブラゼファと名乗ったプレイヤーは、得物のランスをネロアに合わせ、さらに勢いづけて落下する。
ネロアはワイヤー付き剣を遠くの建物に引っ掛け、そちらへ跳んで逃げる。
その数秒後、ブラゼファの刺突が、まるでここにあった大木を一本引き抜いた後のように、地面をえぐった。
「逃さんぞ、この我らが美しきヨヤアサを無益な戦で汚さんとする悪魔めが!」
ブラゼファはバッタを細密に操り、再びネロアめがけ突撃する。
「これ以上好き勝手にはさせんぞ、この時代錯誤の騎士様が! この俺の鉄壁の守りで逆にその槍へし折ってやる!」
その途中、十殺の一人である、大鎧を纏う巨漢――闘技場ランキング十位、ゴーレミー・マスクドギガスが、見かけに反して俊敏な動きで、その進路を遮断するように、両手の盾を鋼鉄の壁のように構えて立つ。
するとブラゼファは空いた左手の人差し指をゴーレミーに合わせて円を描く。
「【シルフ・ファンタスティック】」
その瞬間、ゴーレミーはいつのまにかブラゼファに背中を向けていた。
「あ、あれ!? 何で俺は後ろを……おぎゃわぁぁぁッ!?」
そしてゴーレミーは、特段硬くもない背中に、ブラゼファの強烈な刺突を受けて消滅した。
「背後を突いたとは言え、あのゴーレミー殿を一撃で……!」
ネロアはブラゼファの剛力の凄まじさを目撃し、再び別の建物へワイヤー付き剣を使って飛び移る。
ブラゼファは再びバッタに方向転換させ、引き続きネロアを狙い続ける。
その横から、バギーサイズの骸骨竜が、ブラゼファが駆るバッタに体当たりを食らわせる。
「古典騎士さんよぉ! ネロアばっか追っかけてないで俺様と遊ぼうぜぇ!」
と、骸骨竜の乗り手である男――十殺のランキング八位、レブラト・シクボーンが、ショットガンの口を見せつつ陽気に声をかけてきた。
「ここは戦場であるぞ! 遊びだとかこつける輩などには用はない!」
ブラゼファはお返しにランスを軽々と天へ掲げ
「【ナイト・オブ・スマッシャー】!」
思いきりレブラトの脳天へ振りかざし、下の骸骨竜もろともHPをゼロにした。
改めてブラゼファは、ネロアの向かう先へと突撃し続ける。
すると今度は、彼の周囲を回りながらナイフを投げつけるプレイヤーが。
彼の名前はクリム・クイックスロー。十殺のランキング九位の実力者である。
クリムのナイフは的確に、ブラゼファが跨るバッタの足に命中し、ダメージを積み重ねていく。
そしてバッタは疾走の最中に体勢を崩し、その身を地面に叩きつける。
さらにクリムはダメ押しでナイフを投げまくり、バッタを撃破した。
「うっしゃ! 騎士の足が死んだぜ!」
「ぐぬぬ……まさしくその通りだ。騎士は馬にまたがってこそ騎士であるのに……」
と、ブラゼファはしっかりへこみながらしっかり自分の足で地面に立ち、そして自分の周りをちょこまかと跳び回るクリムに、ランスの先端を合わせて、
「故にその侮辱の責任を取れ! 【ガスト・カノン】!」
突風のような空気の塊の砲弾を、見事にクリムの頭に命中させ、彼をバッタと同じ場所へ送りつけた。
「まぁ、【モトホッパー】が無かろうが、どうにかするのが騎士の責務でもあるがな……【キャバリアー・オブ・アサルト】!」
ブラゼファはネロアが跳び移る方へランスを構えて、先程のバッタと遜色ない速度をもって、そちらへ突撃する。
「今度こそ腹をくくるのだ! 無益な死は己の国だけでとどめよ、この死神がぁ!」
「どうやらここは僕自らがやるしかないようですね……」
ネロアは言われた通り覚悟を決め、迫りくる彼と向きあい、「【蒙昧罪の断】!」闇属性を帯びる強烈な一太刀を、ブラゼファのランスにぶつける。
そこで二人は得物越しに力比べを始め、拮抗する。
この拮抗を打ち破るべく、ブラゼファはランスを持つ右手の人差し指を伸ばし、円を描く。
「【シルフ・ファンタスティック】!」
すると、ブラゼファの螺旋状のランスが、文字通りドリルのように高速回転し、ネロアの剣を弾き飛ばした。
ネロアは紙一重でローリングで回避する。
そしてワイヤーを引っ張り剣を素早く回収し、すぐさま遠くの建物へ投げつけ、そちらへ跳躍した。
「逃さんぞ! 【キャバリアー・オブ・アサルト】!」
ブラゼファもそちらへ、ランスを突き出し勇猛に駆ける。
「待てい其処許! この死国闘技場ランキング六位、ミナミノ・ヴィレジンがお主の相手だ!」
「いいや、あんなの七位のアタシで十分さ! このドナ・ロストブリンガー様でね!」
途中、重鎧のサムライとローマの剣闘士風のプレイヤーが立ちはだかったが、ブラゼファはあっさりと二人を跳ね飛ばして殺し、ネロアとの距離をぐんぐん詰める。
「くっ、十殺がもう五人もやられるなんて……これはもう迂闊にヒットアンドアウェイしてはいけませんね!」
これ以上あのブラゼファに味方は殺らせない。 その心意気でネロアは、彼の前に堂々と立ち、剣を構えた。
しかしその時、彼女の右斜前で、
「お前もヨヤアサに戦争を持ち込もうとする裏切り者だな、覚悟しろ!」
「ヒィィィィ、俺別にあんま関係ないのにぃぃ! やっぱ野次馬ってよくないなぁぁぁ!」
明らかに戦闘能力のなさそうな、逃げ遅れた演説の聴衆の一人が、刺客の一人に斧を突きつけられていた。
「やめなさい!」
ネロアはその刺客めがけ、剣を投げつける。刺客は運良くそれを弾き返し、ネロアを睨みつけた。
「おいこら、よくも俺の邪魔をしやが……」
その僅か数秒後、ブラゼファのランスで一閃されて消滅した。
「……そこの君、戦いを望まぬならさっさと逃げたまえ。我輩には無関係の民草を傷つける盟約はない」
「は、はい……」
そして聴衆は、ブラゼファにうながされて、そそくさと逃げ出した。
「……だが一方、我輩には戦いを望む化神官を捕らえる盟約があるのだ!」
刹那、ブラゼファは改めてネロアへ突撃した。
「相解った! だが、僕はそう容易く捕われはしない!」
ネロアは剣を構え直し、ブラゼファの初撃に備える。
そんな彼女へ、ブラゼファは指を回す。
「【シルフ・ファンタスティック】!」
直後、ネロアは突然一八〇度回り、ブラゼファに背を向ける。
「その妙技、既に見切った! 【万死の薙】!」
だがネロアは、すぐに自力で半回転しつつ、間近に迫ったブラゼファめがけて闇の剣を横一文字に払う。
この一撃により、ブラゼファのランスの刺突を強引に曲げ、彼に自分から見て右の虚空を突かせるのだった。
「【シルフ・ファンタスティック】!」
ところが、ブラゼファは自分自身を二七〇度回転させ、再度ネロアに突きを繰り出してくる。
これをネロアは身体を反らす。
彼女は、凄まじい勢いで、螺旋が自分の視界の下から上へ通り過ぎるのを間近で見た。
その最後に、彼女はランスの護拳に、空色のサソリが張り付いているのを見た。
そして彼女は目を閉じて、仰向けに倒れた。サソリに刺され、状態異常【睡眠】に陥ったのである。
「【クロロホルムスコーピオン】……姉上の保有種は相変わらず我輩の道に合わぬが、此度は盟約がある故、赦してほしい」
直後、ブラゼファと同じタイミングで襲撃をしてきた兵士の一人が、彼の元へ訪れる。
「ブラゼファ殿! このモトホッパーを使いください!」
「感謝するぞその献身! 後で我が君から勲章をねだるのだ!」
ブラゼファはまず睡眠中のネロアをバッタに乗せる。
その瞬間、シュラがネロアを助けるべく、彼の元へ駆けてくる。
「お、おい待ちたまえブラゼファ君! 君、ネロアをどうする気だ!」
「案ずるなシュラ殿! この死神の姫君は我らが丁重に預かっておく……ロジスティクス神戦の戦火が完全に消えるまで! ではさらば!」
「さらばなんかするものか! 【文神の執筆】!」
シュラはネロアの【睡眠】状態をなかったことにすべく、彼女めがけ斬撃波を放った。
「うぉぉぉ! どうかご無事で、ブラゼファ殿!」
だが、バッタを貸し出したプレイヤーが大の字になって身代わりになって止められた。
時同じく、ブラゼファとネロアが乗ったバッタは飛び上がり、瞬く間にこの場から逃げ果せた。
「おい見ろ! どうやらブラゼファ様が盟約を果たしたようだ!」
「ではもうこれ以上字都を荒らす必要はないな!」
「我々も直ちに逃げるぞ!」
ブラゼファが字都から撤退したのを見て、刺客たちも戦闘を切り上げ撤退を始める。
「そんな卑怯なことなどさせるものか!」
と、シュラは、普段は優雅に振る舞っている彼にしては珍しく肉声をあげた。
シュラは、血眼になりながら目に入る敵勢をことごとく斬り捨てていく。
残された五人の十殺たちも、シュラと同じように怒り任せに刺客たちを撃破する。
こうして刺客たちの八割は、無惨にも撤退叶わず字都の集会場で消滅していった。
戦闘を終え、冷静さを取り戻したシュラたちは、もう一度ネロアが連れ去られた事実を噛み締め、深い深い後悔の念に押しつぶされるのだった。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ゴーレミー・マスクドギガス】
分類:プレイヤー
所属:死国トードイスムカ
レベル:60
ジョブ:【重装士】
十殺No.10のプレイヤー。
トードイスムカの【重装士】は当然のごとく物理防御力と、次いで物理攻撃力が伸びやすく、このステータスを活かした破壊力に優れた突進技を覚えやすい。
彼は素早さを向上させるアクセサリーを、鎧の中にびっしりと装備し、強引に身軽になって相手より先回りしやすいようにしている。
ちなみに彼は、かつての調和の砦の侵攻戦で、ノルガードの刀でスパスパ斬られてたギルドのマスターである。
【レブラト・シクボーン】
分類:プレイヤー
所属:死国トードイスムカ
レベル:67
ジョブ:【竜騎士】
十殺No.8のプレイヤー。
トードイスムカの【竜騎士】は陸戦に強い竜を飼いならし、地上を駆け回って目に入る敵を銃器でガムシャラに倒すプレイが推奨される。
彼は【スケルトンドラゴン】という、重量が軽いため小回りが効く、かつ、竜なので馬力が出る竜を飼いならしている。
【クリム・クイックスロー】
分類:プレイヤー
所属:死国トードイスムカ
レベル:62
ジョブ:【暗殺者】
十殺No.9のプレイヤー。
トードイスムカの【暗殺者】は、急所へのダメージの倍率を高めることができるパッシブスキルを覚えることなどを筆頭に、とにかく奇襲に特化している。
彼は投げナイフを乱発して細かいダメージ刻みと牽制をした後、一気に急所を狙う戦法を得意とする。




