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ロジスティクス・サーガ ――死せる神と、外道の正義――  作者: 都P
CHAPTER8 化神官たちのパラべラム
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92.リターナー・ファイブvsリベンジャー・ファイブ

 南の海岸より吹く潮風を常に浴び、ところどころ現在の住人に修繕された石壁。ついでに、配置が乱雑な防御機構。


 ここは防音の城。命国ミレアと音国エホシャドチグパの国境に、ミレアが南を見張るために建てた防衛施設である。


「懐かしくも、忌々しい……です」


 ミレアの化神官、ヴァイスとその軍勢300万は、数キロメートル北より、その城を観測していた。

 彼らは討伐軍だ。防音の城を拠点として不法占拠し、権威復活を狙うミレアの元化神官、スベラゼルカを討伐する軍だ。


 隣のカオンは久々に再会して知った、城の変わり果てた姿に唖然とする。

「全く、つくづくスベラゼルカの阿呆は下劣ですわ。私たちの聖地をあんな品のない拠点にするなんて」


 オルディッツは双眼鏡越しに、城の現状を探る。

「機国イズセラ、術国イペファワエゼ、音国エホシャドチグパ……各国の品々が寄せ集められてます」


 その話にゲイルリンドがついてくる。

「先の報告の通り、スベラゼルカは反ヴァイスの者だけでなく、各国の追放された者を集めています。あの闇鍋じみた装備は、それが由来でしょう。それとこれに関連して」


「これに関連して?」


「あくまで噂ですが、スベラゼルカはその放浪者の中から四名を選りすぐり、『スベラゼルカ四天王』なる集団を、我ら【五造】に対抗して作っているとのことです。くれぐれもご警戒を……」


「ありがとうございます。ゲイルリンド。さて、もう少し軍を寄せますよ、皆様! ……スベラゼルカ四天王、はたして内実はどうなのでしょうか」


*


 防音の城の本丸にて。


 スベラゼルカは四天王を招集し、軍議を行っていた。


「ヴァイスが我々の征伐を始めたという報を聞いてから早二日。それまでに準備は整えたな、皆様」


「ああ、魂込めてしておいた」

 そう答えたのは、青色のコートの落ち着きのある青年――ルネック・ウィーゴー。

 かつてのエホシャドチグパの化神官、ルーベルグが引退した直後、彼の残存人員をまとめて、次の化神官に成ろうと試みた。しかしあの『武力衝突よりも音楽ライブを優先し、国民を盛り上げた歌手』に大敗。

 現在は勢力を大きく削がれ、音国の辺境で細々と海賊業に勤しんでいた。


「ほう、魂を込めてとな……」


「ああ。なんせ俺は、スベラゼルカさんに拾われた恩を返し、ルーベルグさんの意志を継ぐんですから。一切妥協しない。スベラゼルカさんの大義にガッツリ乗っからせていただきたいのでね」


「素晴らしい! 他の方々も、同樣に出来ているだろうな?」


 他三人の四天王メンバーも、スベラゼルカの問いに肯定する。


「ようし、これだけの勇士がこれだけの気概を持っているんなら勝てるぞ――俺がヴァイスを倒し、ミレアの化神官に返り咲けるぞ!」


 と、ここでスベラゼルカの元に、伝令が慌ただしく駆けてくる。


「ぜぇ、ぜぇ……報告! ついにヴァイスが、この城に攻撃を開始! ただ今前衛部隊が交戦中です!」


「来たか! では皆様、我々の全力を奴らに浴びせてやりましょう!」


 スベラゼルカは拳を天にし、高らかに叫び、周りを奮い立たせる。

 他の三人もそれに続き、雄叫びを放つ。


「……い、痛い!? 何ですか急に!?」


 その時、ルネックはそのノリに同調せず、伝令の頭を近くの適当な柱に叩きつけていた。


「お前、さっき『ただ今前衛部隊が交戦中』と言ったな……もっと早く報告することは出来なかったのか、なぁ!?」


「ま、誠に残念ながら出来ませんでした! なんせヴァイスの進軍速度が早くて……」


 ルネックはもう一度、伝令の頭を柱に叩きつける。

「お前はヴァイスへの反乱軍だろう!? ならそれを上回る気で働くのが義務で、出来て当然だろうが!」


「ひ、ヒィィィ! お許しください、ルネック様!」


「許すものか。こんな雑な仕事をするということは、貴様は俺たちの目的を根っこから軽んじているってことだろう……! 絶対に許すものか!」


 ルネックは仲間にチャットをかけ、三十秒以内に、普通なら必要のないパーツにまで金属が多量に使われた太鼓を持って来させる。


「丁度いい階段があるじゃないか」


 怒り心頭のルネックは伝令を階段のそばで仰向けにさせ、ドスンと重たい太鼓を腹に落とす。


「ぐふぅ!?」

 伝令にとって、これだけでも十分『罰』になりうるが、ルネックの怒りはまだまだ収まらない。


 彼は得物である一対のハンマーを両手に持ち、これで太鼓を叩き始める。


 当然ながらこの衝撃は、太鼓を通じて伝令に伝わり、彼に苦痛を与える。


 流石にこれはやりすぎだろう――伝令の事を心配して、スベラゼルカはルネックを止めに入る。

「もうその辺にしておけ、ルネック殿! このような小事で仲間を痛めつけても何も生まれません!」


 ルネックは片方のハンマーを、スベラゼルカの目前で、思い切り空振りさせる。

「やかましいわ! 俺の演奏を邪魔するな! さもなくばお前も同樣に処すぞ!」


 ルネックの怒気に圧倒され、スベラゼルカらは何も出来なくなる。


 そしてルネックの演奏という名の折檻は二分弱続き……

「うらぁ!」

 最終的に伝令は、太鼓と共に蹴飛ばされ、階段を転げ落ちさせられた。


 この残虐なルネックの振る舞いを見て、

「キヒヒ、これは凄まじい余興ですこと……」

「ルネックさん。俺自身も暴走は好きだが、これは程度を外していると思うぞ……」

 と、他の四天王も彼の凶行に、各々反応した。


「やかましいわ! お前らに俺の何がわかる! 俺の憧れの存在にして、先代の化神官であるルーベルグさんは、仲間に対して甘かったために、大勢の離反を招き、没落したのだ!  だから俺はこうしてたるんだ仲間を徹底的に『指導』する……仲間の結束を固めるのだ!」


「ははぁ……そうか。さっ、では皆様、会議はこれくらいにして、ヴァイス共と応戦しようか」

 

 スベラゼルカは苛烈なルネックを突き放すように、四天王を出撃させた。


*


 防音の城、南部では、ヴァイス軍とスベラゼルカ軍の激戦が巻き起こっていた。

 一人一人の質と連携力はヴァイス軍が上回るものの、闇鍋染みた混成軍団であるスベラゼルカは個性の幅、人員の数を活かし、敵に戦局を支配させない。


 また、ヴァイス個人にとって、スベラゼルカ軍は一つ、厄介な物を持っている。


(やはり、【命神の恩寵】が効かない……スベラゼルカめ、対策したな)


 ミレアの化神官、ヴァイスのスキル【命神の恩寵】は、ミレア・プレイヤーに『体力全快・全ステータスニ倍』の効果を与える強力なもの。

 だが、これを当人の素質以上に重ね掛けすると、生命力が溢れて爆発するデメリットがある。


 しかしヴァイスはこのデメリットを『どうでもいい人員を爆弾代わりに使う』、『抵抗する同国民を粛清する』などして、有効に逆利用した。


 それが今回、スベラゼルカ軍内にいるミレア・プレイヤーには効いていないのだ。


「オルディッツ、奴らのステータスか装備品に、【命神の恩寵】を防ぐ物はありましたか?」


 オルディッツは自分の【Dt-Do】による、『周囲の人物の情報・状況・行動を調べる』能力を用い、ヴァイスへの解を出す。


「はい、皆『補助無効』の状態異常がついています。これが何由来なのかは、まだわかりませんが……ヴァイス様の代名詞が半分使えなくなったのは確定事項です」


「ご報告ありがとうございます、オルディッツ。ならば、それはそれでよしとしましょう……今回の戦いにて私が、かつての恐怖政治の象徴たる【命神の恩寵】を使わない理由になりますから」


 かくてヴァイスは、【命神の恩寵】による爆殺を完全に諦め、持ち前の指揮能力で後援し、自軍を勝利へ導いていく。


「カオン、ノルガード。これよりここ、南部の戦地と、約290万の軍は貴方達に預けます」


「私たちが陽動となり矢面に立っている間、ヴァイス様、オルディッツ殿、ゲイルリンド殿とその他精鋭で、城を急襲する作戦ですわね?」


「その通りです。お任せ出来ますか?」


「もちろんですわ。ミレアの盾として、役目を果たさせていただきますわ」

「どうぞ行ってくださいな、僕がありったけ斬り刻んで、敵軍を釘付けにさせてやるからさぁ!」


「了解。ではオルディッツ、ゲイルリンド……拙速かつ慎重に、参りましょうか」


 ヴァイスの別働隊は、秘密裏に防音の城の側面へと向かう。

 カオンとノルガードがより一層と、スベラゼルカ軍に攻撃を仕掛け、彼らを威圧する。


「ひぃぃ! アイツら強すぎる!」

「おい、もっと城内から援軍を呼べ! さもなくば戦線が危ない!」


「陽動――それが僕達の役目だったけど、なんかこのペースでいったら僕たちがスベラゼルカをぶっ飛ばせそうじゃない、カオン?」


「油断は禁物ですわよ、ノルガード。あなたがさっき言った『スベラゼルカ四天王』とやらも、まだ姿を見せていませんし……」


 と、ここで陽動隊の前衛が騒々しくなる。


「れ、列車が! 線路がないのに列車が走って……突っ込んでくるぞ!」

「ああ熱い! 何だこの火魔法、半端ない威力だ!」


 騒ぎを聞きつけたカオンとノルガードは、周囲に目をやり、その原因――陽動隊の右前と左前から襲撃した強大な存在を察知する。


 右側より来たのは、鋼鉄の列車。それは線路無き道を走り敵味方問わず撥ね飛ばした後、変形し、人型となる。

 

 左側より来たのは、炎の魔法使いたち。その筆頭は、炎のような複雑な凹凸がついたとんがり帽子と、視認性があるのか全くわからない真紅のモノクルが特徴的な魔女であった。


『ハァーハッハァッ! 見るが良い、全ての概念を暴走にて追い越し、轍に変える、技術の臨界点の超越者! スベラゼルカ四天王の一人、ガイオン・マキシプレス! この【暴走鋼王 ガイオンライナーFINAL】と共に貴様らを轢き潰す!』


「アタシはアーツォニッカ……元【烈火の学級長】でございます。この命国で再点火するために、一花咲かせて差し上げてやりましょう……!」


 一方その頃、防音の城の内部では、奇襲隊が、城内を荒らし回っていた。


「【アタック・コール5】、お願いしますよ、皆様」


「【穿導の拳】!」

「【スラッシャー・ウェイブ】」


「ぎゃあ、助けてくれ!」

「あいつら、ただもんじゃないぞ!」


 こうなるのも無理はない。なんせ彼らはヴァイスが統率する、オルディッツ、ゲイルリンドを含めた精鋭部隊――スベラゼルカ軍が為す術なく城内を制圧されていくのは、当然の帰結だった。


「……思ったよりも兵が少ない。オルディッツ、周囲の状況は?」


「それなりにはい『た』ようです。が、外の方を優先したせいで、今は大勢が出払っています。城内の残存兵は、中央にある本丸の警護にあたっているようです」


 ゲイルリンドはオルディッツに聞く。

「スベラゼルカはそこにいるのですか?」


「恐らくは」


「なら、ただちに、そちらにお邪魔するのが正解です……かね? オルディッツ、ゲイルリンド」


 オルディッツは首を縦に振る……最中に、ブンブンと横に振る。そして、

「【ウォーター・バレット】、十二連」

 自分達目掛けて放たれた、飛竜が如き勢いの矢を、水の弾丸で相殺する。


 ゲイルリンドも、

「【抗導の拳】!」

 空気の壁を作り、憎悪と怨恨を込めて振りかざされたハンマーを受け止める。


「ハハッ、まーた防がれたか! よぉ、久しぶりだな、ヴァイスさんよ! またまたスベラゼルカさんからの依頼で、ミレアに来たぜ!」

 と、竜のような角を生やす、弓を携えたプレイヤー――スベラゼルカ四天王の一人にして、災国カメセスコアの【射手星竜】、ユーキナミト・ロゼリアは飄々としながらヴァイスに挨拶する。


 同時に、

「おい聞いてるか……ヴァイス、ヴァイス、ヴァイスゥッ! 三年前の禍根、同胞の滑落、ルーベルグさんの無念! 全てを雪ぎに来たぞッ!」

 スベラゼルカ四天王、ルネック・ウィーゴーは、深海よりも深い怨念を一音一音に含めるように、凄まじい剣幕でこう言った。


【完】

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