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ロジスティクス・サーガ ――死せる神と、外道の正義――  作者: 都P
CHAPTER8 化神官たちのパラべラム
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94.武と知、そして漂白。

 防音の城、城内にて。


「野郎どもかかれッ! 【リヴァーバレーション・インパルス】!」

 ルネックはヴァイス軍とスベラゼルカ軍の区別もせず、ビビッドブルーのオーラを纏うハンマー二本を手当たり振りかざし、周囲へふっ飛ばす。


 ふっ飛ばされた者たちは、次々と身体から衝撃波を放ち、周囲の者を巻き込んでダメージを受ける。


 殴った相手から、好きなタイミングで衝撃波を発生させ、他者も巻き添えにする――これが【RB(リヴァーバレーション)・インパルス】の恐ろしい所である。


「【ライフ・コール5】!」


 ヴァイスは素早く、負傷した味方を回復させ、


「皆、傷ついた敵を討て! 【砲導の拳】!」

「本当に余裕があればルネックへ攻撃をお願いします……【マリンブルー・ビーム】!」


 ゲイルリンドとオルディッツたちが手負いの敵を完全に潰していく。

 さらに、一部の余裕があるプレイヤーがルネックへ技を放った。


「変に盛り返そうとするなっての……野郎共、身体借りるぞ!」


 ルネックは近場に倒れていた瀕死の味方を蹴り上げて身代わりにし、自分への被害は最小限のダメージで済ませる。


「ユーキナミト、やれ!」


「はいよ、ルネック! 【ワイバーン・アロー】、五十連!」


 特設の高台に立つユーキナミトが、飛竜が飛ぶが如き矢を五十本、ヴァイス達に撃つ。


「ヴァイス様! ここで私たちに挽回させてください!」

 ヴァイスの回復を受け、戦闘に舞い戻った者達は、迫り来る矢に各々得意技を打ち、相殺する。


「おぉ、今度はゲイルリンドでもオルディッツでもない奴らが止めたか……ますますロジスティクス・サーガ最強のスナイパーの意地の張り甲斐があるってもんだ!」

 と、気炎を吐くユーキナミトは、次の矢を弓に掛ける。


「そんなくだらない意地、俺のために張るな!」

 その時、高台の鉄骨が大きな音を出して折れる――ルネックが叩きつけたハンマーによって。


「ッ!? ルネック! お前、一体何をしや……」

 櫓は倒壊し、粉塵と瓦礫が舞い散る。それが止まると同時に、ルネックは踏みつけたユーキナミトの脳天に鉄槌を下し、HPをゼロにしていた。


 このルネックの理解しがたい凶行に、ミレア軍は絶句し、

「ルネック……あなた、ユーキナミトを倒す必要はありましたか?」

 本来ならば特に考えず喜ぶべきことを、ヴァイスは逆に心配になり、実行犯に質問する。


「それがルーベルグさんの王道を断った奴の質問か……くだらない!

 くだらない奴が仲間であればあるほど、結束は腐る! だから俺はそういう奴らを抹消し、結束をチューニングする! これが俺の正義で、俺がエホシャドチグパの化神官になるための正道だ!」


「仲間を我欲で傷つけるのが正義とは、傲慢にもほどがありますよ……」


 ルネックは雷鳴のように叫び、ヴァイスに指摘する。

「お前が言うな、ヴァイスッ! 忘れたとは言わせないぞ、お前のかつての覇権は、同じ国の人間を奴隷や爆弾にしてたどり着いた物だとなっ!」


 稲妻を受けたように、ヴァイスは何一つ言動しなくなる。

 ルネックはヴァイスの傍にいるオルディッツとゲイルリンドを一瞥し、さらに彼を叱責する。


「俺は知っているぞ!オルディッツもゲイルリンドもそうだろう……ヘブンズレイドの最中、ネロアとの戦闘で二人を爆弾に変えたんだろう!

 自分と同じ【五造】の称号を冠する仲間を、三年前にルーベルグを倒した同志を、何の罪悪感も無く! だからヴァイス、俺とお前は一緒だ……俺を否定するってことは、お前はそれ以上のカスだと認めることなんだぞ……なぁ、どう思うんだヴァイス!」


 ヴァイスは即答する。

「オルディッツ、ゲイルリンド……言ってあげなさい」


 まず先に、オルディッツより、

「はい。ルーベルグ、あなたは大きな誤解をしています。一つ、ヴァイス様は信賞必罰と大義達成を重んじる人……ただ私憤に任せて仲間を使い捨てる人だけではありません。

 思慮の元に犠牲を生み、恩義の元に褒賞を与え、そしてそれらを元にミレアの繁栄を齎したのです!」


 続けてゲイルリンド、

「貴様の言う通り、ヴァイス様は外道な行為をしたかもしれない、我々を弾として使う不義理をしたかもしれない。だが私とオルディッツ、そして周囲にいる者たちはヴァイス様を信じている! ヴァイス様は先の過ちを反省し、ミレアを正しく導くと!」


 さらにオルディッツは言葉を重ねる。

「私達個人に恩があるというのもありますが、ヴァイス様は過去の罪状を加味してでも、仕え支える価値があるのです……その本質を理解した上で、あなたはヴァイス様を批判しているのですか?」


 そしてゲイルリンドはルネックに告げる。

「そもそも貴様はここに立つべき器でも、化神官を目指す器でもない。俺は身分上、お前の目指す先と同格の者たちを見てきた。

 ある者は、覇道を掲げ大命を叶えようと必死に努力した。

 ある者は、恐怖をものともせず、数多の死線を越えて頭角を表した。

 そしてある者は、ひたすら厄災と呼ばれるほどの力を求めつづけ、最強と化した。

 だが貴様には何がある! 貴様には、仲間を無意義にすり潰す残虐さと傲慢さしか素質がないように見えるが……どうなんだ、ルネック!」


「……何だよこの理屈並べとヴァイス賛美……クッソうるせぇんだよぉッ!」


 最後に、ヴァイスは何かが吹っ切れた様子で、

「わからなければよろしい! 皆様、一斉にルネックへかかりなさい。遠慮はいりません、私が『いくらでも』回復しますので!」

 と、号令を轟かせる。


 ヴァイス軍の者達は皆、疾風怒濤にルネックへと駆ける。


「野郎共、盾!」

 ルネックはこの乱雑さと酷薄さが混ざった短い命令で、味方に自分を守らせようとする。

 だが彼らはヴァイス軍を止められない。正面の気迫と、背面の威圧に板挟みにあい、もはや彼らの戦意は皆無になっていた。


「チッ、どいつもこいつも舐めた真似しやがる……なら俺が、直々にお前らを圧倒してやる!」


 怒髪天を突くルネックは、両手のハンマーにビビッドブルーのオーラを纏わせ、

「【RB(リヴァーバレーション)・インパルス】!」

 間近に来たヴァイス軍を、強烈に殴り飛ばす。


「それがどうしたァ!」

 ゲイルリンドは飛んで来た味方を風で払い除け、【RB・インパルス】発動直後の、その他の反撃手段を持ち合わせていないルネックの懐に潜り、


「【覇導の拳】ィィッ!」

 猛り狂う竜の如き竜巻を帯びた正拳突きを、思い切り叩きつけ、ルネックを後方へ豪快に吹き飛ばす


 ゲイルリンドの背後には、ルネックへ剣先を向けるオルディッツが、あらかじめ回り込んでいた。

「生憎私は、あまり豪勢な技は好きではないので……【ウォーター・バレット】」

 オルディッツは水の弾丸を一発のみ撃ち、【Dt-Do】の効果の元、正確無比にルネックの脳天を射抜く。

 そして彼は、呆気なく消滅エフェクトとなって消えていった。


「あれれ、ついさっきまでは騒がしかったのに、もう終わったのかよ」


「遅れて申し訳ございませんわ、ヴァイス様。残党掃除に思ったより手こずってしまいまして……」

 

 外のスベラゼルカ軍を抑えていたノルガードとカオン達が、城内のヴァイス軍と合流する。


「別にいいです。私たちも今さっき片付けたので。さ、では一緒に参りましょうか……この反乱の首謀者を倒すために、かの本丸へ」


 残る敵は首魁、スベラゼルカのみ……ヴァイス軍は【防音の城】本丸を包囲した上で、有力者を束ね、攻め入る。

 ガイオン、アーツォニッカ、ユーキナミト、ルネックら『四天王』は既に敗戦し、内部には僅かな護衛しか残っていない。

 ヴァイスたちはそれらを簡単に蹴散らし、本丸の最上階の大広間に辿り着く。


「……ヴァイス。ミレアの英傑たるお前にしては、異様に遅いな」


 化神官に在位していた頃を思い出させる、荘厳な鎧に身を包むスベラゼルカが、武人のように泰然たる体で奥に腰掛けていた。


「お待たせしてすみません。あなたのため……いや、大体自分のために仕方なくお付き合いしている輩を黙らせていましたので。それで、降伏する覚悟は出来ていますか……」


「出来るものか……俺はこのミレアの長として返り咲くと決めたのだ。俺にはお前のような大義名分はまるでないのはわかっている。だが、かつて化神官だった者として、ただむざむざと負け犬になるのは、御免だ! ヴァイス、だから俺は貴様を倒すと覚悟しているのだァ!」


 スベラゼルカは左手に持った注射器を己の首元に突き刺す。


「オルディッツ。あれは何かわかりますか……」


「私でも調べられません。となると……あれは……」


 注射器の中身――スベラゼルカが自力で製造したジェネリック【Dt-Do】を空にするや否、彼は左手に盾、剣を握り、

「見ぃせぇぇぇてくれるゥッ、誰がこのミレアの頂きに相応しいかォォォーッ!」

 その目に面妖な桃色の光を宿し、突風に乗り、ヴァイスに斬りかかる。


「防御部隊、前へ【ディフェンス・コール5】」

 防御力に自信がある【重装士】などで構成された部隊が、ヴァイスより防御力バフを受けつつ、前線で隊列を組んで構える。


「私もお力添えを致しますわ。【セイクリッド・ガード】」

 さらに彼らの前にカオンはバリアを張る。


 そう来るとわかっていたと言わんばかりに、スベラゼルカはタイミングよくバリアを飛び越し、その裏にいる部隊を、剣を一振りして全滅させる。


「ほう、私が防御力を上昇させた者たちを、こうもあっさりと……」


「死に晒せェェェッ!」

 続けてスベラゼルカは、竜巻を帯びた剣をヴァイスへ向けて迫る。


「僕がいることを忘れるなっての!」

「やらせるものか、スベラゼルカ!」

「止まりなさい。【レイン・アローズ】!」


 ノルガードの斬撃、ゲイルリンドの打撃、オルディッツの水の矢の雨が、突撃するスベラゼルカへ同時に繰り出される。

 スベラゼルカは盾を構えると少し上に向けて構え、前方と上方を守る風の壁を作り、三人の攻撃を止める……だけでなく、それら全てを放った本人に跳ね返す。


 現在のミレアにおける、五指に入る実力者である三人は、総HPの七割前後に当たる大ダメージを受けてしまう。


「こうなれば、私が止めますわ。【セイクリッド・フィールド】!」


「私も助力する。【ディフェンス・コール5】!」


 カオンはヴァイスの補助を受け、より強固になったバリアを、自身とヴァイスの周囲に展開する。

 スベラゼルカはこれに竜巻を帯びた剣を突きつける。

「これだけの力を得ても、貫通しないかァ……ッ!」

 だが、全く突き刺さらず、カオンの【Dt-Do】の効果による、ダメージ反射を受け、一時後退する。

 

 この瞬間、ヴァイスは、スベラゼルカの力の正体を確信し、フッ、と鼻で笑う。


「何がおかしいのです、ヴァイス様?」


「……『風属性エネルギー放出』、『敵の行動予測』、『防御力無視』、『バリアによる防御でダメージ反射』。これが奴の能力です……そう、貴方たちの真似ですよ。これで反骨精神を見せてくるとは、九割方馬鹿げています」


 ヴァイスはカオンに頼み、バリアの外へ出る。そして、周囲にいる自軍へ、言い放つ。


「やはりスベラゼルカは恐れるに足りません。他所の栄光にすがり、己の力のみで這い上がろうとしない……腑抜けという言葉を使いたくないくらいの腑抜けでございますから!

 さぁ、知勇ある皆様よ、私とともにスベラゼルカを一息に潰して差し上げましょう! ご安心を、まだ不安があるのなら、私が支えます! 【命神の恩寵】!」


 ヴァイスは杖を掲げ、味方全員に桃色の光を与え、彼らのHPを全快・ステータスを二倍にする。


「その忌々しい技を、復帰後の戦で使うか。やはり貴様は変わらないか、ヴァイ……」


「大した行動を起こさずに御託を並べ続けるあなたも、全くして変わってないでしょうが」


 士気も戦闘力も十全に高まったヴァイス軍は、スベラゼルカ一点へとひた走る。


 スベラゼルカはジェネリック【Dt-Do】で得た能力を最大限に活用し、抵抗する。

 だが、もはやヴァイス軍の士気はそれすらを上回り、破竹の勢いで猛攻を仕掛けていく。


「【ライフ・コール5】、【ディフェンス・コール5】、【アタック・コール5】!」


 さらに、ヴァイスが徹底的かつ全力で援護をしているので、もはやスベラゼルカは、自身の能力ではどうともできない劣勢に追いやられていった。


「ヒヒヒッ! この一刀を防いでみやがれ!」

「私の鉄壁、破れはしません!」

「俺の拳が元、吹き飛べ、スベラゼルカッッッ!」

「もうあなたの負けは、秒読みなのですよッ!」


 特に、ノルガード、カオン、ゲイルリンド、オルディッツ……【五造】の四人の奮戦は凄絶の一言に限る。

 スベラゼルカは、彼らの攻撃を食らう度、自分の無力さをひしひしと感じざるを得なくなっていった。

 その感情に連動するように、スベラゼルカが接種したジェネリック【Dt-Do】の効果時間が、切れようとしていた。


 もう、勝利は叶わない。だが、敗北は認めない。

 なんせ自分は他国の人間を頼るという惨めな思いをして、あれだけ軽視していた城を拠点とし、『打倒ヴァイス』の決意をして、この場に立ったことを、無駄にはしたくないのだから。


「ヴァイスゥゥゥッッッ! これが俺の、正義ダァァァッッッ!」

 スベラゼルカは、乾坤一擲に剣を投げる。その軌道の先には、ヴァイスがいた。


「……ふん」

 ヴァイスは、得物の杖を華麗に回し、すんなりと剣を弾く。

 そして、彼の足元に剣が突き刺さる音が、無情に鳴った。


「残念ながら、私は護身用に杖術をかじっていまして、このような粗い攻撃を防ぐなど造作もないことなのです」

 と、ヴァイスが言った直後、スベラゼルカは四人の攻撃を同時に被り、絶命する。


「過去の権力者、スベラゼルカ・シーボル、ここに敗れたり……ただ、ここまでの大乱を起こした『やる気』は褒めますとも」


*


 ミレア首都【純都】、【キトァミァ神殿】の大会議室にて。

 五造を始めとする国の幹部たちを前にしながら、ヴァイスは告げる。


「此度の皆の活躍により、反逆者と無法者を征伐し、私の復帰を華々しく飾ることが出来た。私は心より感謝する」


「「「「ありがとうございます、ヴァイス様」」」」


 ヴァイスは平伏する幹部たちの頭を上げさせた後、すぐに本題に入る。


「さて、今回は皆様に話しておきたいことがあります。それは、『次の【八神会議】と、それ以降の私たちの動向』についてです」


 八神会議――約半年前、ミレアの覇権が遠のいた原因となる言葉を聞き、場がどよめく中、ヴァイスはさらなる因縁深いワードを出す。


「ネロア・ルォーナピアナ。忘れてはいませんよね、私たちミレアの宿敵の名前を」


【完】

■キャラクター紹介

【ルネック・ウィーゴー】

 分類:プレイヤー

 所属:音国エホシャドチグパ

 レベル:62

 ジョブ:【騎士】


 かつてエホシャドチグパにいた化神官、ルーベルクの後を継ごうとしている少年。自然にスベラゼルカ四天王に列していたプレイヤー。

 憧れているルーベルグから仲間に対する優しさを抜いたような凶暴な人物。


 エホシャドチグパの【騎士】は、コンボ数を稼ぐにはちょうどよく、物理攻撃力と素早さが順当に伸びやすい。無難に使いやすい性能をしている。

 ハンマーの二刀流で、一度打撃を与えたものに、時間差で衝撃を炸裂させるスキル【リヴァーバレーション・インパルス】を多用する戦法を取る。

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